シデノタビジ
とあるゲームの中、数多の亡骸の上に全てを染めたアバターが空を見上げていた。その亡骸はヒトの残骸となっているが、その下、さらに下にまで彼の道筋を表しているかのように亡骸の種類が変わりながら続いている。それはエネミーだろうがNPCだろうがプレイヤーだろうが誰かの手によってこのゲームの敵になってしまった結果である。
全ての生命をその手で、その余波で滅ぼしてしまった彼らの世界は終了となり、流転し巻き戻る。そして亡骸の山が失くなる。
だが、その世界に彼は居なくなるだろう。全てのレベルが上限に達し、スキル、アイテム、装備は既存のもの全てを集めた。同列を下し、物量を下し、最強、無敗を下した後に後に残るものは何もない。彼を楽しませるものが何もなくなったのだ。故に彼は居なくなる。
だから今最後の最期に華を飾ってくれた彼らには感謝の意を表しながらも燃え尽きた体は空を見上げたままで動かない。静かにそよぐ風と燦々と輝く太陽が照らすのみで目の前に表示された世界修復のカウントダウンを眺めているだけであり、刻一刻とゼロに近づいていき、ついにはカウントが一桁になる。
「あー、楽しかった」
【称号『唯独り立つ』を獲得しました】
カウント一秒前にそんなアナウンスが現れメンテナンスのため世界から弾き出される。世界の中に残った異物だと言われたような気がしたが、通常通りのプログラムなのでゲームを始める前の自宅に置かれたパソコンの個人サーバの待機フィールドに移るだけであるが。
目の前にはさっきまでプレイしていたゲームのPVが流れる扉とその前に置かれた台にプレイしたすべてが映っている。いままで解明された称号と実績、ほかにはアバターと所持アイテムが閲覧できるがさっきまでの戦闘で大放出したので閲覧できるのは図鑑で確認できるのみである。最後に埋まらなかった称号の場所が埋まっていることで本格的に終わりを告げられた気がする。オンリーアイテム以外をすべて所持した実績もあるのでこれ以上することもなかったので実際引き時としては上出来な気がしなくもないが……。
周囲に並んでいるダイブ式ソフトの場所から墓地と表記されたファイルにその扉を飛ばす。アップデートがあっても復帰することはないとしたゲームのゴミ箱である。
「またクリアですジェリ? これで何本目ですジェリ?」
その様子を見てフワフワやってきたマーブル状の海月型管理AIが言葉を発して触腕を伸ばしてくる。それを払いのけてログアウト用の扉に向かうとそのうちの一本にSNSからの通知が絡まっているのを見つけたので引き抜く。
「さっき届いた通知ジェリ。お友達からですジェリ」
「マジか~、一時間前じゃねえか。急ぎだったらヤバイ」
その通知を投げるとメッセージ画面が開くと一時間後に着くからといったことが書いてあったので急いで扉に触れてログアウトする。
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「おーい、鶴城! いきてっか~。おーい、おーい」
「すまん夏秋。ついさっき気づいた。で今日はどうした?」
ヘッドセットを外し、VR用ゲームチェアから起きると返済期限切れの借金取りばりのノックとチャイムの連打をしていた友人を迎え入れる。
「いや、お前が今やってるやつ飽きてきたって言ってたから持ってきてやったんだよ。ゲーム」
「え? なにが目的だ?」
「……ばれるか。ちょっと今金欠でさ」
「まだ初旬だぞ。またオークションでなんか落としたのか?」
「そーなんだよ! レトロゲームの筐体が出品されててさ! し・か・も! いまだ動くようでパーツ取り替えたら現役で通せるくらいになりそうなんだよ!」
「お前んち金持ってるんだから親に言えよ。それくらい出してくれるだろ?」
「それが趣味用のお小遣いから若干足が出て生活費に食い込んでるんだよ。食費だけに」
「面白くねーし。なに? 一人暮らしのために用意された生活費に手を出したから言いづらいのか」
「そーうなんだよ。親父に言ったら出してくれそうだけど、義母さんにばれたらお小遣い没収されかけた過去があるからさ……」
以前会ったことがあるが、浪費家に近い夏秋と父親に対して再婚した人は区分、区別をどうぶつの縄張りのようにしていて、そこからはみ出るといっさいの妥協も無しに判決を下す人物だった。出会って一言目が「最後まで友人でいてくださいね」で締められた時は喉がヒリついた。あれは夏秋(全員夏秋だが)を生け贄にするとあらゆる手段を用いて排除すると言ったかんじを受けた。
それに怒られると言うのは成人なれど泣いて許しを乞うだろう。だから俺に頼みに来たことだろう。まあ泣きついてきたのは今回だけではないが、あの母親を怒らせることは今回が初だな。他にもなんか買ったんだろう。
「で、なに持ってきたんだ? 前みたいなゴミゲーだとチクるからな」
「いやいや、あれはジャケ買いだからダメだったわけで、今回は俺もやってるゲームだ!」
「…………」
大半エロ系を持ってくるこいつのチョイスに顔を歪めるが出てきたパッケージは一般向けのものだった。
「その名も『エイジェンマ・フラグメント』! 今じゃ名前を知らない者はモグリと言われる一品だぜ!」
話に聞いたことがあるが、三年前に発売されいまなお盛況な分類的にはMMORPG? SLG? 複合型らしいゲームだ。まあその頃はさっきやってたゲームに没頭してた頃だから無視していたわけだが。
「そんな人気のゲームになっていたのか。と言うか、プレイしてるんなら売る意味ないだろ?」
「チッチッチ。甘いな鶴城。世の中には店舗特典と言うものがあってだな!」
「まさか貴様……?!」
「そうだ! 発売日当日にプレイするためのダウンロード版! 原画サイン色紙に抱き枕付きの各店舗特典分の本数を所持している! そのうちの一本だ!」
なぜかこいつは推しキャラがいないくせに前情報で気に入ったゲームの店舗特典を全て収集するのだ。どうしてるかしらないが、転売目的じゃないのは確定している。前に俺が気に入ってる絵師の色紙を貰おうとしたら拒否されたことがある。そして今みたいなときでもグッズは売りに来たことは一度もない。
「そーかそーか。じゃあそれ売れよ」
「無理だな。いかに人気のゲームでも発売日当日付近じゃない今売っても千、二千程度にしかならないならお前に売る。そしてご飯を貰う」
「いや、金の方を取れよ」
「他にも本数があるとはいえ同じのを持っていくのもしのびない。まあこれ以外は特別パッケージなので売りたくないのだがね」
こいつは変なとこに拘りを持ってるんだよなぁ。
とりあえず一週間分の冷凍した作り置きから二日分を渡して『エイジェンマ・フラグメント』を貰う。
「ありがとよ! やっぱり持つべき者は料理上手な友人だな!」
「うるさい」
あらかじめ持ってきていた保冷鞄にいれると手を振りながら帰っていった。
あんなことを言っているが、この前にやってるゲームが飽きたって溢したから気を利かせて持ってきてくれたんだろう。理由は変わらないだろうけど。
俺はそんな友人に口角上げて苦笑する。付き合いが長い友人に感謝しながら、
「もしもし、鶴城ですけど。お宅の息子さん無駄遣いしたらしいですよ」
現実溢れ話
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┃◎フ <
鶴城 某(名前はまだない)
ちょっとした家庭の都合で居住費、ライフラインは保証された一人暮らしをしている
夏秋(友人)の友達兼監視係として夏秋(継母)から保険兼バイト代として毎月十万になる通帳を渡されている。(使用理由を報告必須)
夏秋 某(同じく)
とあるゲームのオフ会で出会って意気投合した上、家が近かったのでズブズブの友人になった
たとえ親が居なくなっても死ぬまで自由に使えるくらい完成している
夏秋(父)
様々なことに手を出しててほぼほぼ当たって自動的に入ってくるようになった
というか再婚した方の夏秋(継母)が優秀だっただけ
夏秋(継母)
秘密が沢山