リャンテンキュウシ
[遡って数時間前]
『助っ人は一人だけだけど、お手伝いさんはいないなんて言ってないのにゃ~』
外からの映像にそう告げられた瞬間、部屋の中に隠れていたブロワーが弓を構え、
「【愛惹き共飛射】」
光が部屋を包むとステンドグラスを割って外へ飛び出し、さっきまで部屋の中にいた三人の姿は無くなっていた。そして、誰も居なくなった静かな部屋の中で割れたステンドグラスは巻き戻る様に修復され始める。
部屋から飛んで行った光の塊に視点を戻すと、それは聖都の城壁を越え、十数分程の時間を掛けて数十km先の山の麓へ飛行した後に二つに分かれて墜落した。片方は双子━━ラブリンス兄姉。もう片方は全体的に桃色のハートを全身にあしらい女性らしさをふんだんに盛った鎧を装備した女性━━メリッシティアルマ・イテルルクトゥス。
「お前、俺達の邪魔をしたあの男の仲間かよ」
「あいつ同様になんの考えもなく邪魔してさ、一人で私達を倒せると思ってるの?」
「ふむ。私の見立てでは勝率は五分五分五分程でしょうか。貴殿方が見せていない武器や防具も含めて」
「はあ?嘗めてんのかよ俺と姉さんのコンビネーションに一人で立ち向かうってんだぞ?」
「私と兄さんで1+1とか思ってるの?あり得ないでしょ。10倍以上よ10倍い・じょ・う」
映像に映っていた時からずっと繋いでいる双子の手が離れる。離れた右手と左手の間には鎖が架かっており、二人の距離が開くとそれに合わせ長く伸びた。そして兄━━ジェミニオン・ラブリンスが大きな突撃槍を持ち前へ。その後ろで姉━━ジェミニス・ラブリンスが魔法の準備を始める。
それに対して彼女は短弓を五射、剛弓に持ち変えてスキル込みを一射放つ。最初の五射がジェミニオンを襲い、それを迎撃している間に後の一射がジェミニスに向かう。
「嘗めんなって言ってんだろ!」
五本の矢を弾いたジェミニオンの姿が一瞬のうちにジェミニスに変わり、スキルが乗った矢を弾き飛ばす。そしてジェミニオンの変わりに前に現れたジェミニスから上位スキルに匹敵する魔法が放たれる。
しかし、彼女の体が一瞬にして消えて魔法は彼女がいた場所に着弾するだけ。そして矢をつがえた状態で離れた場所に居た彼女が技文字を撃ち出す。
「【愛矢弖射】【三点速射】」
弓から放たれた一矢が三本に分かれ眼、肩、足へとそれぞれ違う軌道で向かうが、ジェミニスからの魔法で全て打ち落とされ彼女への追撃も行われ、それに合わせてジェミニオンからも攻撃が迫る。だがその攻撃は弓の弦を弾いた様な音と共に姿が消えた彼女には当たらない。
「ふぅん、それ、その鎧ってもしかしなくても黄道武装だね」
「黄道武装を知っているってことは、貴殿方も持っていて、見たところその鎖ですね」
彼女の背に鎧から広がっていた翼のような弓が閉じ、鎧に付いている射手座の印が光によって浮き上がる。そして兄姉の手枷にも存在している双子座の印が瞬間浮かぶ。
その武具はとある条件下でしか入れないダンジョンの高難易度クリア報酬、通称『星座迷宮』の黄道武装。そんな武装が弱い筈もなく他のブロワー達も喉から手が出るほど欲しがる者も多いが、黄道武装は所持数制限が有り一つしか持てず、資格が剥奪されない限り失うことはない事から奪うことも出来ない。逆説的に売ることも出来ない。故に羨ましがられるが略奪系PKからあまり狙われることはない。
「それでも、俺達の黄道武装がわかった所で負けはしないけどね!」
「こちらも負けはしません」
彼女が拳を握った瞬間、腕に弓が形成され弦の鳴る音と共に地面にその拳が叩き付けられる。その衝撃で地面が揺れジェミニオンが吹き飛ばされ、彼女の周囲に土煙が漂う。
「こっちの視界を塞いで時間稼ぎってわけ?」
「その程度なら微風で簡単に━━ッ!?」
魔法を発動させようとしたジェミニスの顔に一筋の線が走る。とっさに回避したが一瞬の出来事だったため、顔を掠めただけだが傷が付くと言うことはジェミニスの防御を突破できる威力と言うことの証拠である。そして更にそれが2発。土煙が抉れるようにして消えるとそこから放たれる射に対しジェミニオンと入れ替わる。
「【並ぶ突出なる刃】【重双次】」
「【双援侭】【風双刃】」
突撃槍から大剣の様に変わった武器に技文字を発動。武器に追従して動く何枚もの刃を振り回し撃ち出される見えざる物に叩き付ける。そして準備していた魔法に強化を重ねて土煙の中に居る彼女に向けて放つが、土煙を貫いて迎撃する矢に砕かれる。だが、余波で舞っていた煙が薄く晴れ弓をかまえる姿が見えるようになった。
「【愛矢弖射】【遊弓の戯れ愛】」
技文字を唱え弦を弾いた瞬間薄まっていたつちけむりの一部が薄まり小さな粒の弾丸が無数に放たれる。それらは様々な軌道で双子に迫る。高速で放たれたそれに対し双子も反応してジェミニオンの方へ二人を繋ぐ鎖が縮むとジェミニスが手を向けて防御魔法を出す。
「【重双無塵】」
魔法に触れた弾丸がその形を無くして消滅する。土煙を素材に弾丸を生成し撃ち出しているが防御魔法に触れた瞬間、対消滅の様に防御魔法の一部と共に消える仕組み故に有限同士のぶつかり合いだが総量の少ない彼女の方が先に尽きる。弾丸にする土煙が晴れ、弓を構えている彼女が次へ切り替えるその瞬間を狙ってジェミニオンが両手の指に挟んだダガーを投擲すると共に突撃する。
「【幻量重加】喰らい、やがれ!」
次々と投げつけられるダガーを冷静に打ち落とす彼女の矢の間を縫って至近距離まで近づき、その目の前で技文字により投擲物の量が視界を埋め尽くす。
「姉さん!今だ!…………姉さん?」
「貴殿方、戦い方が足りませんね」
「お前!姉さんに何をした!」
一瞬だけ振り替えるジェミニオンが捉えた姿は、喉を押さえて苦しそうにしている姉ジェミニスの姿。それを把握したジェミニスが回復アイテムを取り出し、大量のダガーを掠り傷だけで避けた彼女に突撃槍で詰め寄る。
「貴殿方が足りないから起こった出来事ですね。彼女とのコンビネーションで勝ってきたと思いますが、それゆえの見落としです」
「なにがたりねえって言うんだよ!俺達のコンビネーションは抜群なんだよ!」
「いろいろなものが足りません。戦略性、武装の特性把握、見えない場所に対する浅慮、優位性の確保、己の謙虚さ、相手の観察。そしてなにより、『愛』が足りません!!」
突撃槍を回避した隙に二人を繋ぐ鎖を掴むとジェミニスの反対方向に弓を向け弾くと、鎖が勢いよく放たれ繋がっていたジェミニオンと共に逆側の岩壁に突き刺さる。
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[一方その頃(城壁外逃走後)]
「よーし、試運転明けのワシの最高傑作の偉大なる巨大ロボ魔神の本性能を今試すと……き?ってああああ!?」
「おうおう、良いもん持ってる奴居んじゃねえか。破壊された俳゛句の変わりに貰ってくぜ」
「うおぉぉぉ、やめてくれぇぇぇ!!ワシの魔神がー!!最高傑作の偉大なる魔神がぁぁぁぁっ!!」
5mクラスの巨大ロボが空から着地。製作者らしき天辺禿げの白衣を着たブロワーが意気揚々とコントローラーを握っていたが、頭の上にいつの間に立っていた仮面のブロワーが黒い髑髏を叩き付けると、その体表を覆うように次々骨が現れ巨体を呑み込んでいく。
「ん?なんだこりゃ。重要機関みたいなもの以外スカスカでハリボテと変わらないな。技文字でどうにかするタイプかよ」
「そうだよ!ワシ以外操縦させる気は無かったからな!」
「えっと、H&Hでテキトーにまとめ買いした中になんか良いパーツ無かったっけな」
「やめろぉぉぉ!!ちゃんと作るから!!外部発注もするから!!外見だけは!外見だけはァァァァッ!!」
エイジェンマ・フラグメント溢れ話
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|◎フ < 『星座迷宮』と『黄道武装』について
十二種類存在する『星座迷宮』と呼ばれるブロワー推奨特殊侵入条件迷宮。正式名称は『流転織り成す星幹迷宮』。
名前の通りに作られた迷宮のコンセプトは十二星座であり、攻略に挑める条件が複数当てはまった人物の内で条件達成の個数、レベルの高さの上から順に優先権が割り振られる。発生する日付が決まっていて各星座の期間内で百階層をゲーム内時間2日でクリアすること。
攻略失敗して死ぬと挑戦権没収、優先権後回しになる。時々ヒューマリアンが挑戦することもあるが、大抵挑戦権を放棄するか死亡する。百階層クリア者が出ると没収されない限り最大階層が九十になる。
報酬
十階層毎に星座モチーフの武具が更新されて行くので十二星座以外の武具も存在する。ギブアップも出来て最終更新階層の武具が与えられる。武具は階層の深さで強さが決まる。
例)髪の毛座(十階層)→白鳥座(五十階層)→牡牛座(百階層)
攻略条件(例 牡牛座
牡牛座生まれ(現実日付)、牛系モンスター装備、牛系モンスターの討伐数、意思堅固だったり勇往邁進などの性格、牛型のアバター、牛に蹴られた、踏まれた、噛まれた、仲良くなった等
その攻略報酬はモチーフが星座の物だが、六分儀がそのまま六分儀になる訳ではなく、六分儀の性質を持ったそのブロワーに足りない物になる。
籠手、具足、胴鎧、兜、盾、武器、装飾品で性能が一番弱い物を更新してやったぞ張りに与えられる。
例)『剣が弱いから強い奴が欲しい』→『わかった!お前取得履歴の中で籠手の最大性能が弱いから籠手やるよ籠手!』→【四則三典の籠手】攻撃範囲が伸びる→『糞がっ!』




