屋上にて ~飾らない言葉~
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屋上の扉を開けた瞬間まるで、狙い済ましたかのようにつむじ風がまき起こった。僕はたまらず目を閉じて、その上目に砂が入らないように腕で視界を遮った。
本当に突発的なつむじ風だったのだろう……しばらくすると先程までの風が嘘のように止まり、目の前には雲一つ無い青空と共に懐かしい白衣姿の藍さんが現れた。
「……藍さん……」
あれだけ用心したのにも関わらず、目に砂ぼこりが入ってしまった僕は目を何度も擦りながらこれが幻では無い事を確認した。
「……やぁ、創君。久しぶりだね」
あの日と同じように、僕に気付いた藍さんはそっと優しい眼差しを僕に向けながらそう言ってきた。
「本当に久しぶりですね……」
僕も藍さんと同じようにそう言ってゆっくりと藍さんの隣に行き、屋上のフェンスに身体を預けた。
しばらくの間、お互い無言の時間が続いていたが、僕には伝えなければ行けない言葉があったので意を決して口を開いた。
「あ、藍さん……」
「は、創君……」
お約束のようにお互いの言葉が重なり、僕たちは堪えきれず同時に笑い出した。
「はははっ……藍さんからどうぞ」
僕は笑いながら、藍さんにそう言った。僕にはこの後藍さんが何を言うか容易に想像出来ていた。
『いやいや創君の方から先に言ってくれ……』
僕は藍さんが言うだろう台詞を一字一句違わず、藍さんと同じタイミングで言って見せた。
「そう言うと思ってました……だからちょっと被せて見ました」
僕は悪戯がバレた子供のように軽く舌を出しながら、少し不機嫌そうな表情をしている藍さんに言葉を続けた。
「藍さん……僕と結婚してくれませんか?」
ムードも何もない真っ直ぐなプロポーズ。折角色々と考えてきた言葉の数々が無駄になってしまったが、僕たちにはそんな飾った言葉よりもこっちの方がよっぽど合っているような気がした。
「……!?」
藍さんはいきなりしかもこんなタイミングでそんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。かなり驚いた表情をした後、言われた事を理解したのか頬を赤く染め俯いてしまった。
「そして、これを受け取って下さい……」
頬を赤く染めたまま、俯いている藍さんにポケットから婚約指輪の入ったケースを取り出して差し出した。
僕が差し出したものを見て、藍さんは更に驚いている様子だった。
「……一応言っておくが、私は教師だ。そして創君は生徒だ」
「分かっています」
「それに私は病に犯されている、いつまで生きていられるかも分からない」
「分かっています」
「それに、私は……んっ!?」
僕はここまで来て逃げる言葉を探している藍さんが愛おしくて仕方が無くなり、それ以上言わせない為に唇を塞いだ。
「ん……全部、分かっています……それも全て含めて僕は藍さんが大好きなんです……愛しているんです。だから僕と結婚して下さい」
僕の想いの丈全てを藍さんに真っ直ぐに伝えた。
「……はい。こんな私で良かったらよろしくお願いします……」
恥ずかしながらも、でもきちんと僕の気持ちに答えてくれた藍さんは、今まで僕が見て来た中で一番の可愛らしい笑顔を真っ直ぐに僕に向けてくれた。
その姿を見て我慢出来るはずも無く、僕はホームルームが始まるギリギリまでずっと藍さんを抱き締めていた。




