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スノードロップ  作者: 白城縁
高校三年生 春
12/372

橘先生の家にて 〜久しぶりの料理〜

//////////


「ふぅ、まさか本当に家まで来るとは思わなかったぞ。しかも旅行にでも行くような荷物を持って」

 部屋の掃除もひと段落つき、本来の目的であった包帯を替えながら橘先生はそう言って来た。

「だってしょうがないじゃ無いですかー特売ですよ特売!」

 僕は包帯を替えてもらっている最中なのにも関わらず、椅子の上でバタバタと暴れながらそう言った。

「はぁ……頼むから暴れないでくれ、その話をし始めたらまた終わらなくなる」

 橘先生は溜息を吐きながらそう言った来た。

「ふぅ、そうでした。この話は終わったんでした」

 このままでは玄関でしたやり取りの繰り返しになってしまうと思い、一度深く呼吸をしてから僕はそう言葉を返した。

「さて……これで良し。包帯は替えておいたぞ……」

 僕が暴れている最中に既に包帯は替え終わっていた。

「あれっいつの間に……」

 僕は全く包帯を替え終わっていた事に気付かなかった。流石と橘先生と言うべきか。

「さて……私にご飯を作ってくれるのだろう? 先程から食材の話をしていたから流石にお腹が空いてきたぞ……」

 僕が驚いているは特に気にして無いようで、救急箱を片付けながらそう言って来た。

「おーそうでした、そうでした。ところで橘先生は特に好き嫌い無いですよね?」

 言われなかったら、ご飯を作る為にも来たと言う事を危うく忘れるところだった。

「あぁ特には無いが。変な物を作ったら私は口にしないからな」

 橘先生は奥の部屋に救急箱を片付けに行きながら、僕にそんな事を言って来た。

「橘先生……僕の料理の腕を知らないでしょう? 僕を馬鹿にした事後悔させてあげます」

 橘先生的には馬鹿にしたつもりは無かったのかも知れないが、どうしても馬鹿にされた気がして躍起になって言い返した。

「いや、私キミの事よく知らないんだが……」

 言われてみるとその通りだ。僕も橘先生の事を一切知らない。

先生? またキミって言ってますよ」

 橘先生は無意識なのか、僕の事をまた『キミ』と言っていたので、僕も負けじと藍先生と言い返していた。

「すっすまない。頼むから名前で呼ばないでくれ……小鳥遊君」

 やはり無意識だったのか、下の名前で呼ばれるのが余程嫌なのか、間髪入れずに謝って来た。

「うむ。分かればよろしい」

 間髪入れずに謝られた事に気分を良くした僕は、満足そうな表情をしながらそう言った。

「……何かムカつくな。私の方がずっと年上なのに……」

 僕が満足そうな表情をしていたのが気に入らなかったのか、橘先生は少し怒ったような表情をしていた。

「まぁまぁ、歳なんてそんなに気にする事ないですよ。高々数年早く生まれて来たくらいじゃ何も変わんないですよ」

 僕は橘先生をなだめながら、僕が思っている事をそのまま言った。

「そんなもんかね……」

 僕がそう言うと、橘先生は感慨深そうにそう言った。

「さて、そんな事より台所借りますよ? お腹ペコペコの橘先生の為にとびっきり美味しい料理をご馳走しましょう」

 僕はそう言って許可も取らずに台所へと向かい調理に取り掛かった。いつもよりも気分が良かったのか、僕は鼻歌を歌いながら料理を作っていた。

「やっぱ右手が使えないのは不便だなぁークオリティが落ちる。うーん納得がいかない」

 普通なら利き手である右手が使えなければ、料理を作ることすら出来ないという事は棚に上げ、完成した冷やし中華を見ながら僕はしきりに唸っていた。

「驚いたな、まさかこんなに料理が出来るとは……」

 丁度出来上がったタイミングで橘先生が声を掛けて来た。橘先生は本当に驚いているようで感心していた。

「いや、納得がいかないので作り直してもいいですか?」

 丁度良いタイミングで橘先生が現れたので、出来に全然納得がいっていなかった僕は橘先生にそう言っていた。

「いやいや、これ以上作られても食べきれないだろう……小鳥遊君は納得がいっていないようだが、私からしてみれば十分過ぎる出来なのだが……」

 橘先生にそう言われて、ようやく落ち着くことが出来た。

「ふぅ……それもそうですね。出来が余りにも気に入らなくて取り乱してしまいました」

 僕は一つ深呼吸をしてからそう言った。

「落ち着いたようだな……せっかく小鳥遊君作ってくれたんだ、早く頂くとしよう」

 僕が落ち着いたのを横目で確認しながら、橘先生はそう言った。

「そうでした、そうでした。橘先生、お腹ペコペコなんでしたね……」

 僕がそう言うとほぼ同時に僕のお腹も鳴った。

「ふっ、小鳥遊君も空腹のようだな。まぁ無理も無い、この頃暑くなって来ているのに長時間迷子になっていたのだからな」

 橘先生は軽く笑いながら僕を馬鹿にするようにそう言ってきた。

「うーだってしょうがないじゃないですか? まさかこんなに大きな家に住んでいるなんて普通思わないじゃないですか?」

 確かに若干、方向音痴ではあるが、そもそもこんなに大きな家に住んでいるとは聞いていなかったので、電話しなかったら一生辿り着かなかったかもしれなかった。

「そんなにこの家は大きいか? 私はもう何年もこの家に住んでいるから、感覚が麻痺しているのかもな……」

 僕に言われて気付いたようで、一人で仕切りに頷いている。

「そうです、その通りです。実は橘先生ってお金持ちだったんですね。もしかして有名な医者だったりしたんですか?」

 僕がそう訊いた瞬間、橘先生は少し悲しそうな表情をした。

「いや……今のは聞かなかった事にして下さい。さぁさ、せっかく僕が橘先生の為に作ったんですから、じゃんじゃん食べて下さい」

 聞いてはいけない事だったと思い僕はわざと明るく振る舞った。つい先程深入りはしないと決めたはずなのに、無意識に聞いてしまっていた。

「ふん、そうだな、せっかく食事出来るんだ。楽しく食べないとな……」

 僕が急に話を変え、急に明るく振る舞った事に驚きながらも橘先生はそう言った。その口元は少しだけ緩んでいる。

「そうですよー食事は楽しくです!」

 僕は橘先生の表情がいつも通りに戻った事を確認すると、もう一度わざと明るくそう言った。

「おっ思っていた以上に美味いな」

 橘先生は料理を一口食べると直ぐにそう言って来た。

「誰が作ったと思っているんですか……」

 驚いている橘先生を見ながら僕は少し呆れながらそう言った。

「失礼。こんなに料理が出来るとは思っていなかったのでな……」

 橘先生は本当に驚いているようで珍しく目を丸くしていた。

「言ったじゃないですか、僕はほぼ一人暮らししているようなものですから……」

 僕がそう言うと橘先生は少し申し訳無さそうな表情をしていた。

「そっか、両親は出張が多いんだったな……」

 そう言った橘先生は先程よりも少し暗い表情をしていた。

「まぁ、気楽で良いんですけど。一人分の食事を作るのって逆に面倒なんですよ」

 暗い表情をしていた橘先生に気付いていた僕は、あえてそんなに気にしていない事をアピールする為にそう言い返した。実際、気楽である事には違いないのだが……

「そう言う話はよく聞くが、そんなものなのか?」

 それに気付いたのかは分からないが橘先生からは暗い表情が消えていた。

「橘先生も料理すれば良いじゃないですか。そしたら分かりますよ」

 実際どうしてあんな立派な台所があるのに料理を作らないのか不思議に思っていたので、僕は橘先生にそう訊いた。

「いや、私には無理だ。以前何度か挑戦して見たのだが、レシピ通りに作っても上手くいかなくてな……」

 不知火先生からは全然出来ないと聞いていたので、何度か試した事があると聞いて意外だと思った。

「へーそうなんですか、残念です。なら試しに今度一緒に作ってみますか?」

 もしかしたら、橘先生の事なので少し要領を教えれば、あっという間に出来るようになってご馳走してもらえるかもと期待してそう訊いてみた。

「うーん辞めておこう……小鳥遊君の料理の腕が良いのは今日でよく分かったからな」

 少しは考えてくれたようだが最終的には断られてしまった。

「それは残念です……仕方ないので僕が橘先生に作ってあげる事にします」

 断られたのは確かに残念だったが、思ったよりも気分は落ちなかった。

「何か言葉とは裏腹に楽しそうだな……」

 僕がちっとも残念そうにしていない事に気付いたのか橘先生はそう言って来た。

「えぇ、そう言われてみればそうですね……人に料理を作るのってこんなに楽しいものだとは思ってもいませんでした」

 橘先生が言った『楽しそう』という言葉それを聞いて初めて僕は楽しんでいる事気が付いた。

「もしかして、他人に料理を作ったのは私が初めてだったのか? それは申し訳無い事をしたな……」

 橘先生は本当に申し訳無さそうな表情をしていた。

「いいえ、そんな事無いですよ? 友人に何度か作ってあげた事はあります。でもその時は何故か今日ほど楽しくなかったですけどね。それにこれから治るまでの間、お世話になるお礼なので安いものです」

 僕はあくまで『お礼』だと言う事を強調して言った。この時僕はそう言う事で自分の本当の気持ちを押し殺していたのかもしれない。その事に気が付くのはもう少し後のことだった。

 それから暫くの間、僕達は食事を楽しみながら会話を続けた。


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