第1話・生まれ変わればリザードマン
レンスに語りかけるのは、彼の父親だ。
「いいかレンス。我々リザードマンは伝説に歌われるドラゴンの末裔なのだ。今のこの世界にドラゴンは存在せず、その下位種と言われる人語を話す事が出来ない、ワイバーンしか存在しない。
だが、我々の先祖が残した文献によれば、ワイバーンは確かにドラゴンと似た生態をしているが、全く別物の種族である事が書かれている。
そして、我々リザードマンが正統なドラゴンの末裔であるのだ。
我々リザードマンがある特殊な条件を満たした時、ドラゴンへと存在進化する事が出来るのだ。
だが、残念ながらその条件が書かれた文献は喪失してしまい。ここ数百年ドラゴンは現れて居ない。
そのせいで我々は嘘つきだと他の種族に言われて、ここの人間領でも魔族領でも無い地域に一族総出で、移動してきたのだ。
いいかレンス。いずれはお前か。お前の子孫が我々リザードマンの悲願を達成してくれることを、願っているぞ」
レンスは族長の孫であり、リザードマンの中でも才能豊かである事から、将来を渇望されて居たのだ。
■
はっ!またあの夢か。
近頃よく見るな。
レンスが見ていた夢は、子供の頃。まだ村が人間に襲われる数年前の出来事であった。
レンスはベッドから起き上がり、洗面台に行き顔を洗う。
レンスは族長の一族として全身が黒い鱗に覆われていた。
リザードマンの特徴として、鱗の色で大体の属性が判別出来る。
大体であって必ずしもそうとは限らないが、殆どの者は鱗で属性を判別出来る。
黒の鱗を持つのはレンス達族長の一族のみである。
まあ、今は彼の親兄弟は亡くなり、レンスが最後の黒き鱗のリザードマンである。
服を着ていると、扉がノックされたので入室の許可を出す。
「失礼します」入って来たのは、赤い鱗を持つ、レッドリザードマンの女性だ。
名前はアーリンと言いレンスの幕僚のうちの一人だ。
レンスは黒い鱗をしている、ブラックリザードマンである。
装備類も全て黒で塗色しているため、敵からは【黒龍将軍】と恐れられている。
レンスの率いる旅団もいつの間にか、【黒龍旅団】と周りから呼ばれ、部下達も黒く塗色された鎧を着る用になった。
旅団の紋章も黒の龍とまさに黒一色だ。
初めのうちは、この厨二病感満載で嫌であったが、気付けば慣れて何とも思わなくなった。
レンスの装備類が黒く塗色されて居たのは、夜間行動時に目立たなくする為であった。
旅団に所属する殆どの者は、暗視の能力を持っており、人間たちは暗闇を見通す事が出来ない。
なので、夜間の奇襲攻撃が多かっただけだ。
レンスは他の村のリザードマン達も纏め上げて居る。
リザードマンが所属して居るのは、レンスの旅団のみだ。
旅団6,000名のうちリザードマンは、半数以上の約3,500名在籍して居る。
それと人間の言う魔族や魔物の区別は曖昧だ。
基本的に人間は敵対する存在を、魔族としており、人語を解さない生物を魔物として居る。
例えばゴブリンやオークなどは、人語を殆どの者は話せないが、彼らの言語はちゃんと存在し、魔族側からしたら亜人と呼ばれる括りになる。
だが、人間側からしたら魔物扱いである。
エルフ・ドワーフ・獣人と人間側からしたら、人種の彼らも魔族から見れば亜人に分類される。
結局人間からしたら、見た目と自分達に有益かどうかで区別して居るのだ。
このように色々と魔族・人間とは差異が存在するのだ。
■
「おはようアーリン」
「おはよう御座います。レンス様」
「早速では御座いますが、軍団長より命令が届いて居ります」
「ふむ。やはり予定通りにウェスタンドを攻略せよ。か?」
「はい。その通りです。我々が攻勢を掛けている間に、他の部隊も近隣の都市の攻略に掛かり、本隊は敵の主力部隊と交戦するようです。一応師団長からは増援が必要か、問い合わせが来て居りますが、如何致しますか?」
「軍団長閣下には、命令を受諾した旨を伝えてくれ。師団長閣下には、有難いが、我々黒龍旅団だけで攻略は可能だと、伝えてくれ」
「畏まりました」
「ガッドに出撃準備をする様に伝来を出してくれ」
ガッドとはレンスの副官でアースリザードマンである。
「了解しました」
アーリンが、一礼して退室して行く。
それと入れ替わるように、サキュバスの秘書官のマーリンが入室して来る。
「おはようございます。レンス様」
「おはようマーリン」
「本日のご予定ですが、先程アーリンが伝えに来た通りですので、会食などはキャンセルしておきますね」
「ああ、頼む」
レンスは魔王から子爵の地位を賜っており、その領地経営もしなくてはならない。
今は戦争中なので、代官が代わりに業務をしてくれているが、どうしてもレンスの決算が必要な物や、領地の商人との会食も職務のうちであった。
その後は装備を整えて、外で待機している旅団の元へ行く。