アチラガタツクライ
[アテーシュ帝国陣営]
我が国の占星術師は異界から来たりし者、『軍』『我』『欲』『運』『勇』『癒』『暴』を集めることができれば帝国は栄光に輝くといった旨を残し死んでしまった。私が皇帝の座に至ってすぐのことだった。
だが私は、歴代皇帝は信じていない。スキルで裏打ちされているかこの目で見ていないのでわからないが、我が国は私が強くする。占星術による予言など最低限の備えをする程度で十分である。予言で右往左往するなど愚か者のすることで皇帝のすることではない。
しかし、しかしだ。戯れに興じてみるのも悪くはないと思い、異界の者が十分に増えたところで隣国に戦を仕掛けてみることにした。するとどうだろう。彼奴らは我らとは違う力を持ち死なない体を持っているではないか。異界の者故か頻繁に姿を消すのはデメリットだが、それを差し引いたとしても我らが知らない知恵を持ち、蛮勇にも等しい行いは目を見張るものだった。故にその力量を考慮しそれから数度戦を起こし予言で言われたような力量を持つものを確保し、敵国の保有する異界の者に対しての札として手の内に収めことにした。
そして、目の前の雑魚だ。
「今のをかわすか」
「あ、危ないのにゃ~」
抜き打ちの斬撃を地面に伏せてかわした彼に対して、叩きつけるように振り下ろすと横に跳ねて続けてかわした。
新人と言っていたが異界の彼らにこちらの鑑定は効きづらく、レベルは見えないがステータスがオール10であることで嘘ではないとわかっている。
しかし異界の彼らはこことは別の世界でも生きていたことがあると聞いた。世界を越える度に最初からになってはいるが、知識と経験は持ち越せる故に来たばかりだろうと動ける奴等がいると聞く。こいつもその部類なのだろう。
「貴様、名はなんと言う」
「えっと、……まあまだFBワード持ってないからいいか。いやいや、名乗りが遅れてごめんにゃ~。ぼ~くの名前はアラバスター・ザット・ワン。どこにでもいる雑魚のお兄さんだにゃ~」
「ふん、今のを避ける奴が雑魚だと?」
「たまたまにゃ~」
怯えた振りをしているアラバスターの目はあちら此方に動いているが、確実になにかをしようとしている目だ。改めてAGI任せの一足で距離を詰め、横に一閃薙ぐと盾と籠手で上から押さえつけられその上を転がって避けられた。
「……ハァッ、ハァッ。ぎり、最低限ステだけどなんとか避けられた……」
「面白い曲芸だな。どこで覚えた?」
「鬼のごとき隠しバグキャラに一万回以上胴を割られたから自然とにゃ~」
「ならばこれならどうだ」
大剣に力を込め練習用に使っている連撃を使ってみた。するとどうだ。斬りかかる前にはすでに剣先の2歩先へ逃げているではないか。すでに剣と腕の長さを見ていたのか。やはり世界を渡ってきただけはある。
「や、止めて欲しいにゃ~。死んでしまうにゃ~」
「その心配は無用。『手加減』を使っているから気絶するだけだ。貴様、我が帝国に付け。その力を私が使ってやる」
「う? うーん……」
顔に手落ちを当て右左、上下に頭をいくつか振ったあと覆っていた手を下げ、
「自由が無さそうだからいやにゃ~」
舌を引き出すようにして断りの言葉を口にした。
そうか。
「そうか。なら最初の通り気絶させて連れていく」
「やっぱり拒否権なかったにゃ~」
今度はスキルを使った連続剣でアラバスターを切ると勢いよく横方向に吹き飛んでいった。
「かっかっ! 陛下の剣を何度も避けておったが、陛下が手を抜かなければこの結果は当たり前。流石は陛下!」
「黙りなさいリンドス卿! あなたの目は節穴ですか」
「なんだと?! あの者は無様に吹き飛んだではないか。ブラスタル卿こそ節穴ではないのか?」
「二人とも黙りなさい。ブラスタル卿、あなたは強く言いすぎです。リンドス卿、あなたは歳のせいか慢心気味の心を研ぎ直したほうがよろしいです」
「なんだと!」
そうだ。私は連続剣を使用したが当たったのは最初の一回だけ。その一回だけで奴は吹き飛んだのだ。
足元にある鍔が歪んだ剣を見て、側仕えの者に問う。
「あそこの天幕には何があった」
「あちらの天幕となりますとアイテムボックスから取り出した武具が常に使えるように準備がしてあったはずですが」
「なるほどな」
いまだ土煙が晴れない天幕の中、『目標補足』のスキルが奴の動きを大まかに伝えてくる。その天幕の中で物色をしているようだ。
「こんな中でも人様の物に手を付けるとは中々の度胸だ、な!」
大剣を振るうと巻き起こる風で土煙を吹き飛ばすと先の時と違って両腕共に籠手、盾、剣を装備した姿のアラバスターがまだ武具を漁っていた。
「えっと、まあ、ハンデと言うことで、ちょうだい?」
「良いが後で請求を共に渡してやる」
距離を詰め襟を掴んで中央に放ってやると慌てたようすで剣を抱え込み地面を転がって行く。HPが削れたようでアイテムボックスの袋から水薬を出し使用しだした。
「前門の皇帝、後門の騎士群。これは逃げれないにゃ~」
「諦めておとなしく私に付け」
「それはNOにゃ~」
「ならば気絶するまで叩くのみ」
「それは止めて欲しいのにゃっ!」
両の手に持っていた剣を投げ此方の手を塞ぐつもりか? ただ投げられているだけであり、簡単に叩き伏せることができるがその間にアラバスターが動き出していた。
「はっ、逃げるのは早いぞ? まだ貴様の力量は出しきってないだろう?」
「もう出してるにゃ~」
「なに?」
コツッと足にぶつかった物に視線を向けると、罅の入った煙玉が転がっていた。
「これか」
「バァイ」
煙玉から黒い煙が放出され周囲一帯に撒き散らされる。『目標補足』が煙玉のせいで切れ、奴がどこへ向かうかわからない。すでに移動していると思うが見えぬため先ほどと同じように大剣を振り回して吹き飛ば……。
「ええ~……」
大剣に衝撃があったと思ったらアラバスターの奴が足元で延びていた。攻撃のつもりで振るったわけではないのだが、ステータス差があるために当たり前にHPがなくなって気絶したのだろう。なんだかスッキリしない勝ち方だが、結果は同じだ。
「ふぅ……、皆も見ていただろう。アラバスターのステータスで今の状況に持ち込める者は異議を認める」
「陛下、あの者は最後なにを行おうとしたのでしょう」
「ベスティリーベ卿。どうせあの者は我が軍の武具をちょろまかしたのですぞ? 逃げる最後の手土産に陛下のエクスカリバーを盗ろうとしたに決まってる!」
「リンドス卿には聞いていません」
リンドス卿の言うことが本当であり盗もうとしたのならば、まず失敗していただろう。この剣、『必墜のエクスカリバー』や他のエクスカリバーは魔剣であり、所持者以外に使用できないと言う呪いがかかっているためである。他の剣ならいざ知らず、盗ろうとする人物は物知らずか阿呆であろう。
「もし、私の懐を抜けて逃げようとしていたのならば……」
「陛下?」
「いや、なんでもない。戦はここまでとする。此度集まった者たちは見知った者や弱き者、こやつ以外に先が余り見えぬ。これ以上は防波堤より我らの方に損害が出る。兵を引かせろ」
「「「はっ!!」」」
撤退の準備を始める彼らを後に皇帝専用の馬車へと向かう。
「あの者はどういたしますか?」
「いつもと同じだ。ブロワー用の馬車に入れろ」
「かしこまりました」
さて、アラバスターが力を付けた時どちらが強いか。と言ってもこちらとあちらでは成長の度合いが違うため今から考えても仕方がないか。こちらも鍛練せねば。
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[馬車:内部]
「…………」
失敗したみたいだ。意識あるのに体が動かないから『手加減』で気絶まで行ったかんじかな? 流石に死なないからって速度上げて無策で突っ込んだら負け全額ベットが順当ってことで。
「さて、気絶してる間なにしてようか? いちおうアバター体だから操作性確認しておくかな。逃げ回るばっかりで変な癖が最初からついてるのは勘弁だからな」
さすがに補助無しだと再現性がないな。ニンジャやサムライ時代の動きは今のステじゃ1割も動けない。今はどれに頼ればいける?
以前プレイしたゲームから様々に引き出しているが、あの時にステータスが揃っていたらどう立ち回るかしかここでの経験がないからにっちもさっちもいかない。
そんなふうにしてたら気絶が自然解消されたらしくウインドミルで起き上がってしまった。馬車らしき車内、座席がオミットされてるが狭い中で回るのは危険過ぎるわ。
「御者さん御者さん、貴方の行き先なんじゃいにゃ~」
「…………」
「無視は辛いにゃ~。反応してくれてもいいんじゃなかにゃ~」
「…………」
「なに? 目的地に付くまで無視するんかにゃ~。でもそんなんじゃ私の無駄話は止められないにゃ~」
「…………」
「で、だんまりなのはいいけどさすがにオイラの状況くらいは教えて欲しいにゃ~。HPが回復してるから手当てはしてくれたって訳だから罪人扱いじゃないってことでいいんだよね。いやぁ、しかし、その対応には助かった部分があるにゃ~。戦場からのパチリもんだけじゃさすがに賄いきれない状況だったわけで、ああそうだ、俺の行き先って牢屋の場合あるじゃん? こちらはどこの馬鹿者馬の骨鹿の角、見ず知らずの奴なんだから拘束するのが当たり前だろうから。で、その場合三食毎日出して欲しいな。その場合パン1つと塩スープだけでもいいから餓死しない程度には最低限用意して欲しいかな。ほら、死なない生き返る別にしてもお腹減るのはストレス、気分げんなりなわけでウォーターサーバーとか付いてるわけないから水だけで膨らませるっていうことが出来ないわけで。ねえ、聞いてるかにゃ~? 捕虜に対する扱いのことで聞いてるけど答えてくれないと本気のSPAMになりそうなんだけど。てかだれがゴミデータ連打鯖攻めじゃい! 君たちアテーシュの国でしょ行き先。アルマティで見た騎士鎧とは別の形だったし。てか、なんでぼくが皇帝と手合わせすることになったかも聞かせて欲しいんだけどにゃ~。それもだんまりってか皇帝周辺しか知らないってのもあるから占いとかその周辺? そういうの見たことあるから分かるけど他の国とかも知ってるかもってのが通説で、あ、ログイン、ここに来るときの地点がここに、てか馬車みたいな位置表示なんだけどこれって、やっぱ無視だよにゃ~。教えてくれてもいいじゃないかにゃ~。と言うかいつ着くの? 最低限日取りくらい「3日」教えてくれない、あれ、教えてくれた。いやぁ、最悪無人走行してるんじゃとかも考えてたんだけどちゃんと御者さんいて助かったにゃ~。無駄話が空鯖攻撃してるんじゃないかと思ったときあったけどちゃんと話してくれるなんて嬉しいにゃ~。で、さっきの捕虜の扱いの話になるけどにゃ~……━━━━」
それ以降(窓がないからわからないけど)夜営しはじめた時まで完無視されたのでさすがに心が折れたので、これ以上ここにいてもする事ないのでログアウトした。
エイジェンマ・フラグメント溢れ話
」]
┃◎フ < 当店のエクスカリバーについて
作中のエクスカリバーはただの魔剣、魔法剣の最上位武器というだけの武器
さらにその中でランクがある
聖剣は別にオーダーメイドである
『必墜の』
飛ぶ相手はもちろん地上にいる相手でさえも頭を地に墜とすことを主軸に作られた
『聖別の』
邪悪なる者を滅ぼすためのほか聖騎士任命のためなどに用いられる
『破滅の』
使い手、敵対者及びその周辺のものすら破滅をもたらす災害の剣
『聖鎧の』
害ある攻撃や異常を弾く他対物、対魔攻撃の耐性を上昇させる
『対ビーカー人用』
遥か昔に存在したエネミー『ビーカー人』特効の剣。
様々な物で作られた巨大なビーカーに体を潜ませ移動し、強靭な肉体から放たれる攻撃は地を揺らしたと言われている。
そのエネミーを倒すため鍛造されし一振りであり、一合交えば恐れられ、二合交えば衰弱し、三合交えば敵は居なくなったと伝えられている。 ~ネプトゥヴァーユ公国旧代歴書 23項三十三章より参照~