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さらば愛しき人間界  作者: 倉根 敬
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初期装備が犯罪レベル

むかしむかし……昨年の話。

一人の少年が異世界へ召喚されました。

少年の名は、浅見 優也【あさみ ゆうや】

といいました。


ユーヤはオタク、引きこもり、無職の完全に親を泣かせる立派な男で年齢は十八歳、高校生といっても良いのですが、


【夢のない奴は学校に行かなくても良い】


という持論を持っているため、高校入学当初からろくに登校しておらず、ダラダラと家で過ごしていました。

そんなある日ユーヤに人生を変える転機が訪れました。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


一一もう誰も止められない、俺に敵う奴はいない、どんな強敵でも俺の前では無力だ。


何故かって……たった今俺は新発売の数個限定フィギュアを買ってこれたからだ。

この時を俺はずっと待っていたんだ。

三日三晩計画を練り、確実に手に入るように定刻に並び寝る間も惜しんで買えるのを願ってて良かった。


人混みのせいで吐きそうになったけど、俺はやったぞ一一。

さてと、それではいつものようにゲームでも始めますかな、この前はボスの前までで終わらせておいたはず。


やっぱり最後ってなるとどうしても余韻に浸っちまうよな……ほら、祭りは準備してるときの方が楽しいっていうじゃないか、アニメでもそうだけど1クールの最後はどうしてもとっておきたくなるのよ。


ああ、もう終わってしまう……

あの世界観が……


初めて感じたこの感情は二回目を観ても同じようにはならないのね……ってなかんじ。

さぁ~て~っと、先程まで着ていたTシャツと短パンは脱ぎ捨て、いつもの私の戦闘状態になろうではないか……男だけが許されるオンリーパンツ


これにより、清々しい涼風(扇風機)が体全域に当たるの、だ。


それでは、ハ一ドの電源をつけて軽く手足の準備運動をしたところでゲームをすることしますか。

ボスよ、かかってこい!

そうして、ユーヤはゲームへとのめり込む。



一一手前には既にぬるくなった炭酸飲料、左手にはコントローラを持ちテレビ画面とにらめっこを始めてから二時間はたった頃合いだろう。



『ダァ一一、もう、倒せないじゃん。

第一何だよこのボスの全回復システム、ほぼ無敵じゃないか!

これじゃボス死にたくても死ねないよ?

ボスだって自殺願望くらいあるさ

開発部のみなさんよぉ?もう少しボスにこの世を去る機会を与えてあげてよぉぉ。

……ああ~~、今日の楽しい一時が台無しだ。』



ユーヤは責任もとれるはずもないゲームに向かって毒づいた、ボスの気遣いなどもはや余計なお世話である。



『次で負けたらもう、今日はやめる。』



そういって、再びボスへの再挑戦を挑んだユーヤ。

本来なら、花の高校生であるはずなのに入学当初からほとんど登校せず、先生からも見放されている始末だ。

下手をしたら在籍名簿に既にないのかもしれない。



『時は……かみなりだ!……違う、金成だ。

学校に行くよりゲームしてた方が断然有意義だね。』



その屁理屈の多い少年は社会不適合者を生み出しているのは社会自身だと言わんばかりに自分の意見を正当化する。



『とにかく、俺の今の敵はお前だ、ボス様よ。』



その声ははかなく自室の中の者にしか聞こえない……つまりユーヤだけ。


しかし、タイミングよく画面上のボスが呼応し、突然の攻撃を仕掛けてきた。



『おおっと、へへ、お前の攻撃はもうよめてんだよ。この俺がバグでも使わない限り倒せないお前を潰して、勝利を飾ってやる。バグも使わず勝利する……略してバグ勝。』



ユーヤは宣戦布告の通り次々と攻撃をかわしていく。

すると、ボスに一瞬の隙が出来た。



『ヨッシャ一、貰った~~。』



この好機に一気に畳み掛けようと試みる、そのままいくとユーヤの勝利は目前だった……

だが、運命はそれを許さない。

ボスが今まで出してこなかった技一一口から火を吹き出したのだ。

あえなく、ユーヤのアバターは無惨に焼き尽くされた。



『おい……おい一一、こんなのありかよ、最後の最後で切り札みたいな攻撃とかふざけんなよ。』



ユーヤは腰掛けていた椅子でバタバタと暴れる、上半身を前後に揺らし頭部を振って怒りを露にする。



『なぁあんでだよ一一。』



さすが引きこもりとだけあって、ゲームにかける情熱は凄まじく目が狂気に満ちていた。



『俺がどれだけこれに時間と労力を費やしてきたか、会社側は知らないんだ一一。

一人分の廃人くらいしっかりお世話してよぉぉ』



叫び声と同時に徐々に椅子の軋む音は大きくなっていく、そうは知らないユーヤはより激しく動かし続ける。

やがて、椅子事態が耐えきれなくなり、脚の部分が前に倒れ、ロ一ラ一が宙に浮く。



『ヤッベェ一一、まずいっ。』



ユーヤの体は椅子の勢いで後ろへと投げ飛ばされ空中に浮かび無重力空間にいるような感覚になる。

地に着く場所は恐らく自室の床であり、軽く叩きつけられ肘か後頭部を打ちつけ……そこで終わるはずなのに、ユーヤの場合は全く違っていた。




一一ザブ一ン。



肌に何か冷たい物が触れた……いや、触れたというより包み込まれたといった方が正しかった。



『冷たっ!?えっ?何で?……ていうか苦しい……。』



突然襲い掛かるその冷たいものはユーヤの耳や口の中まで侵入してくる。


一一急になんなんだ……何が起きてるんだ……


だが、それは決して得たいの知れないものではなかった、それは誰もが知っているあれであった。




みず?……これ……水だ。



漸く落ち着きを取り戻し、状況を少々理解できた。

今水の中にいるのだということ、何故いるのかはわからない、どうして自室から水中にいるのかは全く検討もつかない。

それでも自分を襲った何かの正体が分かっただけ今は良しとしよう。



一一とにかく、ここから早く出ないといけない……息が……。



水面から顔を出して呼吸をするために足場を探したり浮けるようにバタバタと動く、だが焦ってうまく力が入らない、もう水中にいれる時間はないこのままでは死んでしまう。



一一あ~あ、俺……死んじまうのか……お父さん、お母さん、すみません先に逝かせて貰います。

くそ……ここが最期か……死んだら何しようかな……

なんにも思い付かないな……



しかし、その暗中模索ともいえる死後の計画はまだしなくて良さそうだった。

突然、下の方から勢い良く押されているが分かる物凄い力で水の流れが速くなった。



一一今度はどうしたのぉぉぉおおおお。




流れに負け体を持っていかれるユーヤ。


そして、何か筒状の柱から水が飛び出し、おまけに一人の少年も出てきた。



『キャ一一一一、噴水から誰か出てきた一。』



女性の悲鳴が聞こえ、辺りの人達は皆噴水から離れてその飛び出してきた誰かを凝視していた。



一一た……たすかった……死ぬかと思った……



王都のど真ん中の噴水から現れた少年は何も言葉を発さず、荒く息をしていた。



『誰か一一、警備兵を呼んで一、ここに露出魔がいるわ一。』



一人の女性がユーヤを指差して叫んだ。

その女性はかなり毛深い方のようだ、手には体毛が濃くあり、顔すらも覆われていて頭部には……猫耳が。



一一ハァ……ハァ……どこだここ?……いやそれよりも……。



『あれ?なんかスースーするんだけど。』



ユーヤが下を向くとそこには自室での普段の……パンツ一丁の自分の姿が目に映った。



『ナニ一一!?俺、パンツしか履いてないじゃん。そして、なにゆえ猫耳娘がいるんだ?……

良く見ると、みなさん人間とは言い難い方々が多いですね。』



『警備兵さ~ん。』



何やらユーヤから見た正面の大通りから武装した兵士らしき二人が現れた。



『どうされましたか?』



『あそこに、変態がいます。』



『いや……あの……おれは……。』



『ちょっと君……ここは一般の方が危険だから一緒についてきてくれるかな?』


一一ああ、もう俺は他人に危害を加える人物確定なんだね。いや、待て‼


『違うんです。俺もどちらかといれば運命の神様の被害者なんです。』



『何訳のわからないこといってるの、ほら行くよ。』



警備兵が腕を掴もうとしたときユーヤは振り払い全速力で逃げ出した。



『アッ、こら、待ちなさい。』



一一まずいまずい、これはとんでもないことになってるよ。兵士に追われてるとかより、変態扱いされたことより、俺は、俺は今、夢にまで見た。


『異世界に来たんだ一一。』



『こら、変質者、叫びながら逃げるな。ジオ二等兵、直ちにノノ王女様にご報告を。』



『はっ!』



たった今、少年は人生で最大の転機に見舞われている。



異世界召喚……という普通では体験できないことに。


















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