藍さんの家から街にて ~気持ちは理屈では語れない~
―――「ガチャ」―――
「……見られてしまったか……私も不用心過ぎた。創君にはいずれ話さなければと思っていたのだが……もう少しだけ創君には知られたくなかった……」
僕が呆然と立ち尽くしている間に、いつの間にか戻って来ていたようで、僕が勝手に寝室へ入った事を怒る事もせず、藍さんはただ悲しそうな表情を浮かべながらそう言った。
「……藍さん、もしかして病気何ですか……僕に隠していたんですか?」
何とか身体が動くようになった僕は、壊れかけのからくり人形のようにぎこちない動作で藍さんの方に視線を向けた。
「……すまない。隠していた事は間違い無い……返す言葉も無いよ」
僕の冷たい目を見て、藍さんは悲しい表情から驚いた表情へと変わっていた。
「……すみません。今日はこのまま帰ります……勝手に入ってすみませんでした」
僕はこの重苦しい空気から一秒でも早く解放されたくて、そう言って藍さんの目を見る事無く、藍さんの横を通り玄関へと向かって行った。
自分自身で言っていた通り、藍さんも何も言う事が出来ないようで僕が玄関から出ていくまで声を掛けて来る事は無かった。
僕はあの場所に居たら間違い無く、藍さんを傷付けるような言葉を口にしていただろう。そうなる前にあの場所から立ち去る事が出来たのは、正直な話かなり運が良かったと思う。
僕自身、藍さんがどんな想いで、病気の話を僕にしなかったのかは分からないけど、きっと藍さんの事だから、僕の事を考えて今まで話さなかったんだろう。そんな事は嫌という程分かってはいたのに、僕に黒い感情が芽生えた事に自分自身、驚きと怒りを感じていた。
「……どうして、僕はいつもこうなんだろう……僕も変わりたい、変わりたいけど……」
僕自身がこんな性格だから、今の今まで友人と呼べる存在がいなかったし、恋人何て夢の又夢だった。それが一度に叶って、いつの間にか僕は浮かれて、油断していたのかも知れない。
人はそう簡単に変わる事は出来ない。変わったという人はいくらでもいるけど本質的な所は何も変わらない。そんな事はずっと前から分かっていた事なのに……そんな幻想にも似た時間を過ごし、僕は何もしていないのに変わったと勘違いをしていた。
「……誰か、僕を助けてよ……」
僕は空を見上げながら一筋の涙を零した。そんな矛盾した僕の気持ちとは裏腹に茜色に染まった空は、僕の事を優しく照らし出していた。その自然の温かさが今の僕にはどうしようもないくらい気持ちが悪かった。




