自室から病院にて 〜気付いてしまった想い〜
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二人の会話を偶然聞いてしまった僕は、病院を飛び出してしまっていた。
家に着いても、橘先生の表情と言葉が頭から離れず、僕は布団の中で大声で泣いた。
「そっか、僕。橘先生の事、好きになっていたんだ……」
ようやく、僕は自分の気持ちに気が付いた。
「でも、こんなのないよ……どんな顔して会えばいいんだろう?」
橘先生を好きな気持ちと、莱霧という人物の話が頭の中でごちゃごちゃになって僕は葛藤していた。
それからの一週間、幸いというべきか、橘先生と会う機会は全くなかった。正直な話。今のこの心の状況で会ったところで、どんな顔をすれば良いか、どんな会話をすれば良いかなんて全く分からなかった。
「はぁー」
僕は毎日のように溜息を吐いて、今まで以上に人との距離を空けるようになっていった。
「行かないとダメだよね。かなり億劫だ。でもこれさえ乗り切れば夏休みだ。何も悩む事なんて無いんだ……」
僕は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。当初の予定では前回、病院に行った時点でギプスが外れる予定だったが、あの件があったせいで今の今までうやむやになっていた。その為、もう一度だけ病院に行く必要があった。
「はぁー」
僕はもう一度、ゆっくりと深い溜息を吐いて心を落ち着かせていった。心を落ち着かせながら自分の目が、心が、冷めていくのを感じた。
「あぁ、この感じ懐かしいな。まるであの頃に戻ったみたいだ……」
僕はまた誰に言うわけでもなく、ゆっくりとそう呟きながら病院へ行くためバス停へ向かい歩き始めた。
バス停に着くと程なくして、病院行きのバスが到着した。それからはあっという間だった。人がいつも以上に少なかった事。予約していった事。それらが相まってか病院に着いてから直ぐに診察室へと通された。
「失礼します……」
僕は普段よりもワントーン落としたような声で、静かに扉をノックしながら診察室へと入っていった。
「はじめくっ……小鳥遊さん。どうぞお座りください」
不知火先生も僕の雰囲気に気が付いたのか、普段通りに呼びかけようとしたのを辞め、あくまで『医師』と『患者』のやり取りに切り替えた。
「まずはこちらを見てください」
不知火先生はレントゲンを指差しながら説明を始めた。時々、不知火先生の視線が何か言いたそうにしているのに僕は気付いてはいたが、敢えて気付いていないフリをした。
説明が終わり、ギプスが外れようやく骨折が完治した。僕はそれが終わると早々に席を立ち診察室を後にしようとした。
「藍を恨まないでやってくれ……」
僕がドアノブに手を掛けた時、不知火先生のそんな声が聞こえてきた。僕は何の反応もする事なく診察室を後にした。




