荒野
裸足の少年には、荒野の独り越えは厳しいものだ。
足のひらに鋭利な石や小動物の骨が切り傷を作っていく。
小さな血の足跡を残しながら、少年は痩せた足を前へ運ぶ。
傷んだ薄い麻の布を一枚だけ羽織る少年に、荒野の陽光は容赦なく照りつける。
先の全く見えない荒野には生命の気配は一切伺えない。
少年の足首に付いたままの足枷が足取りを重くする。
少年はふと、唯一の所持物である短刀を陽にかざす。
以前、少年の片腕を切り落としたその刃は陽の光に美しく光り、霞んだ少年の瞳を刺激する。
かつて自分に地獄の激痛を与えた白銀に光る刃が、今自分の手に収まっている事が信じられずに失笑する。
中身の無い左腕の袖が乾燥した風にはためく。
これからどうすればいいのか。
自分が何処に、何の為に向かっているのか。
自覚意識の無いまま、ひたすら前に足を運ぶ。
前へ、
ただ、ひたすら
前へ進む。
孤独が灼熱の針のように少年の心を刺す。
何故だろう。
少年はふと、そう思う。
今まで自分は独りで生きてきた。
孤独こそが自分にとって唯一の友だと思っていた。
身体から心を分離して生き抜いてきた自分にとって、“友”というモノは必要なかった。
けれど、
たったの数日の間に“友”という花の蜜を吸ってしまったがために、今、少年は何よりも“友”を求めている。
今まで、欲求もしなかったモノを今、本当に必要だと思う。
渇いた唇を血が滲むまで強く噛みしめ、足に力を込める。
会える。
絶対に。
小さな鉄格子の窓から弾けるような笑顔を見せてくれたあの子にはもう一度会える。
何故だか判らないが、確信していた。
その為に、
その為だけに、前へ進んでいる。
どんなことがあったとしても、僕は生き延びる。
あの子に会うために。
君に会うために。
ただ
それだけの為に
僕は前へ進む。
今回はプロローグ的な感じで投稿しました!以後、投稿するであろう作品もよろしくお願いします。