プロローグ ~あの日の想い出~
あの日僕は生まれて初めて授業をサボった。
あの日彼女に出逢わなかったら、あの出来事がなかったら。僕は僕自身を嫌いなままだっただろう。目標も無く夢もなかった僕に希望を与えてくれた彼女に、僕は一生感謝しなければならないと思う。それが彼女の生命と引き換えに遺してくれた。僕のいや僕達の子供の為にも……
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「小鳥遊、お前いい加減進路は決めたのか? お前せっかく成績良いんだからもっと上を目指したらどうだ?」
また始まった。僕は心の中でそう思いながら担任の話を聞き流していた。
「まぁ、まだ時間はある。ゆっくり親御さんと相談して決めなさい」
いつものようにお決まりのセリフを言って進路相談が終わった。僕は先生に一礼し進路相談室を後にした。
「僕だって不安だよ。今まで真面目に授業を受けてきたし、人並みの運動神経もある。でも……」
高校三年生にもなって進路が決まっていない僕に対して、親も教師も心配になのだろう。そんな事は僕だって分かっている。でも、どんな事をしても人並みには出来てしまう、そこに楽しさなんて存在しなかった。
「普通の大学に進学して普通に会社員になって、平凡な人生を歩むしかないのかな……」
最近はずっとこんな感じだった為か、前よりも人といる時間が短くなっていた。以前は休み時間、友達と話をしていたが三年生に上がってからはクラスが変わってしまったせいもあり、専らイヤホンを付けて音楽を聞くことが多くなっていた。両親も出張が多く、家に居ても一人の時間が多く更に会話をする時間が少なくなっていった。
こんな僕を心配してか、他の生徒よりも進路相談の面談が多かった。
「もうこんな時間か。早く帰らないと、あっあれ?」
そんな事を考えていると、視界が急に歪んで景色が反転した。自分が倒れた事に気がついたのは階段に差し掛かった後の事だった。気付くのに遅くなってしまったせいもあり、僕の身体は階段に叩きつけられ踊り場までそのまま転がっていった。