OTHER ONE
大通り付近の用水路から一匹のアリ、いやアリに似た蜘蛛が天井を伝って路地裏へ入っていく。路地裏を通る人の前には姿を見せず器用に奥へ進んでいく。まるで知能が有るような、いや、その蜘蛛は確実に知能を持っている。何故ならその蜘蛛はブロワーなのだから。
(畜生畜生畜生畜生畜生!まただ!またあいつが邪魔しやがって!絶対なにかしている!お嬢様の時だって今回だって。じゃないと俺が負けるはずがない!ないんだ!)
カサカサとその蜘蛛は目的の場所が有るようで、視線を気にしながらも蜘蛛の特性を使い急ぐ。通りを跨がなければならない時は糸や近くの人の肩を伝いながら少しずつ近づいていく。
そしてあと数mの所だった。
「おんや?こいつぁ可笑しな蜘蛛がいるもんだなぁ」
ヒトだった時のステータスの半分以下になっている蜘蛛の体を潰れない力で踏まれた。その人物は白い髪に一切日焼けをしたことがない様な肌、そして千夜一夜物語のアニメ映画の主人公に似た服装のブロワーだった。
「モンスターみたいに見えるけどキチンとした思考があるし、記憶も見える。……ん?おやおや、そんなことをしていたのか。っと、おいおいそんな雑に“記憶を読んだ”のか。これは運営に気付かれたのは確実だな」
蜘蛛は必死に動くがステータス差が先程までと逆転し、さらに大差になっていることから土が掻かれるだけで逃げることが出来ない。そんな中、自分の中身を眺められている、そんな嫌悪感が身体中を走る感覚に更に嫌悪感を覚えていく。
(黒曜……、ではない。俺の最終必殺技から逃れられるわけがない。例え一人で追ってきたとしてもどうにかしないと死ぬとわかっているお嬢様の顔をしたあのキャラを助けないはずはない。ならば姿形は似ているが全くの別人だ。だが、変装ではない。なんなんだこいつ!?何を見ている!)
MPもなく、身体能力でも勝てない相手に自由を奪われている状況では考えることしか出来ない。ならばと追加ペナルティを受けるが自死を選び早く黒曜へ復讐する事を選ぶ。技文字【居場所記す物を読む】にて知った事から自分が成すべき事をするために。だが、踏みつけているブロワーはそれをすることを許さなかった。
「あーあ、【勿忘草】。そう言った相手の記憶を読む技文字は運営と相手にバレないように使うのと、そう言ったつまらないことをするために使うものじゃないんだよ。三崎雫くん。【詠みと契】」
一瞬、本名を呼ばれたことで硬直した体を踏み潰され蜘蛛のブロワー━━ミルマラクネ・セラノウェルは死亡した。その瞬間に奪われて。
「━━ん?おい、ホンマノ。そんなところでなにしてる。集合時間ギリギリだぞ」
「すまんすまん。ちょっと気になるものがあってだな」
「どうせ光った物がお金かと行っただけだろう。さっさと行くぞ。帝国に行くんだから早めに出ねぇと」
ホンマノと呼ばれたブロワーは他のブロワーに呼ばれ、路地から足早に去っていった。その場で起こったなにかは何もなかった様に静かである。
━━
[アルマティ王国:ログンギ 大通り]
あいつが死んでから1日が経った。もう既に復活しているはずだが、もしかしたら別の世界に行っているのやも。または帝国に属していると私に知られたから別の国へ行ったのかもしれない。私にそれを阻むことも咎めることもできない。彼らブロワーは自由なのだから。
「ご苦労様です隊長」
「ああ、お疲れ様。先程諍いがあったと聞こえたが」
「はい、ブロワー同士のものですね。周囲への被害は抑えましたが何人か負傷してしまい……」
「構わない。住民に被害が出ていないのだろう。負傷者にはポーションを使うといい。譲り受けた事もあって備蓄は十分にある」
「畏まりました。有難う御座います隊長」
私が言ったことを急いで伝えに、負傷者がいる場所へと走り去っていく。これが私たちの日常だが、彼ら外の者は死ねば何事もなかったかのように元通り。たまに戻って来ないヒトもいるが、それらは彼らの自由である。
死をも越えた先にいる私たちと似てはいるが隔絶した彼ら。それ故に私たちが彼らに何を思おうとも残らない。夢物語の人間に近い。現に先の喧嘩や事件など、私情によって引き起こされるものばかり。こちらの都合など考えてはいない。
「まったく、悩まされる事ばかりだ」
故に国の政には信頼の置ける者しか登用していない。いまだ幼き姫は彼らを英雄視しているが、有象無象の一部、氷山の一角であれなのだ。善き友人もいれば悪しき隣人もいる。彼らは紛れもなくヒトのなのだと。王と政に携わっている王子と姫は道具と思い使っている。しかし、私は……。
と自然と行きつけのカフェに足を運んでいたようで、来てしまったから馴染みのテラス席に座り込みケーキとドリンクの注文をして待つ。そう言えば以前早い時間に閉店していたが、原因が鰐の服を着たブロワーという事で納得がいった。それ以降は彼が制御しているようで閉店に追い込まれたと言う話は聞かない。
彼らは彼らの世界の生活があると言うことも知っている。私は王たちの様に彼らを道具と扱うのか、それとも善き隣人として接すればいいのか未だ決めかねている。どうすればいいのか……。
そう考えていると頼んだケーキが、……いやこれは私が頼んだケーキより同じ種類の物だが金額がかなり違うものだ。
「すまない君。頼んだものと違う様だが」
「え?あ、いえ、お客様が頼んだ物をキャンセルしてこちらを頼んだ筈ですが」
「えっ!?あ、ああ。そうだったな。すまなかった」
「はい。ではごゆっくりどうぞ」
「……。アラバスター、厚意は嬉しいがそう言ったことは目の前でやってもらえないだろうか」
目の前の誰も座っていない席に向け喋りかけると、目の前の空間が溶けるように変わっていき悩みの種となっているブロワーが悪びれる様子もなくいつもの調子でにゃ~にゃ~言いながら軽い言葉で言い訳を始める。そんな悩ましい彼を私は……、そうだな、まあそれは後回しにして今はこの間聞けなかったことを根掘り葉掘り聞くことにしよう。




