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スノードロップ  作者: 白城縁
高校三年生 秋
88/372

お化け屋敷にて ~形無しのお化け役~

//////////


 お化け屋敷の前に辿り着くと、この前の遊園地とは比べ物にならないクオリティの装飾が施されているテントを目の当たりにして少しだけ寒気を感じた。

「うっ……落ち着け俺……大丈夫、偽物偽物。本物何かじゃない……」

 俺は隣にいる藍に聞こえないように小声で、まるで呪文のように繰り返し呟いていた。

「……本当に入るの? これ……」

 幸い藍は藍で余裕が無かったようで、今にも泣きそうな表情をして、俺の腕にしっかりとしがみついていた。

「……ふぅ、心配するなって、俺がついてるから安心しろ」

 俺は気持ちを切り替える為、一度大きく息を吐き藍にそう言った。

「う、うん。分かった、創がそう言うなら私も頑張るから」

 藍さんは目の端に浮かべていた涙を、制服の袖で拭いながら僕にそう言ってきた。

「よしっ、それじゃあ、行くぞ?」

 俺は腕にしがみついている藍の手をしっかりと握り、お化け屋敷の中へと入っていった。

 中に入ると外の装飾に負けず劣らず、本物さながらの廃病院が再現されていた。

「ひっ……」

 藍はあまりにもリアルな内装に驚き、短い悲鳴を上げた。

「流石にこれは……」

 このクオリティで文化祭の出し物だった事を思い出し、驚きを通り越して呆れてしまっていた。

「さぁ、行くぞ?」

 藍が想像以上に怖がっているせいか、それとも腕に藍の温もりを感じているせいか、俺は意外ではあったが慌てる事も怖がる事もなく、制服の辺りを冷静に見回す事が出来た。

「う、うん……でも、どうして、この前よりも怖いのに創は大丈夫なの?」

 藍は俺が怖がる様子を見せていない事に疑問を抱いたのか、そう訊いてきた。

「さぁ、何でだろうな。もしかしたら口調を変えたせいかもな、どうしてか藍を守りたいって気持ちが何時もよりも強くて、怖がって何かいられないのかも知れないな」

 この状況下でも、何故か普段よりも冷静に物事を考えられたのは気持ちの持ちようもあったのかも知れない。

 次々に現れるお化けの数々を俺はじっくりと見て回る余裕さえあった。あまりにもまじまじとお化けを見つめるものだから、お化け役の人たちは困ったような表情をしていた。

「何か思ったよりも、大したことないな」

 隣でまだ、震えている藍を見ながら俺はそう言った。入る前まで恐怖で足がすくんでいた人物の発言とは思えないだろう。入る前の言葉を藍に聞かれていれば間違いなく、格好がつかなかっただろう。

「た、確かに、どうしてかな。私もあんまり怖くなくなってきた、かも」

 藍も俺の言葉を肯定するように、そう言うと辺りを見回し始めた。

 それから先の道はとてもお化け屋敷に来ているとは思えないような明るさで、現れるお化けやトラップを軽くあしらっていった。

 お化け屋敷を抜ける頃の二人は、とてもお化け屋敷に入っていた人たちとは思えないくらい、満面の笑みを浮かべていた事を僕は今でもはっきりと覚えている。

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