第9話・迷宮都市ルトラード攻略会議
レンス率いる黒龍旅団の次なる戦略目標は、【迷宮都市】と呼ばれる【ルトラード】だ。
何故、迷宮都市と呼ばれる様になったのか。他の場所にも迷宮は存在するのに。
その理由はルトラードの都市は、迷宮を中心に発達して来た都市だからだ。
都市の中心部には、何と二つの迷宮が存在する。
1.迷宮にも魔物が居り、外の魔物と違う事は、迷宮から出てこない(例外あり)
2.倒したら魔石と何らかのアイテムを落として、体は消滅する。
3.一定時間で復活する
の以上の三点が主な違いである。
魔物は滅多なことでは、迷宮外に出てくる事は無いが、それでも危険である為に都市内部にある事は非常に少なく、通常は迷宮近くに立てる事はあるが、それでも都市や街とは一定の距離がある。
なので、迷宮都市とは、都市内部に迷宮がある都市だけを指して言う言葉である。
何故、次の戦略目標が迷宮都市ルトラードに決まったのか。その理由はミナフルレア王国の正規軍の装備に、ルトラード産の物が数多く使われて居るからだ。
ルトラード産の物は品質が良く、数もそこそこ取れ、更に立地的にも他国からは遠く、王都迄の道はちゃんと整備されて居り、輸送面でも優れて居るからだ。
仮にルトラードが魔王軍に抑えられると、王国軍の装備の供給源の一つである事から、戦力の低下は避けられえない。
何せ、王国軍の装備の実に、三分の一はルトラード産の物である。
まだ予備などもあり、早々に困る事にはならないが、長期的に見れば大損失である。
更に西部の物流の商品の殆どは、このルトラード産の素材である。
これを奪われれば、西部の死活問題になり、ミナフルレア王国には大打撃を与えるだろう。
それに今回は、レンス率いる黒龍旅団だけでは無く、魔王軍第3軍団・第1師団全体で当たるのである。
他の魔王軍第3軍団の面々は、ルトラードへの援軍の妨害並びに、占領した各都市の維持任務に当たる。
レンスはウェスタンドの街に戻り、早速黒龍旅団の主要なメンバーを集めて、軍団会議で決まった今後の方針と、今度の戦略目標であるルトラードの攻略について意見を聞く。
集まった主要なメンバーは、副官のガッド、幕僚の一人でレンスの補佐官のアーリン、レンスの秘書官のマーリン、竜馬騎兵部隊長のグリッド、重装歩兵を率いる部隊長で緑色の鱗を持つウィンドリザードマンのライルは、部隊一の身長を誇る2m31cmである。そして空の部隊の飛竜騎兵部隊長のラミュであり、鬼人と呼ばれる見た目は、頭に角が生えて居る以外は人間と変わらない。金髪碧眼の美少女である。但し体格良く2mはある。そして鷲獅子騎兵部隊長カミュの双子の姉である。そしてラミュの妹で銀髪碧眼のラミュ。後は補給部隊長やアーリン以外の幕僚の面々を招集した。
机の上には、ミナフルレア王国の全体図と西部の地図、迷宮都市ルトラード近郊の詳細な地図が置かれている。
地図の上には、複数の駒が、敵味方置かれている。現在の魔王軍第3軍団の各師団の場所。ミナフルレア王国軍の各部隊の判明している場所に、それぞれ駒を置いて行く。
更には斥候部隊や、諜報部隊が持ち込んだ情報を書き記して行く。
それによると、ミナフルレア王国軍は此方の意図に気付いたのか、各地から部隊を招集し更には、貴族軍も集めている様だ。
ミナフルレア王国の諜報部隊は、前回の奇襲を反省したのか、大幅に組織改革を行い此方側にも諜報員を送ってくるが、それも悉く捕らえられたりしている。
だが、大規模に此方が動こうとしたのは察したのだろう。
それが例え囮部隊であり、此方の本命である迷宮都市ルトラードとは遠く離れた場所だとしても。
「ミナフルレア王国以外の周辺諸国の動きですが、彼等はまだ国境付近に部隊を配置したまま、動く気配は御座いません。大方此方とミナフルレア王国が疲弊して漁夫の利を狙っているのかと」とアーリンが私見を述べると、グリッドが「まだ、人間はそんな愚かな考えで動いているのか?」と嘲ると、他の面々もそれに同調する。
「まあ、我々には都合が良い事だ。それで目標のルトラードはどうなのだ?」とレンスが尋ねると、幕僚のアラクネの一人が、立ち上がり報告する。
「はっ!ルトラードは迷宮都市と言う都合上、中心部の城壁が一番堅牢に出来ており、外側の外壁などは中心部と比べると、高さ、厚みなどは劣ります。ルトラードの守備部隊は約3,000それに加えて、探索者と呼ばれる冒険者の中でも、迷宮を専門とする冒険者も、ルトラードの防衛に携わる様です。数は今のところ500とありますが、増え続けている様です」
「そうか、ご苦労。他に情報はあるか?」
レンスの問いに挙手をしたのは、また違う幕僚の一人だ。
レンスに促されて立ち上がる。
「はっ!ミナフルレア王国の一部の貴族が、地位その他の安泰を条件に、此方側に付く事を打診しようか。検討しているとの情報が入りました」
「ほう、人間側は我ら魔族側を、下等な種族と蔑み、モノや害虫扱いしている。と記憶しているがな」とレンスは皮肉を口にする。
他の者達も人間には敵意を剥き出している。
「少し劣勢になったからと、裏切りを検討するなぞ。やはり人間は醜い種族ですね」
「ああ、その通りだ。一応人間種としての扱いを受けている、エルフ、ドワーフ、獣人も亜人とされ一段も下に見られている。気に入らなければ、魔族や魔物として人間社会からの追放か、捕らえられて奴隷にされると聞いたぞ?」と恨み辛みを口々に話す。
殆どの魔族は過去に、人間に何らかの仕打ちを受けて酷い目にあった者達だ。
このままだと、会議が進まず愚痴だらけになりそうなので、レンスが口を開こうとしたが、その前に副官のガッドが叱責する。
「静まれ!貴様らの言い分もわかるが、今は作戦会議の場だ!愚痴なら後で好きなだけ儂が聞いてやる!今はルトラードをどの様に落とすかが議題ではないか!」
ガッドの叱責に話をピタリとやめて、一斉に立ち上がり頭を下げる。
「「「申し訳御座いません!」」」
「分かれば良い。では、軍議の続きをしますかレンス様」
「うむ。そうだな」とガッドに視線で助かる。と礼を言う。
それにガッドは微笑む。
それまで黙っていた、鬼人のラミュが口を開く。
「ルトラードには、まともな飛行部隊がいやしないんだろう?ならさ、あたしとカミュの飛行部隊で上空から爆撃で一気に片付けてしまうかい?」と露出が多く殆ど水着見たな服装のカミュが発言する。
だが、それをアーリンが否定する。
「いえ、それはやめといた方が良いですね。ルトラード内部には迷宮が二つ存在します。爆撃により迷宮内から魔物が溢れ出してしまえば、その後始末が大変になります。それに出来ればあまりルトラードは破壊せずに手に入れたいところです」て意見を述べる。
迷宮は鍛錬をするのには、持ってこいの場所である。
それに魔石は後方から輸送されて来るが、いつ何があるかわからない。
その為に供給元をここら辺で確保しておきたいところだ。
魔族領とミナフルレア王国領は樹海を隔てている為に、その輸送コストもバカに出来ない。
一応樹海を切り開いて、道を確保したが、樹海内には魔物がうようよしており、通るのは命がけになる。
ある程度は従魔師の職業を持つ、者達が手懐けて安全を確保しているが、絶対では無い。
因みに魔物と魔族の明確な違いは、職業を持てるかどうかだ。
魔物もスキルを持つが、職業は持つことが出来ないからである。
「なら、どうすんのさ?確かに一番外側の壁は、中心地の壁よりも劣っているけどさ、そこらの都市の物よりもよっぽど立派に出来てるよ?力押しで落とせない事は無いだろうけど、こっちもある程度の犠牲は出ると思うよ?」
「ええ、分かっています。ですので中から開けようかと思っています」
「へぇ、あいつらを使うのかい?でも良いのかい?こんな序盤で使って存在を知られても?」とラミュは挑発気味に言う。
「問題はありません。どうせ彼らでは判別する方法はわからないでしょう。それにいつかは露見する事です。それが早いか遅いかの違いでしかありません。それに無駄に渋って犠牲を出す方が愚かしいと思いませんか?」
「ハハッ!違いないねぇ!まあ、あたしはあんまり細かい事は気にしない性質でねぇ。暴れられればそれで良いよ」と言い豪快に笑うラミュに、アーリンは溜息を吐いて
「ラミュ。貴女も部隊長なのですからもう少し考えましょうよ?」と苦言を呈する。
それをラミュは「あたしにはカミュが居るからね」と一刀両断にする。
カミュはラミュの双子の妹で髪色以外は瓜二つである。
それ以外は性格が正に正反対である。
豪快な性格のラミュに対して、カミュは物静かで殆ど喋らない。
まあ、ラミュは鬼人族らしいと言えば、らしい。
鬼人族は細かい事は、あまり気にしない性質である。
なので、カミュが珍しいタイプと言える。
カミュも前線で戦える力を持つが、殆どは後方から指示を出して部下を的確に動かす、軍師タイプである。
「では、ルトラードの攻略には例の部隊が、城門を開け我らを招き入れる手筈を整えます。他の面々はいつも通りに準備をお願いするします」
この後は、魔王軍第3軍団第1師団の会議がある。
其処でこの案を打診して、是非を問うのである。
可決されれば、すぐに動き出せる様に準備も済ませてから、師団会議の開催場所である交易都市サンカウレに向かう。