彼方此方どちらそちら
半裸の白い男性がふらふらと国を跨いだ街道を歩いている。旅支度に時間を取り最終馬車に乗り遅れ、面倒だと翌日の馬車に乗らずにそのまま歩いてきたのだが、日を跨いで先ほどその馬車に抜かれていった都合である。
「くそう、ケチらずにあの乗り合いに乗ればよかったにゃ~。そしたらもう少し早く街についたのにゃ~」
購入した食料とダンジョンからドロップした食料があるので餓死は免れるが、如何せん現実と同じ距離を通るため娯楽に溢れた現代より遥かに暇な為精神が参っている状態である。時折出てくる小鬼や狼、豚人は帝国のダンジョンモンスターよりレベルが低いため暇潰しにすらもなっていない。
「確か地図だと乗り合い馬車は地形の都合上とかモンスターの生息圏を避けるため遠回りするのにゃ~。だから、こっちの森って直線距離だと近道になるのにゃ~」
整備された道は障害物がなく見渡せる範囲が警戒できるが、樹木が阻んでいると不意の奇襲を受ける可能性があるため、そう言った馬車は冒険者などの強い人達が乗っている事がほとんど。だが、下手すると竜や亜種モンスターが現れるのでほとんど使われない。
「よし、こっちの道にするにゃ~」
ただし、不死身のブロワー以外は。
森に用事がある時用のあまり整備されていない道へその男はスキップしながら入っていく。今の森の現状を知らないまま。
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[数時間前:現実:鶴城の家]
「で、俺を呼んだってことは動けるようになったのか?」
鶴城の家のリビングでスナック菓子を摘まみながら夏秋が訊ねる。フルダイブの方で会おうとしたら、親の用事で家を出ていたため俺の家にやって来ていた。持参したスナック菓子のほとんどは夏秋の口に消えていっている。
「ああ、ようやく皇帝様から解放されて王国の一番近い町に放り出されたところだよ」
「なにやらかしてそんなとこに投げ捨てられたんだよお前」
「悪さはしてないにゃ~」
召集のエクスカリバーの応用で自国内なら王城から好きなところへ契約した者を飛ばすことができる。どこそこに召集的な方法らしい。ただし、1人につき一般NPCが持つMPを全部を使うくらい消費が激しいので緊急以外行わないそうだが、一度経験しておけくらいの軽いノリで俺は飛ばされた。
その移動方法は極秘扱いらしいので現実でも漏らさないようにと注意された。現実は現実で戸板に水ばりに零れたらすぐ広がるから、俺も生命線になりそうなことはきっちり守っていくタイプだ。
「で、ものすごいバッドな皇命受けたんだけど聞く?」
「聞く」
「王女を堕とせ」
「ぶぶふぅぅぅぅぅぅ?! す、すまん、すぐ拭く」
「俺とお菓子にかかってないから大丈夫だ。俺もお前の立場だったら顔にコーラぶちまけていた」
『エイジェンマ・フラグメント』の舞台となる大陸には内政の方に若干力を入れているアルマティ王国と、その反対に軍事に力を入れているアテーシュ帝国。総理のような立ち位置の王をトップとして平均的に力を入れているネプトゥヴァーユ公国と教会がトップ権力のスカアワーン教国、様々な小国が集まって出来たケツァセ・ヤ首長国の5つの国が存在している。中世に近い世界観だが、運営のてこ入れのため技術力がチグハグなところがあるが、一応カラクリや機械技師が発展していたりする。一番技術が発展しているのは軍事に力を入れている帝国だが、首長国の1小国でブロワーがやらかしていると言う噂もある。
そんな中で隣国の姫となると公国か王国、ギリギリで首長国のどれかが条件になるのだが、俺はどの国のトップの家系の顔を知らないのだ。帝国は皇帝が常に兜を被っているしその親兄弟の話題も出ていないので知るはずもない。
「どえらい依頼を受けたものだなぁ」
「俺も断れるなら断りたいが、『一瞬で終わるものではないのはわかっている。期限は設けぬゆえ成果が出た時に報告をすればよい』とか言われてね。これ絶対俺を縛り付けるための永続の命令だよ」
「そんなものだろうな。お前が女性を口説くなんて『俺カノオンライン』でも全然してなかったて話だったよな?」
『俺カノオンライン』。正式な名前は『俺がカノジョを振り向かせるまでにかかる日数は?!』、ジャンルはオンラインギャルゲーである。俺が中学生の時にプレイ、いやそんときの仲間内で3000円で譲られてプレイした。ぶっちゃけ辛いとしか言いようがなかったゲームなので渡したあいつは割高な値段を提示したのだろうが、土下座で走ってきたその意気を買った。
その時の夏秋はゴタゴタがあったためプレイしてないが、プレイした話をしているのでどんな内容なのかも知っている。
「あれって鶴城の話だとギャルゲーじゃなくてNTRゲーだって話なんだろ? そんなんで口説けってのはハードル高いよな」
「ああ、あれは男性の蟲毒だったよ」
そう、オンラインギャルゲー。『オンライン』なのである。人が勉学に励んでいたり業務に勤しんでいる間も時間が進んでいくのだ。ならばなにが起こるかわかるだろう。
『大惨事攻略対象超攻略戦争』だ!
プレイする時間帯が違う邪魔者がそれぞれ十数人しかいない宝物を得るためにこぞって争うため、ハーレムルートは確立しておらず、一人を攻略するにしても開けた時間で誰かが親密になっていくため好感度の生存競争に負けたプレイヤーは諦めるか上位のプレイヤーを殺るしかない。
プレイヤーが死ぬとステータス、好感度の全てがリセットされるため攻略中のプレイヤーの背後から『誤チェスト!!』と刺されることが多く、服の下に防具を仕込むことが必須となっていた。『誤チェスト』したプレイヤーの好感度も下がるが、『誤チェスト』するプレイヤーは全て灰塵に帰す覚悟で挑んでいる。
因みにプレイヤーはスラム出身の孤児なので暗殺などの技術を簡単に得られる。そしてその結果このゲーム経験者の座右の銘は『ヒトの恋路を邪魔する蟲は全力で排除』になる。
「未だに完全攻略されてないって話だけどそのところどうなんだ?」
「んー、話題に出る度に確認はしてみてるけど『誤チェスト』で更地繰り返してる見たいでまだなのはほんとみたいだぞ」
「はー……。あっ、そう言えば強烈な印象で忘れてたけど、お前の攻略ってどうしてたんだ?」
「えー、それ聞いちゃう? 聞いちゃうのかにゃ~? って言っても普通に『誤チェスト』した奴を『誤チェスト』して金稼いでたな」
「お前そう言うのやりそうだよな」
街中で、森の中で、墓地で『誤チェスト』の嵐の中を潜り抜けて次の生のためのアイテム回収を頑張っていたのだが、攻略あと一歩のところで『誤チェスト』されたからそこから諦めた。アイテム使いきった所を狙われて情熱が萎えてしまったのだ。
そんな事より『エイジェンマ・フラグメント』の話だ。
「俺が今いるのが戦場になった場所から一番近い町なんだが、集合場所はゲーム時間で3日前後の同じ場所でいいか?」
「おう。今度は間違われて連れていかれるなよ」
「そうそう間違われてたまるかっての。……お前のあっちでの外見ってどんなんだ?」
「行けばわかる」
夏秋を見送り自室のゲームチェアに座り個人サーバにログインする。ログインしてすぐアバターに重なり、目の前を揺らぐ海月の触腕を掻き分け『エイジェンマ・フラグメント』の前に立つ。
一瞬遠くの場所にずっと立っている『俺カノ』の扉に視線を向けるが、やはりあと一歩のところで全てが水の泡になった虚無感からプレイする気が起きない。
そのまま『エイジェンマ・フラグメント』へ手を当て、世界へ落ちていく。
エイジェンマ――俺カノオンライン溢れ話
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|♡フ < ジャンル:リアルタイムアタックNTRゲー
別名『同担拒否カノ』
等倍時間の中でスラムに捨てられた死にかけの子供から始まる物語。
プレイヤーは必死に働いてスラムから脱却するかスラムに染まり悪の道を進むか決める。比較的に(プレイヤー同士以外)緩い設定なのでスラム出身でも少し嫌味を言われるくらいでちゃんと働かせてくれる。労働には日数をかけない設定なのでミニゲームの成功量によって得られる賃金と(裏か表の)町民の好感度が上がる。
街にはRPGよろしく道具屋、武器屋やそのほかにも八百屋、定食屋、織物屋などがきちんと設定されている。そして手に入れた物を使い攻略対象となるヒロインの好感度を上げていく。
ヒロインは十数人いてそれぞれのプレイヤー個人個人にその攻略対象のデータを所持しているが、一度会わなければ顔も名前もわからない。数百人規模の街が舞台であり、町民や盗賊から貴族や王族まで幅広くヒロイン層があるので駆けずり回ったくらいではすべてのヒロインには会えない。
そしてこのゲーム一番の難所が本編で語った通りのオンラインと等倍時間設定である。
ヒロイン側のデータにオンライン人数分の個別好感度を設定するのではなく、プレイヤー側のデータの裏側部分に好感度を設定しているので死ぬとヒロインデータは引き継ぐが好感度は没収となっている。
ヒロイン十数人に対してプレイヤーが数万人規模に近いのでサーバ分けをしているがそれでも1:100以上になっているのでようやくデートに漕ぎつけたと安心して数時間開けると別の人との約束になっていたりする。ゆえにNTRゲーと言われる由縁になっている。
ライバルで気を付ける対象は自分より上は当たり前。たとえ下でも気を抜くと越されるのであの手この手の好感度上げ、最終手段として『誤チェスト』を活用しだした。
そのため掲示板は皆無、攻略サイトは建てられた瞬間に荒らし、特定、粘着が起こり削除に追い込ませていく。唯一妨害も受けずにいるのは、プレイヤースキルが高くどうやっても倒せないプレイヤーを複数人で『誤チェスト』する『誤チェスト同盟』のみ。
それに耐えきれず逃げ出したプレイヤーからは『同担拒否カノ』と呼ばれ界隈に広がっている。
『誤チェスト』
NPCはもちろんプレイヤーを殺害したところをNPCに見られるとヒロインの好感度がすべて0になるが最終手段を使用する際、誰が言い出したのかもうすでにわからないが、
『ヒロインに近づく不審者にチェストしたら人違いでござったテヘペロ(○ω<)』
を正当化する理由にするための掛け声。
NPCは人殺しをしたことに対しては反応するが変な掛け声には反応しないのでライバルに対する最低限の礼儀である。
???「ばれなきゃ犯罪ではないのですよ。ばれなきゃね」
NPCは哨戒役を兼ねているので死なばもろともでは無ければ『誤チェスト』はほとんどが暗殺に近い。また、『誤チェスト返し』なるカウンターを決めた際は正当防衛にあたりペナルティはない。
ちなみにヒロインのNPCはAIを積んでいて他のNPCより自由度が高く、たとえデートができても会話や行動で失敗に終わることもある。そして、自由度が高いならば好感度が下がらない方法で連れ出したり連れて入ったりすることもできる。
それで主人公が取った大きな出来事がきっかけでとある事件が起こっているのはまた別の話。




