表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非情  作者: IAN
3/3

悪夢

何処を見ても、真っ赤だ。

鼻にツンとくる血の匂い。

後ろから来る気配から逃げるように走る。

「苦しい・・・・。」

「助けてくれ・・・・。」

「楽になりたい・・・。殺してくれ・・・。」

「この子だけは見逃して!まだ五つもいっていないの!」

「よーくーもー。」

「殺してやる・・・。」

幾度も聞いたことのある懇願や憎悪。

助けや情けを求める声が響く。


もし、この世界から抜け出せるのなら、

自分の命さえ差し出すことは惜しまなかっただろう。


今まで自分が殺めてきた沢山の命が僕に覆いかぶさってくる。

腐りかけた手が僕の足首を掴む。

必死に払いのけ、走る。

ごめんなさいっ・・・!

お願いっ・・・!許して・・・!

そう叫びながら走る。

いろんな方向から手が伸びてくる。

男の手。女の手。子供の手。赤子の手。老人の手。

皆が自分を殺した僕に向かって手を伸ばしてくる。

「独りは寂しいよ・・・」

「一緒にいこう・・・」

「ママぁー・・・どこに居るのぉ・・・?」

「貴様ぁ!よくも・・・!許さない! 絶対に許さない!」

「一緒に行こう。地獄へ」

「ねぇ、イ ア ン」

 たまらず両手で耳を塞ぐ。

聴きたくない

聴きたくない

聴きたくない

腰に掛けてある銃を手に取る。


最初からこうすればよかったんだ。

何を恐れているんだ。僕は。

邪魔なモノは排除すればいいじゃないか。

いつもみたいに。


拳銃の引き金を引く。

いつもみたいに。

イツモミタイニ。


周りに群がっていた死人達が倒れていく。

ある者は脳を打ち抜かれ、

また、ある者は木端微塵に吹き飛んで。


そうだ、邪魔なモノは消せばいい。

今までそうやって生き抜いてきたじゃないか。

消せばいいんだ。

僕が生きるのを邪魔する奴は、

皆。

消せばいいんだ。

血に塗れたアイの短刀を片手に持ち、自分がものの十分もかからずに創りあげてしまった惨状の中に立ち尽くす。

ぼくが創ったのは、自分の生きるための道なんかじゃない。

創ったのは、

創ってしまったのは、

ただただ、おびただしい数の

“死”

『ねぇ、イアン。』

いつか聞いたアイの声が頭に響く。

『どうして私たちは、同じことしか出来ないんだろうね・・・。』

僕たちのしていたこと。

それは、

ただの“人殺し”

間違っていると判っていても、

ソレにしか自分の存在価値が見いだせない僕たちがやったこと。

けど、ソレは。

一度やってしまったら、どう償っても取り返しのつかないこと。

『イアン。』

『貴方が本当にしたいことって、』

『何?』

アイ、君は僕より僕を判っていた。

僕がずっと昔からして欲しかったこと。

それは、


短刀を喉笛に当てる。

首の薄い皮膚が裂け、血が滴る。

僕は殺したくなかった。

誰も。

決して。

僕がしたかったのは、

誰かにしてほしかったのは、

自分の存在を認めてもらうことなんかじゃなかった。

僕がして欲しかったのは、

呪われた【力】を持って産まれてきてしまった

僕自身の命を絶つこと。

ただ、

それだけだった。


ナイフを握る両手に力を込め、高く振り上げる。

アイ、

もうすぐ、会いに行くよ…。


ふわり


誰かに後ろから抱きしめられる。

優しくて、いい香り。

『だめだよ、イアン。』

『イアンはこの人達にした事を、この世界で償わなきゃいけない。』

『この人達の“死”を無駄にしてはダメ。』

けど、アイ。

僕はもう疲れたんだ。

もう、休みたいんだ。

アイがクスクスと笑う。

『弱虫イアンさん。』

昔、エイダが僕を呼んでいた呼び名。

懐かしい。

『まだ来ちゃだめだよ。』

もう少し待ってるね。

イアン。


エイダの気配が消えたのを感じた後、

僕の意識は暗闇に落ちていった。




第2話です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ