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エイジェンマ・フラグメント  作者: 狭凪
2.5

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53/100

TRUTH ONE

 某年某日


 その日、その世界ゲームは混乱していた。ゲームの題名は『俺がカノジョを振り向かせるまでにかかる日数は?!』。知る人は知る人同士、互いを殺しあいを始めるほど過激なプレイヤーが煮詰まった環境で起こったとある事件が発端だった。

 それは攻略すべき彼女達ヒロインがマップから消えた。一言で言えばそれなのだが、心血を彼女たちに注いだ彼らにとってはまさに地獄、阿鼻叫喚の嵐。プレイヤーは犯人探しと新しいヒロインを探すの二つの派閥に分かれたがそれは数日に渡っており、日に日にプレイヤーの殺気は上昇の一途であった。

 そして、マップのとある場所にある洞窟の奥の小部屋で男はくるくると回転し、その場に寛いでいる人物たちを確認し終えると扉の前で止まり天井へと顔を向け高々と右手を上げる。


「誠意マシマシ、覚悟カタメ?お嬢様方々、長々とお付き合いして貰ったことを深々と感謝感激雨霰、西方より時々晴れ間が見えるでしょう。多大な時間を拘束してしまい申し訳、申す訳、言い訳無用で謝罪のほどを。まあ明日で終わるからからから伽藍伽藍。町の方は……まあプレイヤーの方はシラネ、アイネ、リーベンターク」


 高々と上げた右手を腹に当て、左足を引き直角に腰を曲げる。体勢を戻すと回れ右をして部屋から退出する。扉を抜けた先は床から壁、天井まで整えられ回廊の様にレンガで覆われている大広間と言い表せる場所だった。そしてそこには身の丈の大きな――それはまるでダンジョンの奥で待ち構える大妖精トロル。そう捉えても間違いではない。そのような風体の巨人がたたずんでいた。


「やあやあ、ご苦(59)労、郎党(610)賜杯(48)贈呈?準備のほども、これからのほどもヨロシクドーゾ、ハイハイゴメン。では手筈通りにお願いします」


 下げてきた頭を撫でて言葉をかけると喜ぶように体を揺する。その様子を見て頷き、ステップを刻みながら出口へと向かう。


「その手筈はいまここで御終いだよ」


 前に弓矢が右胸から生えその場に倒れる。その部屋に身を隠す場所が無かったにも関わらず、矢を射たプレイヤーの姿が言葉を発するまで消えていた。恋愛ゲームの戦闘シーン用に設定されたステータスの中に存在する、大抵のプレイヤーからは疑問視されている気配の技能。これを上げればモンスターなどに気づかれることなく街の外のマップを歩けるが、ヒロインに対してまで発見される確率が低下するもの。それを必要以上に上げたプレイヤーが潜んでいてプレイヤーに矢を射たのだった。


「ほうほう、くっくるー、かあかあとどうしてこの場所が分かったのかな?」

「くっくっく、わかった。と言うよりは、彼女に案内してもらったのだよ。ヒロイン拉致監禁の犯人さんよ」


 そう言うと入り口の方から一人の女性が現れる。


「ははん、ははんのびばのんの。お嬢様の方を先に見つけ出したってことなのね蓮根人参自然薯」

「むかつく喋り方だな。マジでウザいわお前。そうだよ。お前が最初に監禁したお嬢様を虱潰しに町中を探して見つけ、お前がよく行っていた場所を聞き出したんだ」

「はーはー、ひーひー、ふーふー、へーへー、ほーほー。へへっ」


 見下したような顔から自分が行ったことを自慢するようにどや顔になりながら説明を行ったプレイヤーに矢を射られたプレイヤーが仰向けになって相槌を返す。その顔に悲壮感はなくさっきまでと同じようにへらへらとにやけ面をしている。


「……なにが可笑しい。お前のしたことは俺によって阻まれて破綻するんだぞ!おい!」

「べっつべっつ、なんでもない(チャパティ)

「意味わかんねえって言ってるだろ!」


 矢に毒が塗ってあったのかプレイヤーは体勢を変えるだけしかできず、出血も合わさりHPがゆっくりと減っていく。そんな中でそのプレイヤーはプレイヤーを見ておらずその後ろのヒロインを見続けている。ゲーム内で減ってはいるがリアルな感覚を味わっているプレイヤーはゆっくりと減るHPと比例して視界も、聞こえる声が減っていく。しかし、ヒロインだけは視界に納めている。


「おい!聞いているのかおま――ぐふっ!?」

「嫌だわ。なんて野蛮な方なのかしら。うちの執事を突然射るだなんて」

「な、なぜ……お嬢様……。私は、今回の……元凶である輩を……」

「?なにかおかしいのかしら。いきなり現れたアナタと私が雇っている執事のどちらが信用しているかなんてわかりきっているはずです」


 血にまみれた大振りのナイフを持って困惑した表情をしている彼女からの言葉に、事件の現況を打ち取ったことによりこれから起こるであろうことを思い描いていたプレイヤーは幸せの絶頂であったはずが、ヒロインが起こした行為を目の当たりにしその状況に頭が追い付かないでいる。そうしているうちに大妖精がそのプレイヤーに近づき手に持った棍棒をその頭に振り下ろした。


「……。はあ、情けない姿をしているのね黒曜。それでも私の執事なのかしら?」

「これはこれは僕の計画の為に木葉、潜伏、雲隠れをして貰っていた我が愛しのお嬢様ではありませんか。平身低頭、こうべをこれ以上ないくらい下げることのできない状態で御見苦しいかもしれませんが、まあ?それでも見目麗しいお嬢様が要ればいつでも華やか八百屋、金物屋」

「その減らず口。ちゃんと体に染みついているようね。関心するわ」

「まあまあ、ほどほど、それなり。いや、お嬢様の愛のスパルタ指導で染みつかない所作はありませんよ。下呂草津」


 倒れたプレイヤーに近づいたヒロインは屈み込みその顔を覗き込む。ゲームのキャラとして作られたヒロインは皆眉目秀麗、一片の醜さが生じていない。その顔を近づけたあと倒れたプレイヤーに寄り添うように立つ大妖精に視線を向ける。


「時間が無いようだからその口調止めていいわ。それでこの子は?」

「畏まりましたお嬢様。その子は森で見つけました。何かに怯え隠れるように住んでいましたので私が保護し、ここに交換条件で住んでもらったのです」

「ふぅん、なるほどね。この子、危険はないのね」

「言葉は話せませんが意思疎通はできます。僕はもちろんお嬢様の言葉にも従うよう教えました。僕のこのことが終わったらお嬢様に提言して雇って貰えるようにしようとしていました」

「そうね。この子なら私も大歓迎よ」

「それはそれはよかったです」


 もうすでにHPが尽きようとしている中、見えていない聞こえていないはずのそのプレイヤーはヒロインの声を聞き取って答えている。だが、すでに虫の息のプレイヤーは世界の理で決められた運命に従ってヒロインの記憶から彼が消える前に最後の言葉を話す。


「あと少しだったので残念です」

「そうね。あと少しだったのかもね。でも私はそんな安くはないわ」

「そうですね。でもあなたを僕の側にいてもらうための努力を費やしてきましたのでその位の報酬を貰えればよかったです」

「頑張りなさい。あなたの力量はこんなものではないわ」

「そう買ってもらえるのは有難いですけど、この失敗で心血が枯れてしまったので僕は戻ることはないでしょう。ですので「ダメよ。そう決めつけるのは早計。黒曜、貴方の心も信念も枯れてはないわ。あなたはいつか戻る。私がそう宣言してあげる。あなたは私の物よ」

「……そうですか。お嬢様が言うのならそうなのでしょう。そう言ってもらえましたが、忘れてしまうでしょう。それがもったいない。……では、尻ぬぐいとお嬢様に頼ってしまうことになってしまいますが、彼女達をよろしくお願いします」

「ええ、この分は法外な利子をつけて返済して貰うから覚悟しておきなさい」


 そんな彼女の忘れてしまう約束(想い)を寂しい気持ちで、だけど笑顔でプレイヤーは死に(消え)、すぐに生き返るその世界で蘇らなかった。

 そしてヒロイン拉致監禁事件、通称『ひとりじめ』事件はその瞬間終幕し、しかしとある“ありえない”噂がゲーム内で蔓延した。このゲーム中最難関でありながらも最終目標である『誰かがヒロインの攻略に成功した』と言う“ありえない”噂が。そして幾年も過ぎたある日までその噂は廃ることなく今も話され続けている。

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