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スノードロップ  作者: 白城縁
高校三年生 春
14/372

橘先生の車にて 〜場違いな高級車〜

//////////


「さぁ乗りたまえ……小鳥遊君」

 橘先生の後を暫くついて行くと、目的の場所に辿り着いたようで目の前の車を指差しながらそう言って来た。

「えっ、この車橘先生の車なんですか?」

 目の前にある車は詳しく無い僕でも明らかに分かるくらい、高級そうなものだった。

「何を驚いている小鳥遊君。私の車に乗るのは初めてではないだろう?」

 橘先生は不思議そうな表情をしている。

「えっそうでしたっけ?」

 記憶になかったので僕も橘先生と同じような表情をしていた。

「小鳥遊君が初めて私と会った日だよ。わざわざ送ってやったのを忘れたのか? ったく恩知らずな奴め……」

 橘先生は少し呆れているようで、溜息混じりにそう言った。

「あっそう言えばそんな事もありましたね。でもあの時は暗かったし、助手席に乗ったわけでも無いし……」

 橘先生が指差している車が、左ハンドルの車である事に驚きながらも僕はそう言った。

「いや、いくら暗くても流石に気が付くだろう。どんだ天然なんだよ、小鳥遊君は……」

 ここ最近の橘先生の表情は、終始呆れているのが基本になって来ている気がする。

「まぁ、しょうがないですよ。僕ですからっ! それにあのときは割と意識朦朧としてましたし……」

 僕は胸を張りながら橘先生にそう言った。

「理由になっていない気がするが……まぁ寝起きだったし、仕方無いと言えば仕方無いか。まぁ良いさぁ乗ると良い」

 橘先生がそういうや否や僕は助手席に乗り込もうとした。

「荷物が置いてあったんだから後ろに乗れば良いものを」

 僕はちゃっかり荷物を後部座席に移して、橘先生に言われる前に既に助手席に乗っていた。

「だってーせっかくじゃないですか。こんな車に乗る事なんて滅多に無いので今の内にと……」

 滅多に車に乗る機会がなかったので、つい普段よりもはしゃぎながら橘先生にそう言った。

「はぁ……乗る前の状態に戻して貰えるなら何でも構わないよ」

 橘先生は先程と同じく呆れたような表情をしていたが、少しだけ口元が緩んでいるのが見えた。

「流石―橘先生。分かって来たじゃないですかー」

 僕はニヤニヤした表情で橘先生にそう言った。

「あぁ、そうだな……」

 そう答えた橘先生は心ここに在らずといった感じだった。

「どうかしたんですか、橘先生? 早く帰らないと遅くなってしまいます。流石に深夜徘徊で捕まりたくはないので……」

 何故、急に心ここに在らずといった感じなったのかは分からなかったが、僕は敢えて気にしなかった。

「あぁ、そうだな……行くとするか」

 先程と同じ言葉だったが、今回は心ここに在らずって感じは無くなっていた。

「やっぱ車は早いですねーもうこんな所まで来たー」

 久しぶりに乗った車であった事。しかも左ハンドルの車だった事で、僕は子供のように無邪気にはしゃいでいた。

「何をそんなにはしゃいでいるんだ? 車なんて珍しいものでは無いだろう?」

 橘先生は不思議そうな表情をして僕にそう言って来た。

「いや、僕まだ学生ですし、両親滅多に家に居ないですし、車も家に無いですし……」

 まるで韻を踏むように僕はそう言った。

「そう言えばそんな事を言っていたな。無いですし何か済まないな……」

 橘先生はそう言うと少し申し訳無さそうな表情をしていた。

「謝らないで下さいよ。僕にとってはこれが当たり前なんですから……」

 謝られる理由は全くなかったので、間髪入れずにそう返した。

「私とした事が失礼。気を遣いすぎるのも良くないという事か……やはり、人と関わるというのは難しい」

 橘先生は左手を顎に当てながら考え込むような表情をしていた。

「そんなに楽な事だったら、人生そんなに苦労しないと思いますけどね……」

 僕達は二人して哲学的な会話を続けた。

「さて、もう着くぞ。小鳥遊君。ところで今日は何を作ってくれるんだい?」

 橘先生は何故かもう既にワクワクしているようだった。

「何でそんなに楽しそうなんですか? もしかして僕の料理の虜になったんですか?」

 そんな表情の橘先生を見て、僕はニヤニヤしながらそう言った。

「そっそんな事は無いぞ? 小鳥遊君が言ったんじゃないかインスタント食品ばかり食べるなと……」

 珍しく少し慌てながら橘先生はそう言って来た。

「前から思ってたんですけど、たまに可愛いところありますよね。藍先生・・・は」

 橘先生の珍しく慌てている姿を見て、僕は無意識の内にそう言っていた。

「頼むから勘弁してくれ、小鳥遊君。年上をからかうのは感心しないぞ……」

 やはり橘先生は名前で呼ばれる事が嫌ならしく、不満そうな表情をしていた。

「別に年の差なんて、そんなに意味のあるものだとは思わないんですけどね、僕は……」

 実際そこまで年が離れていない橘先生にそんな事を言われ改めて年の差なんて、たいした問題では無いと思った。

「小鳥遊君のような若者は珍しいと私は思うがね……」

 橘先生は呆れるように少し溜息混じりでそう言って来た。

「だから僕にしてみれば、貴女も十分若いと思うんですけど……」

 十歳程しか離れていないのに、そんな事を言われるのはなんか気に入らなかった。

「そんな事を言ったら……いや、辞めておこう。これでは無限ループだ。さっさと家の中に入ろう」

 こんな話をしていたせいか、いつの間にか橘先生の家に到着していた。

「えっいつの間に!? あー何作るか決めてないじゃ無いですかーもうー」

 僕は急いで車を降り、助手席にあった荷物を元に戻して橘先生を追いかけた。


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