第2話・ウェスタンド攻略戦・前編
レンスの目の前には整然と並び待機する、旅団員達の姿があった。
レンスは1段高く設けられた、場所に立ち彼らに声を掛ける。
「旅団各員傾聴!」とガッドが言う。
「諸君。軍団長閣下より命令が下った。これより我ら黒龍旅団は、人間領はミナフルレア王国領最西部の街、ウェスタンドに進軍。これを占拠し支配下に置く。ウェスタンドにはミナフルレア王国軍2万が駐屯して居り、数の上では劣勢だが、諸君らなら必ずや攻略してくれると信じている。進軍開始!」
レンスが腰の剣を引き抜き、天高く掲げると「「「オォォーー!!!」」」と雄叫びが上がり、進軍を開始する。
攻撃三倍の法則からすると不利だが、その不利を覆すだけの力がある。とレンスは確信していた。
レンスは愛竜の竜馬に跨る。
竜馬はラプトルに似た存在だ。
竜馬はあまり懐かない、性格の生物だが、不思議とリザードマン達とは相性が良い。
本能的に此方が上だと悟っているのだろうか?
此処からウェスタンド迄は4日の距離である。
■
4日後……
問題なくウェスタンドの街近くに到着した。
ミナフルレア王国軍は籠城の構えを見せている。
数では優っているが、やはり身体能力の高さでは人間は魔族には及ばない。
今回は敵の殲滅では無く、街の占拠であるために包囲しない。
まあ、此方は6,000しか居ないので、包囲しようにも出来ない。
ウェスタンドの街の西側に、黒龍旅団は陣取る。
此方は早速ワイバーンに騎乗した、飛竜騎兵部隊とグリフォンに騎乗した、鷲獅子騎兵を出す。
ミナフルレア王国軍は、グリフォンの下位種であるヒッポグリフを出して来た。
黒龍旅団800騎に対して、ミナフルレア王国軍側は、僅かに200騎と圧倒的に此方側が有利だ。
「制空権を確保せよ」と号令を下すと、800騎はそれぞれ、編隊を組み攻撃を仕掛ける。
「魔法砲撃隊、攻撃準備」淡々とレンスは命令を下して行く。
空で激しい戦闘が繰り広げられている。
そろそろ此方も行動を開始するか。
「魔法砲撃隊、準備は完了しているか?」
「はい。いつでも砲撃可能ですレンス様」
レンスの問いに答えたのは、副官のガッドである。
「では、砲撃開始。魔法砲撃隊に続いて、弓部隊も一斉射撃開始。前衛部隊は突撃を開始せよ」
此方が魔法砲撃を開始すると、ミナフルレア王国軍も負けじと魔法を放って来る。
だが、此方は独自に開発した複数人での複合魔法に対して、敵は個々人が放つ魔法でしかない。
その為に威力は此方が断然上だ。
だが、それでもあの数の魔法部隊の攻撃は厄介である。
「魔法砲撃部隊に、敵魔法部隊への砲撃を集中させろ」
「了解しました」
伝来を受けた兵士は、すぐに駆け出して行く。
敵も魔法だけでなく弓矢を放つが、リザードマンの鱗は硬く、辛うじて鱗に傷を付ける程度である。
まあ、リザードマン以外の種族も、それぞれの種族適性を生かして敵の矢の攻撃を防いでいる。
空を見上げると、敵のヒッポグリフ部隊は壊滅しており、制空権の確保に成功していた。
ワイバーンやグリフォン達が、上から爆撃して行く。
此方が使っている爆弾は、魔石に融解ギリギリまで火魔法を込めて、樽の中に油と一緒に入れて落とすだけだ。
落下時の衝撃で、魔石が砕けて一気に爆炎を撒き散らすのである。
もちろん魔石には予め細工を施している。
人間側も真似しようとしたが、失敗している。
それもその筈だ。
此方には前世の記憶があるのだから。
樽の中の魔石は二種類あり、火魔法を込めた魔石と、風の魔法で火山ガスを込めた、魔石の二種類を用意しているのだ。
この世界にはまだ、ガスの概念が無いのである。
なので彼ら人間は、魔法のだけで爆発を起こしていると、考えている。
確かに爆炎魔法は存在するが、行為の魔法で使える術師は少ない。魔石に爆炎魔法を込め様にも、その場合は高価な魔石で無いと耐えられない。
それよりも直接相手側に放った方が、安上がりである。
前衛部隊が、正面門に取り付き、破城槌で攻撃を食らわせる。
そして、いよいよ門が耐えられなくなり、閂の割れる音が此処まで聞こえて来た。
「では、王手をかけに行くか」とレンスは呟き、この場の指揮をガッドに任せる。
「では、後は頼んだぞガッド」
「お任せ下さい。レンス様。グリット、レンス様の事は任せたぞ」
「了解。ガッドの旦那。レンスの事は任せな」
そう答えたのは、青色の鱗をしたブルーリザードマンである。
グリットはレンスの幼馴染で気心の知れた間柄である。
竜馬騎兵部隊隊長であり、レンスが竜馬に乗り突撃する時、その護衛役をしている。
「グリット。レンス“様,,でしょ?」
「アーリン。ちゃんと部下の前では閣下って呼んでるぜ?」
「はぁ。わかったわ。今は忙しいから後で話しましょう」
「行くぞ」
このままでは、話が長引きそうだと感じたレンスは、声を掛ける。
そしてそんなやり取りの間に、門は音を立てて崩れ落ちて行く。
「竜馬騎兵!我に続け!」とレンスが号令して、飛び出して行く。
その後をグリットが続き、竜馬騎兵達も後を追う。
レンスを先頭にした鋒矢の陣形で突撃した。