病院にて 〜思いがけない提案〜
「だから、いくら口調を変えたからといって、咄嗟の時や無意識な時なんかは昔の口調が出てしまうんだ。少なからず創君にも思い当たる節があるだろう?」
少し呆れたようにというよりは、少し恥ずかしそうに藍さんはそう言ってきた。
「確かにそんな事もありましたね。でも、僕さっきも言いましたよね? どんな口調だろうと藍さんは、藍さんだって……僕は藍さんの全てが見たいです。僕の全てを捧げて愛しますから。藍さんも僕に全て下さい……」
僕はそんな恥ずかしくも大胆な言葉を全く躊躇う事も無く、真剣な表情でそう言うと、藍さんにそっと抱き着いた。
「……創君……」
一瞬驚いたような表情をした後、藍さんも僕の事をそっと抱き返してくれた。
「ごほんっ、何度言ったら分かるんだ? このバカップルめ。あーもうやだやだ、さっさと何処かへ行ってしまえ。創君もそこまで元気なら心配無いだろう。折角の休みだまだ時間も早いし、デートでも行ってきたらどうだ?」
僕たちはそのままキスをするような勢いだったが、不知火先生の大げさ過ぎるくらい大きな咳払いで、現実に引き戻された。
「げふんげふん。デート、ですか……そう言えば今までデートっぽい事をした覚えがありませんね……それはとてもいい考えです、不知火先生。ありがとうございます」
僕はわざとらしく棒読みで咳払いの真似をしてから、不知火先生にそう言うと、ペコリと頭を下げて藍さんの手を引いてその場から逃げるように、大慌てで診察室から飛び出した。
「ちょっ、待てって引っ張らなくても着いて行くから……ったく、仕方のない奴だ」
藍さんは呆れながらも僕に身を委ねてくれた。
「さぁ、さぁ時間は有限。折角の機会ですしここは不知火先生の案に乗っかって楽しんじゃいましょう!」
僕はそう言いながら、さっきよりも自分の方に藍さんを引っ張って、まるで腕を組むような形で藍さんを引っ張っていった。
藍さんの答えの有無を聞かずに無理やり引っ張っていったのは僕自身が『デート』をしてみたかったという事が一番だったが、それ以外にあの場所にあれ以上居たら、また不知火先生に怒られてしまうような気がしたというのも理由の一つだった。
僕はこれからどこに行こうかと頭の中で色々と考えながら、呆れた表情をしている藍さんを見つめていた。
僕にされるがまま、引っ張られていた藍さんの口元が呆れた表情から、徐々に少し緩んでいく事に気が付いた僕はその事に嬉しさを感じていた。




