TRUTH TWO
かなり、……いや、もうログインすることはないだろうと、だが後ろ髪を引かれるように待機空間に残していたゲームの扉を俺はその日、その時、あの日以来枯れたと思っていた情熱が満たされた故にノブを掴み捻った。最後の時に交わした言葉通りになったことを喜んでいる俺が心を満たしている。
このゲームの体が生成されると同時に様々な匂いが混ざった狭い空間に押し込められる。前回死んだままで引退していたからどこかのゴミ収集箱の中に復活した感じだ。それでも懐かしい感情と郷愁の思いを得ながらも外に出るためもがく。数秒間ゴミと格闘すると蓋が開き外の光が射し込んで来た。音がするゴミ収集箱には恋敵であるプレイヤーがいるので覗く者はリスキル目的のプレイヤーと、ただ気になったから覗いたキャラがいる。だが今開いた奴はどっちだ?リスキルならやめてほしい所だ。
「ほほう。ゴミ箱から音がすると思ったら。なにやらお客人ですかな?」
「はろー、はろー。こちら宇宙船ダストシップ号。航行不能故、助けを求める所存ですご老人」
「ほっほ、その様な他人行儀をせずとも善いですよ。私共の仲ではありませんか」
『俺カノ』で前世のことはリセットされているから、まっさらな対応をしないとNPCに殺される事もある。この老執事はその筆頭なのでそうしたのだがなにか様子が違う。俺が抜き出した手を柔和な笑みで掴むと片手でゴミの中から引っ張り出した次の瞬間、ずらっと老執事の脇に見覚えのある使用人達が並んでおりあれよあれよと浴槽に叩き込まれた。
それから泥塗れの大型犬のお風呂の様に全身を泡まみれにされ、初期装備のいろいろまみれたリストラ、差し押さえ、ブランコの三種の神器を得てしまったお父さんが着ている様なヨレヨレのワイシャツとスラックスの様な服装から、アイロンが隅々までかけられノリも利いて折り目もちゃんとしている新品のごとき執事服を着せられ、何故か髪もメイクもバッチリにされてとある部屋に投げ込まれた。その部屋は何度も通い慣れて、見慣れている部屋だった。
「エネストクィン家の御令嬢がしがないごみ溜めの一般人以下の私になにかご用でしょうか?」
部屋のベランダで紅茶を飲んで、その美貌と環境合わせて高尚な画家の一枚絵の様になっているお嬢様から視線を受けたので、なにやら以前と雰囲気が違う空気が漂っているが初対面ムーヴでお嬢様と対話を始める。
「……。あなた、わかっていないようね」
カップをソーサーに軽く、だがマナー違反になる音をたてて置くと優雅だが荒々しくこちらに向かって歩いてきた。その雰囲気は背筋に凍らされた鉄の棒を入れられた様に俺の体を走る。
「口調」
「Year!」
「性格」
「そーですね!」
「仕草、顔、立ち振舞い」
「はいはいはいはい」
閉じた扇子を次々に突きつけられ抑えていた『黒曜』を引き出させられる。
おかしい。このゲームは死ねば好感度リセットのうえ、会話や行動ログもリセットされる使用上、不用意に喋れば不審者、変質者、挙げ句の果てに敵対組織の人間や密偵などに疑われ嫌われ、殺されルート一直線になってしまう。その様子は記憶を保持したタイムリープの主人公の様に。
なのに、いま目の前にいる、いやその前に会った老執事すらも以前の俺を覚えている。なんだこの状況?!いや、いやいや、なにか有った。確かそれを聞いたぞ最近。おかしくなった?あ?あ!そう言えばブラウンの奴がなんかそれっぽい事言ってたな。なんだっけな?俺のせいでおかしくなったとかなんとかかんとかかんとーとか。え?国家工作員家業とかが判明したではなくえ?こっちのこと言ってたのか?は?
「黒曜」
「イエッさ~。マイレディ。何のご用六曜七八九ーの重要ですかなんですかチャパティ?」
「あなたは私の事を忘れたと言うのかしら?」
「イです。ノーです。SUN値チェックしますか」
「なら何故初対面である風を装ったのかしら」
「耳~、いや、いや~それはですねお嬢様……」
言葉を出したは良いがゲームの根本的システムについて喋る。それは基本的にNPCには無意味な言葉であり、ここは○○の村ですと話すキャラにジャンプはAボタンと言っても無駄な事と言うことだ。たまに操作説明でメタ発言する事もあるがプレイする側に必要だから喋っているだけのこと。
そのことからこの『俺カノ』のシステムを喋った所で通じる事もなく、今の今まで試した奴もいたが一様に同じ反応しか返さなかった。だからどう話したものかとバカ踊りで時間を稼ぐ。
「そう、言わないのね」
「ぐえ~」
ネクタイを掴まれ壁に押さえつけられてバカ踊りを止められお嬢様の目線に顔の位置を下げさせられた。言いたくても言えないのが心情なのをお嬢様は汲んでくれない様だ。
「お嬢様……。お嬢様は俺が残念無念また来世と死んだことを覚えてらっしゃいらっしゃい。大繁盛の事ですか?」
「ええ、覚えてるわよ。貴方たちはそう言う人達だって事もね。全く、便利で面倒な人達だこと」
素敵なお顔に素敵な笑みを浮かべ、あいた手で俺の喉元から顎に向け指を滑らせてくる。その幸福感と共に今まで持っていた情報を掻き回し、こねくり回し、成形し、それから生まれた答えに対して複雑怪奇な想いを産出させる。
「貴方が死ぬ前に言ったこと、覚えているわよね?」
「愛しのお嬢様の言葉は勿論、姿形、動作に癖、バイタルサインに至るまで全て忘れる訳ないじゃないですか」
「そう。だったら言うことはわかってるわね」
お嬢様には珍しく、期待が籠った視線で俺の視線に合わせてくる。そして俺はその期待に応えるように言葉と動作をもって全力を尽くした。
「やり過ぎよ」
「どげね~」
応えすぎてお嬢様によって床に転がされてしまったのでそのまま土下寝の体勢に移行して謝罪を行う。いつかのいつも通りの様な掛け合いに嬉しさが込み上げる。
ん?
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━━━━
あるところにひとりのおんなのこがすんでいました
そのおんなのこはいつもまどべにいてそとをながめていました
━━━━
━━
WHY?
いきなり流れ出した童話調の映像に今までの疑問符より多く疑問符が飛び出す。なんぞこれ? 流し見した部分をソッコーで思い返し、現在進行形で目の前を流れている物を確認するとそれは俺とお嬢様の物語をマイルドに、伏せるところは伏せた童話調の話だった。
そして起き上がりかけたところで流れ出したものだからヨツンヴァイン形態で止まった俺の体の上、お嬢様がカップ片手に背中に優雅に乗られて立てなくなってしまった。さてこれからどうしよう……。
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ToBeContinued||/ᐱ\|
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