クササエルコトイヤ
掌大に抉れた噛みちぎった様な後を見るに、ワニベロスの咬合力が皮膚の堅さを上回ったと言うことだろう。ワニとサメをあれだけ前面に押し出してることだからその力を使うだろうと思っていたが、まさかベスタでもあまり切れなかった象の皮膚を食いちぎるとは思っても見なかったが。
「よし、ワニベロス頑張るのにゃ~。この戦闘は君に掛かっているにゃ~」
「…………」
「あれ? どうしたのにゃ~。いつもの元気の塊みたいな返事はしないのかにゃ~?」
「…………ぅぅ」
「にゃ~?」
一撃食らわせたワニベロスの前に回り込むと両手のパペットで口元を押さえている。えっ、これまさか……。
「うぇぇぇぇぇぇぇぇ、不味いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
ワニベロスの口から吐き出された紫色の物体、その後から滝の様に流れ出すよだれに困惑する。え? 蟷螂の脚でさえ美味しいと言ってたワニベロスが、この象の肉を不味いって?!
噛みちぎられた背中を見ると中は緑やら紫やらの食欲が失せそうな斑模様の状態の筋肉だった。さらにそこから空気に触れるだすとボコボコ泡立つ血液が火口湖の様に溜まり、鼻や目を突く刺激臭を放っている。これはと思い紫色の物体をなぞり口に入れる。
「ぅおげぇぇぇぇぇぇぇぇ」
一舐めで口から鼻の中までを臭いが充満し、舌にこびりつく化学物質の様な刺激を放ち、様々な臭い物が充満した部屋で口で深呼吸をしたかのような味が埋め尽くしてくる。ダメだこりゃ。俺でこれならワニベロスが使えなくなる可能性が出てきた。
アイテムボックスから蒸留水を取り出してうがいをすると、ワニベロスの口に果汁を流し込むと屋台の串を突っ込んで近くの武器にくくりつける。
「おいなんでこんなことするんだガシュガシュ」
「そうですよ。解放しなさいザシュザシュ」
「いやいや、こんなところで前後不覚に陥るとまっ逆さまに落ちるにゃ~。落ちても大丈夫だろうけどここまでどうやって昇るつもりにゃ~?」
「だからってこんな物にくくりつけるのはないだろうがガシュガシュ」
「抜けたら同じで落ちてしまいますザシュザシュ」
「それは両手で頑張るのにゃ~。補強は一応しておくにゃ~」
暇な時間に捏ねておいたパン生地を取り出して根本に押し付けて叩いて伸ばす。生地が小手に引っ付いて上手く伸びないが良くこねくり回して刺さっている部分とパン生地を均す。
「思いだしたかのようなパン屋要素だなガシュガシュ」
「パン屋って冗談じゃなかったんですねザシュザシュ」
「冗談でパン屋じゃないのにゃ~」
冗談のために選んだ職業だが、さもありなんと惚けておいてナッツァー達が戦っているであろう頭の方に向かう。すると体勢を立て直した象がその象徴である筋肉の塊の鼻を振るって戦っていた。それを互いにカバーしながら時々脚に攻撃をしている。
「お~い、ナッツァー。ワニベロスが『PAOoooooo!!』…………」
「ワニベロスがー『PAOoooooo!!』
「象が不味『PAOoooooo!!』
「使い物に『PAOoooooo!!』
「…………『PAOoooooo!!』
「五月蝿いんじゃちょっとくらい黙れやボケェェェェェェェェェェェェ!!」
『BAOooooo?!』
両腕の籠手をガンガン鳴らし合わせ四重強化を乗せて象の頭頂に思いっきり叩き込むと、分厚い皮膚を通り越してきた衝撃で鳴き声が濁る。さすがに内側に作用したために与えたダメージが眼前で頑張っている二人を越えたのか鼻を頭の上に持ち上げ俺を狙ってきた。視界外の頭の上だからか大降りに振り回される鼻を避けながら試験管を取り出す。
「象さん象さん、お鼻が長いのね。そうよ、だから一番狙われるのにゃ~」
蝋で密封された試験管の口を砕いて向かってくる鼻の先に投げつける。狙いどおりに当たった試験管は穴に入り中身を吐き出すかの様に暴れまわって奥に消える。一瞬周囲に異様な匂いに包まれるが象の起こす風圧で周囲の空気に紛れて消えていく。
『PAPAPAOoooooo!?』
「どーだにゃ~。ブロワー謹製嫌がらせ唐辛子ドリアンガソリンの威力は! 掛かったら24時間臭いと辛さが取れない代物だにゃ~! うっわくっせ?!」
砕いた時に籠手に掛かったから手元から臭辛い匂いが漂って来たので、パン生地でも汚れた籠手を投げ捨てて新しいのを取り出して付け直す。匂いがついてたから衝動的に捨てちゃったけどそう言えばあれ新品だったから勿体なかったな。
少ないがダメージらしいダメージが入った事と鼻にぶちまけられた刺激物によって更に暴れだしたたがそんな些事は放っておいて、ナッツァーにワニベロスが使えなくなったメッセを伝えると、嫌がらせ汁が落ちてきたと苦情が返ってきたが無視してワニベロスの元に戻る。
「う~ん、寝てるな」
暴れている象の背中をえっちらおっちら移動してたどり着くと、鳴きつかれたのか眠り込んでいるワニベロスにそっと毛布を包ませる。
さてどうしようと周りを見渡すが【鑑定】を持っていない俺では相手のHP残量が見えない。まあ叩き潰せばちゃんと死んでくれるし、ストレージの中に入れればアイテムはわかるから要らなかったからしょうがない。巻物? ああ、売ったな。
「おおっと、すっぽり」
ちょっとよろめいた先にワニベロスの食い千切ったあったからバランスを崩してその先にあった剣を掴むとそのまま抜けてしまった。背中の傷は逃げ傷故に恥となるという文化があるのかその逆なのかわからないが抜けてしまった剣は俺がもらっておこう。アイテムボックスに入れようとしたが入らないのでこれはまだ象の物ということなのだろう。
この一面の武器たちは戦士が戦ってきた証なのだろうが墓標にしか見えないので、怖や怖やと戻そうとしたが剣が刺さっていた場所がこの辺りということはわかるのだが象の紫色の血液が断続的に流れ出しているところしかない。試しに差し込んでみるが流れ出る血液に圧され簡単に抜けてしまう。
「ふむ、こちらを抜けば血液が同じように出て、こちらを抜けばまた同じように出る」
暴れる象の背で刺さっている武器が抜ける設定について考察を始める。
まず第一にこの象は最初は普通サイズか少し大きいサイズだったと考える。その頃はまだ背には無かったはずだ。小象のころからあったのならそう言った同化しているデザインなはずで抜けるわけがない。抜けたとしてもその際にダメージをどちらにしても負うからこの考えであっているはずだ。
そして第二にこの象は肉体から毒を放出するタイプなことは枯毒の文字から考えられる。多分頭の上で粘っていたら鼻から鼻水という名の毒液が放たれていただろう。鼻だけに。いや違う。
そして第三に道中で聞いた話だと無差別に歩いていろいろな国の領土を荒らしていたから何人もの戦士が討伐しようとしていたらしいので、この武器たちは戦士たちの置き土産に体に刺していったものと仮定する。
するとどうだろう。強いモンスターだとHPが一定分減ると特殊な行動を取り出すと言う定番がある。それと俺が目にしている物に当てはめるとこの象の次はこうなると言うのに考え付く。
「おっと、俺のと合わせてHPが三分の一減ったのか。次の段階に移行したみたいだな」
ナッツァーからのメッセが飛んできた瞬間から嫌がらせ汁によって暴れていた象が静かになり、背中にいる俺の目の前の光景が変化し始めた。
エイジェンマ・フラグメント溢れ話
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|◎フ < 嫌がらせ汁について
ブロワー謹製嫌がらせ唐辛子ドリアンガソリンとは様々な辛みを司る香辛料と匂いが強い植物を使用して作られた環境に配慮された粘性が高い超エコ燃料である。そしてトップクラスの燃焼効率を叩き出している力の入れ方を間違えているアイテムの一つである。
このアイテムが作成された時期は二月某日。とある悲運なブロワー達が夜な夜な集い研究が行われ開発された。そして同月某日に行われる現実世界由来のイベントの準備期間に作戦の準備がされ開催された瞬間にそれは起こった。
開発者のブロワー達は各々が選んだ柄のペストマスクを被り同じ服装をして己を『聖Bye』と称し『O足』、『O斜』、『No持』と振り分けられた者の内、『O斜』を目標として嫌がらせ汁の投擲を開始した。その様相はまさに地獄絵図であり、イベントのために用意された場所は匂いと刺激物による阿鼻叫喚の嵐であり、入れ代わり立ち代わり四日四晩暴れまわりイベント当日までに準備をしていたブロワーの努力を水泡にして弾けさせた。
その後『聖Bye』の格好をしたブロワー達はイベントを潰された運営に怒られ半分称賛半分のペナルティを食らった。
『聖Bye』聖句
我ら愛ゆえに愛を捨て、種子より出る愛の文を妨げん。
我ら欲しても賜れず、その手に虚しさのみ出る。
落とせ、堕とせ、墜とせ。
高みにいる者よ、我らを蔑む者よ、その足元に留意せよ。




