藍さんの家にて 〜伝家の宝刀〜
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抱き合ってしばらく経った後、ようやく僕の服が入っている乾燥機から完了を告げる音が鳴った。その音に少しだけ驚いた形で僕たちは慌てて離れた。
「あははっ、別に慌てて離れる必要って無かったですよね……何かつい反応してしまいました」
僕は慌てて離れてしまったのが少し恥ずかしくて、バスローブに包まれた腕をパタパタと動かした。
「……私は創君が急に離れたから仕方無く離れただけで、決して驚いた訳じゃないぞ?」
藍さんはあくまでしらを切るつもりらしく、一歩も譲らないといった表情をしている。
「なら、もう一度抱き合いますか?」
僕は藍さんを慌てさせてやろうと、伝家の宝刀『上目遣い』を使った。
「うっ、それじゃあ、もう一度……いや、まてまて、そろそろ病院に向かわなくては。無理を言って響華に頼んでいるんだ遅れる訳にはいかない」
効果は抜群だったようで、藍さんは一瞬動揺した後、首を振って冷静さを取り戻してそう言ってきた。
「ちぇーつまんなぁーい。まぁ、少しは動揺したみたいですし。必殺技を使った甲斐があります。因みにこの技を使ったのは藍さんが初めてです。良かったですね?」
僕は自分が思っていたよりも反応が薄かったので、頬を膨らませた後、藍さんを茶化すようにそう言った。
「はぁ……相変わらずおかしな奴だな、創君は。さっさと着替えをして病院へ向かうぞ?」
藍さんは一つ溜息を吐いた後、乾燥機まで行き服を取り出すと僕に渡しながらそう言った。
「それはお互い様な気が……」
藍さんは僕の事を度々、『おかしな奴』だとか『変わった奴』とか言うが、藍さんの方がよっぽどその言葉が似合うと思っていたので、つい口走ってしまった。
「そんな事を言って良いのか? 置いて行ってしまうぞ?」
藍さんは一瞬眉間に皺を寄せた後、挑発的に僕にそう言って、外へ向かって歩き出した。
「ちょっと、それは待って下さい。困りますよー」
僕は急にそんな事を言われたので慌てて着替えを済ませ、藍さんの後を追いかけた。
病院に用事があったのは僕の方だったので、藍さんだけ先に行っても意味は無く、僕がせかすくらいで良かった事に気が付き、後になって慌てて藍さん着いて行った事を少しだけ後悔した。




