イタワリノミチ
[アテーシュ帝国:城内]
ゲーム内時間三日、現実時間18時間の間はゲームでは護送されているのみなので、何もできない時間を潰すために買い物に行ったら部屋の埃が気になり掃除。腹が減ったので食事。眠くなったので寝て起きると次の日になっていた。さすがにこの歳で徹夜は疲労が溜まるみたいだ。
さすがに到着しただろうとログインすると案の定馬車は止まっており馬も御者もいる気配はない。
「おはようございますにゃ~。今日の気分は健やか元気。雨音もないようなので天気も良い様子。さて俺はどうすればいいでしょうね?」
わざと声を出しながらストレッチを行い体の調子を見る。当たり前に変な様子にはなっていないようで、馬車内の様子が変わったことで外の見張りであろう人物が会話した後に走っていく感じがわかった。上に報告しに行ったのだろう。
ならそれが終わる前に黒星の欠片が無くなっていたのでステータスを確認すると【身】と【波】がレベル1になっていた。総合レベルが2と言うわけだ。ステータスもINTが1番多いが全体的に上がっていて、HPが倍の2000になっている。使用経験値でもレベルが上がるみたいだけど、さすがにあの皇帝との戦闘経験を毎日は辛いよ。
「出ろ」
「おや、その声はこの前の御者くんではないかにゃ~。ごめんなさいにゃ~。疲れる御者をしてたのにべらべら喋りかけて。でも少しくらい話してくれてもいいんじゃないかにゃ~?」
「『消音』」
いきなり魔法をかけられて声が出なくなった。呼吸はできるから空気が無くなったよりは波が伝わらなくなった感じかな? 【波】の衝撃も出なくなってるし。
「お前がやった来たら陛下の元に連れてこいと言われている。黙って枷を嵌めて着いてこい」
俺以外は話せるようになっているらしく、俺の側は口パクになるけど喋り続けていたら両腕を捕まれて強引に枷を嵌められた。そのまま枷に繋がった鎖を引っ張られてどこかに連れていかれる。
そのままつれ回されるのもあれなので色々と城内のあれこれ指差しながら楽しげな表情をして般若心経を唱える。そんな様子を煩わしげな視線をぶつけられながらだけど、なにも言われずに目的の場所らしき扉の前に到着した。
「陛下の御前だ。失礼のないように」
ニコッと笑顔を作ったのだがため息をつかれた。
扉が開かれ大きな空間は良く良く見るような様式美で構築された謁見の間だった。その奥の玉座にこの前戦った鎧の人とその他の鎧騎士がずらっと並んでいた。
一緒に来た騎士が玉座の数m前でひざまづいたので、真似しておく。
「よい、面を上げよ」
「はっ!」
皇帝からの許しで立ち上がったのを見て同じく立ちあがる。周囲には騎士の他にも宰相や秘書、文官のようなお年寄りもいる。多分お約束的にどこか見えない場所に控えてる人達もいるはず。
「御苦労だったベスティリーベ卿」
「勿体なきお言葉です」
「して、アラバスター。3日の時が経ったがこちらに付く決心は付いたか?」
問われたので未だに口パクになっているが口を開き適当な言葉を話しまくる。
「ベスティリーベ卿」
「陛下、この者道中からここに至るまで中身がないことばかりを喋っていましたので音を消しておりました」
「ふむ。ならば示せ。私に付くか否か」
おや、これ解いてくれないのか。解いた瞬間に放送禁止用語を大声で叫んでやろうと思ったのに。しょうがないから前と同じように舌を掴んで引き出して拒否をしよう。
「き、貴様! 陛下の慈悲をそのように嘲るとは! 我が剣の錆びにしてくれる!!」
「よい、リンドス卿。承知の上で問うたのだ。やはりお前はそう答えるとな」
「では陛下、仰っていた通りと言うことですか」
「ああ」
「かしこまりました。ベスティリーベ卿、その者を例の場所へ」
「はっ!」
例の場所とは? と聞こうとするけどやっぱり口パクにしかならないので大人しく鎖を引かれるままに連行されていく。
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[アテーシュ帝国:地下牢]
変な仕掛けを通ったかと思ったらずらっと並んだ牢屋の場所へ来ていた。な、何を言っているのか俺にも、って言うのをやっぱり口パクで遊んでいたが、鎖を引っ張られたので大人しく着いていく。ちょっと振り替えってみたけど入り口らしき物はなく、同じ並んだ牢屋の風景だ。夏秋が持ってた最初期のダンジョンゲームみたいだ。
「入れ」
「やったー! 夢のマイホー、あっ、喋れるにゃ~」
「これ以上お前に使うMPはないからな。……なぜ陛下はこの様な者を。いくら実力があるからと」
「入ったにゃ~」
「………………」
変なものを見る視線が刺さるが、弱っちい今の俺じゃ暴れても逃げ出せないから大人しくしたがってるのだが~?
煽るような顔を鼻で笑われ枷を外されると牢屋が閉まった。ベスティリーベ卿と呼ばれた騎士はなにも言わずに来た道を引き返して行った。
「おーい、ご飯はちゃんと出るんだよにゃ~? 捕虜に優遇をー」
「よお、新入り! ご飯は三食きっちり出るぞ。出るだけで美味くもないけどな」
「ハァイ先輩! 良かった。餓死は嫌だからにゃ~」
「はっはっは! お前さんブロワーだな? てかブロワーしかここに入れられるわけないがな」
斜め右の牢屋から手を出して振っている。と言うか牢屋だよな? 俺はちょっと不敬罪で入れられたけどあの人は何の罪だろうか?
「先輩さん先輩さん。拙者アラバスターと言う者だけどそちらさんはどんな罪で入れられたのにゃ~? ちなみにわたしは不敬罪にゃ~」
「おっと、これはこれは。俺の名はルパン。乙女の秘宝を盗んだ罪で御用となった」
「そうですかそうですか。乙女の秘宝を……。お巡りさ~ん」
「はっはっは、何をいっている。だからここに捕まっているではないか!」
「ありゃこりゃ失敬」
「「あっはっはっは~」」
「で、この奥の壁の大穴はなにかにゃ~」
ルパン(多分偽名)が話しかけてきたから後回しにしていたがさすがに一段落したから聞くしかない。目の前の牢屋にもあるどこに通じているかわからない大穴。廊下にある光源から差す光でも入り口から先が全然見えないこの大穴について。
「ああそれ? 普通にダンジョンだけど?」
「マジ!? なんでダンジョンが牢屋に繋がってんの! かにゃ~」
「ダンジョンが先か王城が先か。なんて言うけど調べたとこによると俺らみたいなブロワーを閉じ込めるために作ったらしいが14年前に作られたとか。αかβのプレイヤーが犯罪を犯したのかね。ログイン地点がここで固定されてんの」
「へえ……、俺が入れられてた護送用の馬車もログイン地点の固定だったからここの応用とかだろうにゃ~。このダンジョンって入ったらどうなるのかにゃ~?」
「普通にダンジョンだったぞ。ここにいる間は暇だから自由に入っても構わないらしいし得たアイテムを徴収することもしない」
「はぁ~、破格だにゃ~」
「でもそこからの道は一方通行で……」
「ちょっと行ってくるにゃ~」
「あ、おい待てって! ……行っちまったか~。まあ一旦入ればあとはわかるか」
早速装備しているアイテムを全部置いて大穴に飛び込んだ。
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[アテーシュ帝国:???ダンジョン 地下?階]
おや意外と整備されている。
入って最初に思ったのはそれ。壁に松明が掛けられているし床が固められている。ためしに指で掘ると指先の間接半分のところで掘れなくなった。材質とか変わった様に見えないがステ不足なのだろうか。
「そういうのは後回しにして、この文言は重要だよな~」
入ってすぐの壁にこのダンジョンの要項が書いてあった。
曰く、日に一度ならログイン制限のデスペナが無い。スタート地点は牢屋。レベル帯はランダム。ここまではヒューマリアンにも適応されるだろう。デスペナが死に変わるだけで。ただ1つ違うのは、この中に『限定文字』が隠されているってところだろう。別に狙わないから関係ないけどねー。
「まずはデスペナがないからかるーく探索でも
するか……?」
うわっ!? なんかいきなり顔が斜めに切り裂かれたんだけど安全祈願のお守りのお陰で命拾った。だけどこんなときに発動しなくてもいいじゃん勿体ない。
「で、俺ちゃんの命を奪ったのは、はぁい」
「ギチチ」
でっかい蟷螂でした。いや本来の蟷螂の鎌は捕らえる形だけどその鎌は超鋭いって主張しているんだけど。ほら松明の光反射して鈍く煌めいて怖いんだけど。
「目潰し式煙幕!」
蟷螂のデカい目玉に向けて【波】で強化した石を投げたが両のお手手にある鋭い鎌で防御された。だけどその膠着した一瞬が目的でその間に背後に全力ダッシュして距離をとる。
「レベル2に対してちょっと強すぎませんか? ほらずっとこっち見てる。ってそれは目の構造上当たり前かー!」
ちょっと上がった身体能力で引き離せはしないが追い付かれることもないので早さはそこまでではないのかも……。
「って、飛んできたぁぁぁぁああ!!」
「ギチチチチチチチ」
「うおぉぉぉぉお、持てよ俺の貯金」
先程より速い蟷螂の飛行速度に戦々恐々しながら見えてきた通路の先、開けた場所にヘッドスライディングで飛び込むと真横に転がって蟷螂をやり過ごす。
「うわぁぁ、素肌だからHPが少し削れたー」
「ギ、チチ? ギギチ」
「うわぁ、こっち見たよ」
一瞬見失ったために周囲を見渡した蟷螂はすぐに俺を見つけ鎌を振り上げる。
「よしこいよ! 俺は蟷螂なんぞメンガタカブトで何回も引き殺してるんだぞ。お前なんか怖かねえぞ!」
「ギチチチチチチチ、ツィッ!?」
1デス覚悟で戦闘に備えたがそれは第三者によって阻まれた。
「ぶもぉぉぉぉぉおおおお!!!!」
バトル・ロワイアルに飛び入り参戦した体高3mほどの口の端から火を吹く牙を生やした猪によって。
惨殺に加えて轢殺の可能性がログインしました。
エイジェンマ・フラグメント溢れ話
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┃◎フ < ブロワー用監獄について
どの国にも絶対に存在しているブロワー用の監獄はログイン地点を強制的にその場所にする他にダンジョンが付属している。ダンジョンの先は外の場合があったりボス部屋であったり様々であり、脱獄する方法はその外に出る場所を探し当てる他にもあるが現実的ではない。
その他にもそのダンジョンに入った歴代最高レベルからレベル1までのエネミーが出たり、罠の種類も豊富であるほかにも色々なアイテムが出るためわざと犯罪を犯して収監されるブロワーもいる。時々釈放をごねる人もちらほら。
ダンジョン内は基本的に弱肉強食なのでほとんど連携を行ったことはない。
猪「蟷螂美味しいです」
蟷螂「猪美味しいです」
鶴城「ワタシオイシクナイニャ~」