アホウノウトイ
さすがにレベル700相手ははきつかったかと弱音を吐きそうになっていると、首がない骸骨の上半身が砂煙を巻き上げてこちらにやってきた。その奇怪な骨二輪でやってきたのは親友のアラバスターだった。さっきまで上にいたのにさっき鼻で頭を掻いたときに落ちたのだろう。
巨大な前足のストンプと鼻による叩き付けを器用に避けながら近づいてきた肩甲骨に腰かけたアラバスターが話しかけてきた。
「ナッツァーまた登るから抑えヨロにゃ~」
「まて、お前! お前も加われよなっ! 理不尽なレベル差でも戦えるってのは知ってんだからな!」
「何言ってんだにゃ~。パン屋に戦闘職みたいなこと求めても出来ないに決まってるのにゃ~」
「嘘吐け、この野郎!お前みたいなパン屋がどこにいる!」
「ここにいるのにゃ~」
ああ、もうなよなよした胡散臭いネコ語尾のキャラがウザい。多分嘘つき的なキャラもあるだろうからさらにウザい。だが、そんな印象とは逆に俺が放棄したゲームをクリアしてきただけはあるくらいに低レベルでも生き残ることができている。あのワニのブロワーのことは何も言わないがどうしたんだろうか。
今も俺の横で目立つ骨に乗りながらも一度として被弾をしていない。そんなこいつが登りたいと言っているが暴れている【枯毒一丁】に対して最初にやっていた方法は使えないだろう。横に着いた瞬間、運が悪かったら踏みつぶされるだろうな。
「と言うかどこから登るつもりなんだよテメェ」
「そりゃあ、あの象のシンボルからに決まってるにゃ~」
「またのご愛顧のほどよろしくお願いいたします」
「そんな冷たいこと言わないでほしいにゃ~。きちんと登るプランは考えてあるのにゃ~」
俺は知っている。こいつがあほなキャラの時に提案する作戦は基本的に阿呆なものなのだ。知っているだけでも流し爆弾だったり雪壁突撃だったり。挙句の果てに初期スポの街を陥没させる作戦がポンポン出てくるから身構えてしまう。
四人パーティ中一人が脱落している今、俺が牽制しているとはいえ働いてないのが一人いるから王族分家の騎士との二人が戦っている状態なので早く戦ってほしいのが本心だが、一応有用な手が多いので聞くしかない。
「一応聞いておく。どんなプランだ?」
「肉盾があの鼻をぎゅっと抱きしめて綱引きするのにゃ~」
「俺に死ねというんだな?」
「ははは! 猫の冗談にゃ~」
「お前が味方で火牛の計をしたことは墓まで忘れねえぞ」
味方を騙して火達磨になるアイテム渡して起こした惨劇は今も色あせる気がしない。あの阿鼻叫喚を作った張本人はログアウトして逃げて素知らぬふりをして入ってきた瞬間にリスキルされ始めたけど。
まあそういうときは別の作戦を陰にいつの間にか遂行しているから口に出している分は冗談だとわかるが。
「と言うか一番最悪なことを教えてやろう」
「なんなのにゃ~?」
「この【枯毒一丁】は攻撃の手が緩むと本当に若干だが回復している」
「……やばいにゃ~」
微量とはいえこのデカい図体に比例したHPが回復すると言うのは本当に嫌がらせとしか言いようがない。ここの運営は何を何を考えてこんなモンスターを生み出したのかわからない。今は回復量とダメージがトントンだから千日手のようになっているがこの目の前のアホが手伝いさえすれば確実に減っていくだろう。
「ちょっとそれは現実的に時間がヤバイ気がするにゃ~。ちょっと本気を出すかにゃ~」
「本気ってお前まさか……」
「もうちょい遊びたかったけどケツカッチンしそうだから一個前を使って巻くことにする」
「そのルール破んの早くない?」
「そうだな。早い気がするがそういったのもこのキャラのルールってことであろう」
象が足を止めたこちらに気づいたようで頭を下げて地面ごと俺らを牙で巻き上げた。そして空中で身動きが取れなくなったところで巨大な鼻を振り回してこちらにぶつけてきた。
「その程度の鼻で吹き飛ばすことができるとでも思ったかこの阿呆めが。削ぐ右手召喚」
アラバスターがそう言った瞬間に右肩のあたりから指の骨が剃刀のような右腕部分の骨が現れ向かってくる鼻を掴むと、鼻を軸にして半回転するとぞの部分から紫色をした血液が噴き出した。俺たちは地面に着地すると鼻が切れたため振り回していた象が背中から流れ出る血液を鼻で啜ると流れ出ていた血液の量が減ったように見えた。
「ふぅむ、己が身の毒を啜ることで回復する能力を持っていると言うことか。面倒な手合いだな」
「ちょっと待て。それ以外にも何かあるみたいだぞ。牙が染まっていっている」
「ほう、まだそのような能力を隠していたか」
牙の色がアラバスターが言っていた毒の体液と同じ色になったと言うことは何かが起きないただの装飾ではないだろう。そう考えているとガクッと体が重くなった。まさかと思って自分の状態を確認すると、さっき罹った毒のほかに【枯毒】の状態異常が付いていた。急いで上位の毒消しを使って毒を治し耐性装備を増やして防御するが、数秒後には【枯毒】が付いて耐性が違うと言うことが分かった。
この【枯毒】の特徴は動きが鈍くなるほかにHPが回復している。毒によって減っていたHPが回復する毒といった変な状態だと思ったが、それは逆でHPが回復しきった瞬間にその真価が発揮した。HPが減り出したと言ったら普通の毒のように感じるが、それよりも悪質で回復薬で回復すると逆に減ると言ったことを起こした。
「ベスタ! アンタはエリクシル薬を飲んで戦線から離れろ! これはヒューマリアンにはキツイ毒だ!」
「あ、ああ!」
ベスタは俺の忠告を聞きすぐにこの場から離れていった。回復するとHPが減るとかゾンビじゃないんだからよしてくれといちゃもんを付けたくなる。付けたくもなるがその理不尽こそEXTモンスターなのだろう。
「ん?てかアラバスター平気なのか?」
「なんか平気みたいなのにゃ~」
「胡散臭いのに戻ったのか。ん?なんか【枯毒一丁】が気張り出した……やべっ」
全部紫色に染まった牙から同じ紫色の気体が噴出した。その瞬間逃げようとしたが広がる速度が速く逃れることができなくてその気体に包まれてしまった。視界が紫色一色に変わる瞬間アラバスターが腰の仮面を装着しているのが見えたがそれじゃ防げないだろう。




