第3話・ウェスタンド攻略戦・後編
《ウェスタンド守備軍・隊長》
最近魔王軍の動きが活発との事で、こんな辺境の街に沢山の軍が派遣されて来た。
辺境の田舎街だが、この街ウェスタンドは結構な大きさを持つ。
何せ辺境であるから、貴重な薬草や高価な魔物の素材が取れるからだ。
魔族領に程近い場所だが、ウェスタンドには、警備隊600名と守備軍400名しか居ない。守備軍普段は、警備隊の手伝いをしている有様だ。
何故魔族領に程近くあり、ある程度の規模のウェスタンドに、僅かな守備軍しか居ない理由。それはウェスタンドと魔族領の間には、広大な樹海が広がっており、多数の凶暴な魔物が生息している。
その為に此処に魔王軍が、攻め寄せてくる可能性は極めて低い為だ。
だが、状況が変わった。
魔王軍はどんな手を使ったのか、あの樹海を突破して近隣の都市や街に攻勢を掛けて来た。
その為に、徴兵を急遽実地して、取り敢えず数だけ揃えて2万近くが、此処ウェスタンドに派遣されて来た。
数だけは立派だが、碌に戦った事もない農民の集まりだ。
辛うじてまともなのは、魔法部隊と指揮官だけだ。
ミナフルレア王国は、魔術師のレベルはそれ程高くないが、他国よりも数は多い。その為に魔法王国と呼ばれる事もある。
はぁ。この街には攻めてくるなよ。
2日後
思いも虚しく、ウェスタンドの街に魔王軍が、襲来して来た。
だが、見たところ数は五千強程度だ。
もしかしたら、後ろの森の中にもまだ居るかも知れないが、そこまで多くはないだろう。
これなら勝てるのでは?と隊長が思って居ると、王国軍の司令官に呼び出されたので、指揮所に向かう。
中に入ると、指揮官が険しい顔をして居た。
「よく集まってくれた。見たところ何人かは楽観視して居るようなので、先に告げておく。
確かに魔王軍は五千強から六千だが、侮る事なかれ。敵の軍旗と装備それに種族を見るに、敵部隊は黒龍将軍が率いる精鋭部隊だ」と告げて来る。
黒龍将軍か。大層な名が付いた敵だな。と思った。
「対して此方は、数は多いが大半が徴兵で、集められた農民が殆どだ。なので攻勢には出ずに籠城戦をする。他の所へ援軍を要請して居るが、他の場所にも魔王軍が現れて居るので、望みは薄いだろう」
どうやら不味い相手らしいな。
その後は、簡単に作戦の説明を受けて配置に着く。
敵がワイバーンなどを出して来たのに対抗して、此方もヒッポグリフ部隊を出すが、数は圧倒的に不利だ。
それに敵の魔法部隊は強力で、此方の魔法部隊よりも威力・距離共に向こうの方が断然上だ。
範囲内に入った敵に、矢を放つが全く聞いて居ない。
そうこうして居るうちに、門が破られて敵が街内に侵入して来る。
クソッ!こうなれば一人でも多くの部下達を無事に逃がしてやる!
■
門を抜けて中に入ると、既にあちこちで部隊同士が鉾を交えていた。
大通りでも、歩兵30人が横並びになるのが精一杯の大きさだ。
街中では、集の力よりも個の力が、強い方が有利だ。
それ故に特に抵抗らしい抵抗もなく、敵を次々と駆逐して行く。
空を飛んで居る飛竜騎兵からの念話が届く。
『レンス様。敵が東門から撤退……いえ、逃亡を開始しました。追撃致しますか?』
『いや、そのままで良い。反抗して来る敵以外は無視して構わん。飛竜部隊は引き続き地上部隊の援護を、鷲獅子部隊は敵の増援が来ないかの、周辺警戒を怠るな』
『『了解』』
二人の部隊長から、了承の返事が返って来る。
敵の殆どは農民の集まりで、組織立った抵抗は殆ど無い。
敵の指揮官を見つけて、鉾の一閃で首を切り取る。
これで勝敗は決定的になった、守るべき街人を置いて、雪崩を打ったかのように、東門へと逃げて行く。
うちの旅団は軍規が行き届いているので、街人に手を出す不届き者は居ないだろう。
確かに俺自身、故郷を人間の軍に焼き滅ばされて、人間を憎んで居ない。と言えば嘘になる。
前世が人であっても変わりはない。
だが、無関係な人々を虐殺して、獣のように成り下がるつもりは無い。
殺すのは軍人と悪人だけだ。
それを旅団員全員に徹底した。
納得が行くまで一人一人と、根気強く話て何とかみんなに納得してもらった。
そういう経緯もあり、旅団員はレンスに絶対的な忠誠を誓って居る。
レンス自身も彼らを、家族の様に大事にして居る。
ウェスタンドの街は、黒龍旅団の攻勢から僅か四時間足らずで、陥落した。
ウェスタンドに居る残党兵も徹底的に駆除し終えて、完全にウェスタンドの街は魔王軍の支配下に収まる。
街の統治方法は、同じ魔王軍でも部隊ごとに異なる。
残虐な性格の部隊長が治める街なら、阿鼻叫喚の地獄絵図になるだろう。
理知的な部隊長が治める街なら、今まで通り。とは行かなくてもある程度の自由がある。
と千差万別である。
街に残った武装勢力は、警備隊と守備軍の僅か兵だけだ。
増援として来た、ミナフルレア王国軍はほぼ全軍討ち取られたか、逃げ出したかのどちらかだけだ。
それを見てレンスは、近隣の都市などにミナフルレア王国軍は自国の民を見捨てて、逃げ出した。とあちこちに噂を流して、敵の士気の低下と団結力の低下を企む。
それに早期に街を落とした事で、他の魔王軍と戦っているミナフルレア王国軍は、此方側も気にしなければならなくなり、ますます苦戦を強いられて居る。
此方に派遣された軍と違い、正規の兵が多数配属されて居るために、今しばらくは耐え凌ぐだろうが、それも時間の問題であろう。
まあ、今はこの街の統治に尽力するか。