保健室にて ~僕だけの特等席~
「えへへ……僕だけの特等席です」
少しだけ驚いている藍さんを横目に、僕は満面の笑みを浮かべながらそう言った。
「……なるほどな。これがしたかったから、わざわざソファーまで手招きをした訳か……」
藍さんは納得したようで、少しだけ呆れたようにそう言ってきた。
「むー何か不満げですね藍さん……嫌、でした?」
僕は頬を膨らませた後、恐る恐るといった形で藍さんにそう尋ねた。
「いや、別に。嫌だったら創君が座ろうとした時点で避けるなり何なりするさ……それよりもそんなに私に気を使うな……二人だけの時ならさっきのように敬語で話さなくたっていいんだぞ?」
藍さんは特に気にしていない様子だったが、付け加えるようにそう言ってきた。
「うーん。確かにそれも良いかも知れないんですけど……何かもう癖みたいになっているので、徐々にって事で良いですか?」
さっきまでのは藍さんに感化されて、半ば勢いに任せていた感じだったので気にならなかったが、改めて言われてみると違和感しかない訳で、僕は悩んだ結果そう返した。
「まぁ、私はどちらでも構わないんだがな……さぁ、食べよう食べよう。さっきよりも近くに焼きそばがあるせいで匂いで涎が垂れてきそう何だ……」
白衣の袖で口元を拭うような仕草をしながら、藍さんは僕にそう言ってきた。
「仕方無いですねーこの焼きそば、実は冷めても美味しいように作ったので間違い無く美味しいですよ? 食べさせてあげますねーはい。あーん」
そのままにしておくと、僕ごと食べられてしまいそうだったので、綺麗に箸を割り焼きそばを掴むと、見上げる形で藍さんの口元に焼きそばを持っていった。
「……う、うむ。では、いっ頂きます!」
差し出された焼きそばを目の前に、一瞬だけ狼狽えるような表情をした後、意を決したように口にした。
「えへへー」
僕は何だか動物に餌付けをしている時の高揚感を感じ、それと共にしあわせな気持ちに浸っていた。
「……恥ずかしすぎて味が分からないと思ったが……美味しいな」
藍さんは顔を真っ赤にしながら、驚いたようにそう言ってきた。
「それはそうでしょ? だって僕が作った焼きそばですよ。それくらいで味が分からなくなる訳無いじゃないですか?」
僕はさも当たり前のように、驚いている藍さんにそう言った。
「……相変わらずだな。さて、次は私が食べさせてやろう。私ばかり食べるのは申し訳無いからな……」
藍さんは普段通りそう言っていたが、顔は真っ赤なままだったし、焼きそばを掴んでいる手はプルプルと震えていた。
「では、落としてしまう前に……いっただきーます」
藍さんは今にも落としてしまいそうだったので、慌てて噛み付くように口の中に入れた。
「……何か不公平だ……」
僕があまり恥ずかしそうにしていなかった事が気に入らなかったようで、不満げな表情を浮かべていた。
僕たちはその後、お互いに食べさせあった。最後の方になってようやく藍さんも恥ずかしさが消えて来たのか、慣れた手付きで僕に食べさせてくれていた。
文化祭が終わるまで、時間一杯を使って焼きそばを食べていた僕は、少なくなっていく焼きそばを見ながら、幸せな気持ちと共に終わりが見えて、少しだけ寂しい気持ちを抱いていた。




