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wonder hole -last player Chain-  作者: にゃこ
9/9

流れ行く日常-4


吸い込まれるような雲ひとつない大きな青を見上げ、美しく囀る小鳥の鳴き声に耳を傾け心を癒す。


「痛っ!!」


突然頭を襲う激しい衝撃。

振り向いた先には呆れた顔のグビドが立っていた。


「気ー緩めすぎだろ。」

「しゃあーねーだろ…」

「まさか…お前怒ってるのか?ジョシュアが女王の休暇護衛になったの。」

「…。」

「あの任務は一人だけって決まっ…「知ってるか?グビド?女王の休暇、今回はリリアノイがお付きなんだ!!!」


そう!

この心の穴は愛するリリアノイがいないせいだ。こんなにも澄み切った美しいこの宮殿にリリアノイがいないことが辛すぎる。


重いため息をついた頃にはグビドは他の奴と会話していた。


女王の休暇

2ヶ月の間女王不在。その間、女王は交わると言われている。これで何度目だろう。


誰しも望む事…ジェナシスも望んでいるのだろうか?




護衛について数日が経った。

華宮殿自体はとても小さな宮殿だった。何よりも驚くのは広大な領地を埋め尽くす花々。遠く見える山までもが華宮殿の領地らしい。

まるでここは天国のようだ。

甘い花の香りを運ぶ暖かな風。

都会の喧騒など無縁な大自然。

故郷を思い出す。


護衛と言っても、やることはなかった。

華宮殿には女性だけで構成された特殊な部隊が待機していて、結局女王の護衛は彼女らが行なっていたのだ。自分と言えば特に何もすることがなかったので、ライブラリで本を読み漁ったり、敷地を探索するだけだ。そんなのらりくらりのことをしていても誰も咎めはしなかった。


これでは特別任務と言う名の休暇だ。


女王が日々何をしているのか全く分からず暇な時間だけが流れる。


何日か経った日の夜。相変わらず穏やかで広い空に大きな月がポツリと浮かんでいた。

特に何があったってわけでもなく、ただなんとなく…なんとなく外へと足が動いた。


灯りのない寝静まった屋敷。

月に照らされる中庭へとふと足が動く。


月の明かりしかないと言うのに、人の顔が確認できるほどだ。そこに1人の少女がいた。

目と目が合いその瞬間、脳内のありというスイッチが一斉に切り替わった。


女王だった。


簡易な白い寝巻きのワンピースだけを身にまとっている。うっすらと見える素肌は月に照らされ、まるで象牙のように輝いている。

その美しさに身を狂わせるのを止めたのは目を赤く腫らしすすり泣く考えられない状況だった。


理解ができなかった。

女王が泣くことがあるのか?


「こ…このような時間にどうされましたか?」


恐る恐る尋ねた。下手したら首が飛ぶ。


「いえ…何もありません。」


会話が途切れ沈黙が流れる。少し経った後

彼女は笑った。


「私の存在って何なのかなって…」


突拍子な言葉に驚く。


「え?」

「え?あなたはまだ聞いていなかったのですか?」

「え…はい。自分は何も…」


また彼女は笑った。少し後悔しているような表情が見えた。


「時期にわかりますよ…今回あなたが連れてこられたのはその為ですから。」


訳がわからなかった。

彼女はそう言ってすぐに立ち去ろうとしたので自分もそれに続いた。


「?どうしたのです?」

「自分は仮にも護衛としてここにいます。夜遅くに1人出て歩くのは危険かと。」

「あなたも見たでしょ?私の力。」

「それでも私はあなたを守ります。」


無意識に握った手のひらは柔らかく小さかった。少し困惑する瞳ではあったが嫌悪を感じているようには思えなかった。

片方の小さな手が倍はあるであろう自分の手を包んだ。


「ありがとう。」


儚くすぐにでもバラバラに砕けそうで消え入りそうな小さな声はしっかりと胸に刺さる。


彼女を送り届けた後の事は何も覚えていない。

どうやって自分の部屋まで戻ったのだろう?

自分の気持ちを抑えるのに必死だった。


彼女の言った言葉について知ることになるのは2日後のことだ。


連れられたのは宮殿の地下室。

そこは自分の知的好奇心を大きく震わせるのに十分すぎた。

最新の医療具に研究機器。学生時代に触れたことがあるもの、全く見たこともない機械。

それら全てを目の前にして声を出さなかっただけ自分を褒めてやりたい。


「あなたにとって懐かしいものだらけでしょ?」

「まぁ…」

「あなたにはこれから女王のお世継ぎのため働いてもらいます。」

「え?」

「前回のお世継ぎ作りは失敗に終わっています。これは前例のないことなのです。」


願ってもいないことであった。

これで女王の体を調べることができる。

不気味な体質を。遺伝情報も手に入る。


けれども同時に言いようもない不快な気持ちが襲った。


「あなたはタブーとされて忌み嫌われたこの分野で鬼才を放たれていました。女王はあなたに多大な期待を抱いています。光栄に思いなさい。」


そう言い放つリリアノイの視線は鋭く厳しいものであった。自分の心を見透かされているようだった。


そう言って彼女は女王のカルテを渡した。

びっしりと書き込まれた数字。彼女の体を構成するものが書きこまれている。もちろん知りたい情報はない。当たり前だ。


わかるのは知りたくもない情報ばかり。

けれどもそれ以上に勝るのは驚きだ。

到着してからの数日、ビッシリと数字が書き込められている。


同情を覚えた。


彼女の休暇は休暇なのではない。

これも1つの仕事。


前回のデータを手に取る。

適切なタイミング。相手の健康管理も適正に行われている。それでもなし得ることのない子。


違和感


子を急いでいる?

けれどもなぜその機会が2年に2ヶ月というこの休暇だけなのか?普通子が欲しいのなら、長期的に行うはず…


疑問が頭を駆け巡る。


「リリアノイいいかい?」

「なんです?」

「なぜ交わりはこの休暇のタイミングだけなんです?」

「女王がそう望んでいるから。」


それを言われると何とも言えなかった。

子が欲しいのに、短期集中…わがままにもほどがある。それでも自分はやらなければならない。


何を?


「僕は、なにをすればいい?」

「女王に子を与えればいいだけです。」


シンプルだ。

けれどもとてつもなく難しいことをこの人は言っている。


「リリアノイ…そんなに簡単にいうけど、交わりが限られている中で子を与えるなんて不可能だ…」


「あなたは過去に理論立てたんじゃないの?」


そう言って彼女は分厚いレポートの束を突き出す。


-体外受精と完全なる培養-


それは自分が過去に書いた論理立て、夢物語と捨てられた論文だった。

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