親友の戯れ
「はぁ~……、なんでバレたんだよ。まさか探偵とか雇ってないよな? 義母さんなら何人か従えてても可笑しくはないが」
継母からの説教をかわし終えた夏秋は、電話がかかってくる前に送ったメッセージからかなり遅れていることに気付き、フルダイブ用ゲーミングカプセルの中に飛び込むと起動させる。
彼のサーバの待機フィールドの環境はゲームセンターのレトロ筐体が並んでいる風景だった。その一つ一つが彼のプレイした記録であり、見渡す限り並べられてはいるがどれも称号と実績が数個程度であったりプレイ時間が一桁であったりがほとんどである。
『オカエリナサイ、ゴ主人』
「ただいまー、フック。今日は緑かい? イカすね!」
『設定シタノハゴ主人デス。今日ハドレニシマスカ』
天井のような高さから釣り下がっている工業用室内クレーン型AIが持ち主である夏秋に訊ねる。夏秋は淀みなく筐体群を飛び越え目的の前に座る。
「もちろんこれー! だって鶴城に薦めて来たからね。先輩としちゃあそのまま飛び込んでやりたい放題してるだろうし、今頃俺が居なくてにっちもさっちも行かなくなってるだろうし」
『イッテラッシャイマセ』
筐体のスタートボタンを押すと画面が光出し、瞬きした後には前にログアウトした地点のアルマティ王国ゼザイア砦の時計塔前に変わっていた。
彼の姿は長いポンパドールを真っ赤に染め、残りの髪を真っ黒にした髪型をしており、昔流行っていた、ゲーム内では未だに存在している真っ白な特攻服の両脇に龍と虎、背中に当て字が刺繍された物を装備しる。昔懐かしのヤンキー的姿だった。
彼はかけていたサングラス越しに周囲を見渡すが初心者丸出しの人物場所見つからない。
「ちょっとすまんけどそこの兄ちゃん」
「は、はヒィッ?!」
「ここらで弱いブロワー見んかったか?」
「い、いえ。見てません」
「そうかすまんかったな」
テキトーに捕まえられた人物はそそくさに夏秋、プレイヤーネーム『ナッツァー・キヨミツ』から離れて行く。友人は始めたばかりなので下手すると1日イン出来なくなってるかも知れないし、どこかへフラフラしているかもしれないので早めに手がかりを探し始め、まずは武具屋に入っていく。
「ああ、その弱そうなブロワーならうちで籠手買って行ったぞ?」
「マジで! それでそいつはどこに行ったんだ?」
「それなら店先の果汁水の店で買い物していたぞ。そっからはそいつに聞きな」
「ありがとオッチャン!」
足早に店を出て周囲を見渡すと店主が言っていた露店を見つけた。
「なあ兄ちゃん、白髪の籠手と盾だけ装備した奴がどこへ行ったか知ってるか?」
「は、はい。その人なら騎士様に引っ張られて行きましたよ」
「な?! 騎士にしょっぴかれた!?」
「はい。でも人違いとかだと思うんですよ。今日は戦争があった日なのであのブロワーさんじゃ役にたたないはずですし」
「そうだよなぁ、今日入ったばっかだし。ありがとよ、葡萄を一杯くれ」
「はい!」
幸運のラックレープと書かれた看板を見てナッツァーはそれを頼んだ。自分の記憶からラックレープという葡萄の特徴を引き出す。
「確かラックレープって巨大な房に沢山実っているデカいの粒の内に渋い奴があるってのだったな」
「はい。一房に1つあるそれは幸運を上げるらしいですが、それを当てた人を見たことないですね」
「俺もだよ」
友人が戦争に巻き込まれたらしいのは決定事項と言うことが判明したため、これからどうするか頭をひねり始める。後々から戦場に入ると他国の妨害を疑われ拘束去れるので近づくことができないため終わるのを待つか外で待つかの二択になる。
と言ってもまだ戦争中故に後者を選びログアウトし、先ほど見た待機フィールドに戻る。そしてすぐさま鶴城にメッセージを送る。死んでもログアウトしても待機フィールドに戻るため、その時に『お茶会』へ来るようにと意を込めてクレーンをつかい届けさせた。
「おっ、今日はスチームパンクが開いてんじゃん。ここにしよ」
『お茶会』━━フルダイブVRチャット『ワールドティーパーティー』の中にある個室フィールドから蒸気SFをモチーフにした喫茶店を選択、そこで友人達を待ち始める。
「チーッス、なになに? いきなひ呼んでからにー」
「よー、漸次道閃巧器。今日はスケスケエロティック美少女ボディか?」
「お前はいつまでも旧世代ロボットなんだな」
紅茶を飲んでいるロボットアバターの夏秋、ハンドルネーム『ナッツァーファウスト』がいるところへガワが美少女らしいが、いわゆるガラスで出来たようなクリスタルのアバターの漸次道閃巧器が入室してきた。
「まあ、今日呼んだのはあいつがエイジェンマ始めたからってわけで、あいつが中で変な巻き込まれしたせいで置いてけぼり食らったからログアウトかデスペナになるのを待つ暇潰しにテキトーにここ使ってる奴らに召集かけたわけ」
「へ、へー。あの必殺自己紹介ゲーム始めたんだ」
「ん? 漸次道それ知ってるってことはエイジェンマプレイしたことあるのか?」
「ん、うん、前にちょっとね」
「ほー。プレイヤーネームなに?」
「ひ、秘密ぅー……」
鳴らない口笛を吹き下手に誤魔化していると、扉から着ている服をぱつぱつにしたムキムキの黒人俳優が入ってきた。
「よーっす、漸助、ナッツァー。どしたの? エイジェンマの話だよな? オフ会開催日とかじゃなく」
「そうだよクレン。てかそのアバターどうしたんだよ。前の鯖味噌ヘッドどうした」
「アプデしたらなんか競合してクラッシュした。製作者が引き抜かれたから新しいのも対応したのも出てないんだよ」
「掃除道具マンは?」
「ラバーカップの足音がウザくなったから捨てた」
扉から入ってきたマッチョはクレインジョーとなっている。夏秋の友人、鶴城のアバターだ。無駄にマッスルポーズを決めて答えている。
「他の連中にも声かけたんだろ? どうした」
「反応はないな」
「あたしの方にはブッチするって来てるけど」
「なして!?」
「わかる」
「わかんの!?」
他の知り合いにハブにされていることを知り、うじうじと膝を抱えてのの字を書き出す。
「で、俺のことで呼び出したんだよな? まあ、俺が変なのに巻き込まれたからなんだが」
「そうなんだよ! お前どこに行ってるんだよ。戦争だろ? 抜け出てこいよ」
「無理無理。やっさすぃ~団に保護された後に開戦したもんだからそこらからの流れ弾で死んでしまうわ」
「へ~。クレンでも死ぬんだ」
「死ぬぜ。ちょ~死ぬ。初期のHP1000なんてチップス菓子の増量くらいの誤差だぜ」
机の上に用意されているティーセットからお菓子を摘まんでいる。クッキーにスフレなどの焼き菓子に大福や羊羹などの生菓子が机の上ところ狭しと並んでいるのを口に放り込んでいく三人。
「で、いまどこにいるんだよ」
「さあ?」
「さあ? ってなんださあって!」
「だっていまなんか強制的にログイン地点が固定された馬車に乗せられてるから。窓ないし御者の人も日数以外教えてくれないし、そもそも大陸のどの辺だとか知らないからね」
「そうだった。最初はなにも知らない状態で入るんだったよコイツ」
「そうだね~。知識ない状態であたしが遊んでたゲームの攻略を三段階飛ばしてトップに来たからね~」
「それ知ってる。初心者狩りのPK連中に崖落とした奴」
「そうそれ。初心者が最初に行く場所に張ってて奥に着いたら最前線装備着こんで囲んでボコるって悪質な奴らの寝床にズドーンとね」
「いや、あれは俺も予想外だったよ。まさか誰もいないし使わないと思った崖の上で、初期武器の無限爆弾の性能テストしてたら崖が崩れて最前線装備がPKK報酬で経験値と共に入ってきたときはバグかと思ったよ」
「なにその運。俺にも少し分けろよ~!」
「無理」
「淡泊?!」
減っていく様子がないお菓子を食べていると漸次道の前にウインドウが浮かび上がった。
「どうした? 体調関連なら入る前に済ませておけよ?」
「すませてるよ。親からの大事メール。生活がとか彼氏彼女事情とかそんなとこ。で二人のキャラネーム何にしたの? 久々にログインしたくなったわ」
「教えねー」
「クレンが教えないなら俺もー」
「おーしーえーろーよー」
「そっちが先に教えたらなー」
「むりー」
クレインジョーが光っているボトルの飲み物を飲み干すと席から立ち上がる。
「俺まだ護送中で暇だから今のうちに買い物とか雑用するから落ちるわ」
「なら俺も落ちるわ。お前自由に動けるようになったら連絡しろよな!」
「あー……できたらなー」
「お、おい!」
ナッツァーの静止の声を聞かずにクレインは部屋から退出した。残っている二人は顔を合わせる。
「漸次道?」
「お疲れー」
「お前もか!!」
ゲーム仲間とエイジェンマ・フラグメントで長い間会えないことがわかった夏秋は前に決めていたことに取り組むと決めて肩を落としながら退出した。
現実溢れ話
」]
┃◎フ < 違う世界での彼ら
この世界はテクスチャのみから完全再現できているフルダイブゲームが蔓延っている。その影響か延長線かわからないが現実、虚構のどちらかに偏った才能が変な奴らが多い。
鶴城
オンラインをするときの名前とスタイルはその時々に決める。
10%くらいの確率で始めたばっかりのころに何か変なことが起こる。大半がオンラインゲーム。そのときのプレイスタイルやリアルラックで他にプレイしている人たちに恨まれたりしている。
称号と実績の蒐集癖があるが投げたゲームも多い。
アケコンとコントローラーの格ゲーとほぼ連打ゲーになるノベル系シミュレーションゲームが嫌い。
「↓↘→やってんだけどなんで↘入力入んないんだよ」
夏秋
名前はだいたいナッツァー。プレイスタイルはガンガン行こうぜ。
ジャケ買の銭失い。大半が個人企業が出しているほぼ同人ゲーと変わらないものが多いが、大企業にも勝るゲームを出しているところもあるのでそれの支援のために買っている(建前)。大半のジャケ買ゲームは鶴城のところに移動している。
ゲーム内マネーISパワー主義。大量に買って大量に失う。
戦略性シミュレーションゲームと脱出、推理ゲームが苦手でゴリ押しがほとんど。
「工具あるんならそれ使ってドア壊せよ」
漸次道閃巧器
豚風村、銃茨騎士などの当て字やダジャレ系の名前を使う。プレイスタイルは職業による演技。
当たりばかりのゲームがほとんどだが、たまに無料セールしているとこから気になったものをDLする。
音ゲーが糞
「いまの打てるかボケッ!」
他の友人に
マッコウクジラが上手いやつ
天然物の天然
姫プサークラネカマ
喋る言葉の殆どが規制されるやつ
のじゃロリ
がいるが今考えたので登場するかは未定