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類は友を呼ぶ

ありがとうございます

俺はストーカー

実は彼女もストーカーの二作品の続編です

 最近のことだ。

 彼女の様子がどこかおかしい。どこが?と聞かれてしまうと返答に困るのだが、間違いなく何かがおかしいのだ。

 なんと言えばいいのか……他人を以前以上に寄せ付けない雰囲気を身に纏っているのだ。


「あー、やっぱ気がついたんだ?」


 あまりにも気になってしまった俺はつい彼女の友人Aに尋ねてしまった。

 紳士としては女性の様子が変だからとその周囲の人に聞くのはあってはならないが、そこはクラスメイトなのだから許されるだろう。


「まぁ、気にしなくてもいいと思うよ。どうせ大したことじゃないから」


「そうか?彼女にしては妙だと思わんでもないんだが」


「ふーん気になるんだぁ~」


 ニヤニヤとこちらを窺われるところを見るとなんだか自分が彼女のことが好きだとばれている気になってしまうので勘弁して欲しい。


「実際、大したことないみたいだし、後数日したら戻るんじゃない?知らないけど」


「そうか、わざわざ時間とってもらってすまんかった」


「ぜんぜんおっけー」


 なんだか視線を感じるのは気のせいだろうか。





 実際、彼女の友人Aの言ったとおり彼女の雰囲気は気がつけば元に戻っていた。

 それはよかったのだが、今度は俺が困ったことになってしまった。

 視線を感じるのだ。

 それもたまにではない。

 なんというか四六時中誰かに見られてる気がしてならないのだ。以前もそんな気配を感じたことはあると言えばあるのだが、ここ最近ほどではなかった。

 それに見られ方がなんというか……どこか獲物を狙うような感覚なのだ。

 正直、俺も自分で何を言っているのかよく分からないのだが、そんな感じだ。


「おい、お前どうした?つーか俺の話し聞いてた?」


「勿論聞いていたぞ。梅沢のことが気になるんだろ?任せておけ。俺の手にかかれば一瞬だ


「ちげーよ!ってか、梅沢って男子じゃねーか!?」


「お前、ホモだったろ?」


「俺、お前にそんなこと言ったかなぁ!?」


 会話を聞き損ねていたがどうにかカバーできたようだな。しかし、男子の会話は適当なこと言ってもだいたい成立してしまうから楽だな。

 彼女との会話だったら何千パターンものシミュレーションの末にようやく成立させられるかどうかといったところだからな。

 いや、まともに会話したこと無いから分からないが。


「そろそろ収穫ね……」


「ねぇ、もう少し言い方考えて?」


 俺達のくだらない会話の後ろでそんなえげつない会話がされていたとは俺のようなにわかストーカーには感知できるはずも無かったのだ。






 今日の日記:やはり彼女は全てにおいて美しい。何処が美しいかをを書くのは二日ぶりのことになってしまったので、その分今日の日記も長くなってしまうのだろう。彼女の気高さ、気品が溢れ出す様子を書き記すのに手を惜しむことなどあろうはずも無い。最近は少し様子が妙ではあったがそれも収まったようだ。

 写真が中々手に入らないのがは残念だが、毎日彼女を拝めるだけ僥倖というものだろう。

 ~中略~

 というわけでやはり彼女は素晴らしい。

 彼女の素晴らしさを語るのも一段落したところだし、今日はここまでにしておく。

 それにしても最近の視線は本当に何なんだろうか?




 今日の日記:そろそろ彼を手に入れる頃合だ。

 ここ最近の観察で確信できた。少なくとも彼は私のことを全く意識していないわけではないようだ。

 いや、謙遜しすぎかもしれない。彼の視線は幾度と無く感じられるのだ。それに、彼が私を追いかけ続けていたことを私は知っている。十中八九、彼は私のことを想ってくれているのだろう。

 それなら話は早い。

 こんな風に彼を眺めるだけではなく、この手で、身体で、彼を感じるのだ。

 嗚呼、たまらない。

 何でこんな回りくどいことばかりを今までし続けていたのだろうか。

 彼が想ってくれていたというのに。

 本当に判らないわ。

 あぁ、判らないと言えば、最近の視線は何なのかしら?不愉快ね。





 今日の日記:今日も彼女は美しい。

 それにしても彼女は最近になってようやく僕の視線に気がついてくれたらしい。可愛らしいことだ。

 そろそろ頃合かもしれないな。

 彼女もまた僕のものになりたいと望むだろう。

 僕達は愛し合うのだ。





――――――翌日・放課後


「ねぇ、少し話があるの」


 ザワッと俄かに教室が騒がしくなり始める。

 当然だ、彼女が話があると男に、俺に、話しかけてきたのだ。


「面倒だし、単刀直入に言うわ」


 呆然とする俺を尻目に彼女は淡々と話を進めていく。


「あなたのことを愛しているの。だから――――――」


 私の恋人になって






 思考が停止する。

 教室がいよいよ大騒ぎし始めたが、そんな騒音でさえ耳に入ってこない。

 彼女が俺を……好き?

 なんで?どうして?

 そんな素振りを俺は見たことが無い。

 信じられないと頭の中で彼女の言葉を否定してしまおうとする考えと心の中から溢れ出す喜びは俺の心をかき乱すけれど、自然と答えは流れるように紡がれた。


「俺で……よければ、喜んで」


 教室が女子の歓喜の悲鳴と男子の悲痛な叫びで埋め尽くされた。





「じゃあ、早速帰りましょうか。せっかく部活も無いのだし」


「ああ、そうだな」


 クラスメイトに別れを告げて、二人で下駄箱へ向かう。

 男子は俺を見てニヤニヤしていたりして冷やかしてきたが、それすら心地よかった。

 だが、一人だけやけに暗い目で俺を見ている奴がいた。

 無関心な者、はしゃぎたてる者、悔しがる者と様々だったがソイツだけはただその瞳に何の感情も映さずに俺と彼女を見つめていた。

 それでもすぐに俺はソイツへの関心を失い、彼女とのこれからを想像してニヤつきそうになる頬を抑えながら、彼女と並んで歩き始めた。

 それほど浮かれていたのだ、しかし今日位は許して欲しいと思う。

 




「……」


「…………」


 あれほど待ち望んだはずの未来のはずなのだが、気恥ずかしくて話しかけられない。

 彼女は元々、あまり喋ったりするタイプではないと知っていたはずなのに俺はシミュレーション通りのパターンのように話しかけられずにいた。


「あ、あのさ……」


「別に無理に話そうとしなくてもいいわ。私はあなたがそこまで饒舌ではないことも知っているから」


「えっ?そうなのか……俺、いや、そうなんだが」


 彼女の言葉に少し情けなさを覚えながらも安堵と僅かな疑問を感じた。

 そんなに俺は彼女と親しかっただろうか?

 認めたくは無いが、俺と彼女の接点はほとんどない。全く無いわけでもないのだが、精々が顔見知り程度だ。そのはずなのに彼女は何で俺が饒舌ではないと知っているのだろうか。

 ムクムクと膨らみ始めようとする疑問に蓋をする。

 彼女と付き合えたのにこんな些細なことを気に掛けるなんてどうかしている。


「なぁ、何処か行くか?」


「そうね、折角付き合えたのだし、カップルの行きそうな場所に行ってみましょう」


 少しだけ意外に思うが、次の瞬間にはそんな意外性はどこかに消えてしまった。


「あなたと出掛けられるのなら何処であれ素敵だとは思うけれど、私はあなたと恋人らしいことがしてみたいの」


 ……俺はもうすぐ萌え死んでしまうのかもしれない。

 そう思わずにはいられないほどに綺麗な表情だった。





 今日の日記:(幸せだという内容がノートにびっしりと記されている)




 今日の日記:(幸せだという内容がノートにびっしりと記されている)











 今日の日記:どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして彼女は僕をウラギッタ?




「おはよう」


「えぇ、おはよう」

 

 朝、彼女と待ち合わせて誰もいないと錯覚させるかのように閑静な街の中を歩いていく。

 お互いに部活で朝の部活があるため、とても早い時間に二人で登校できるのだ。

 何だこれ、幸せすぎる。


 そんな感じで幸せを噛み締め、泣きそうになった朝。




――――――昼放課

 

「お昼を一緒に食べましょう」


 そんな衝撃の提案に再び俺は停止した。

 周りではガタタッと席から思わず立ち上がる野郎共。


「い……一緒に、お昼……だと……?」


「そ……そんな羨まけしからん言葉が実在したのか?」


 この高校の昼食は大抵、男子は男子、女子は女子で集まって食べるものだが、稀に男女で仲睦まじく食事をする者達がいる。

 そうリア充たちだ。

 それもただのリア充ではない。

 カップルの中でも見てて「ラブラブだなぁ、あいつら。爆ぜればいいのに」と思わずにはいられないようなカップルリア充。

 そんな彼らにとうとう俺も彼女と仲間入りするのだ。

 ゴクリ、と生唾を飲み込む。

 おそるおそる、自分でも驚くほど小さな声で。


「…………食べる」


 そんな答えしかできなかった。

 なんとなく積極性が自分には足りていないと反省した日だった。





 今日の日記:~略~

 彼女と食べる昼食はいつもと比べることができないほど美味く感じた。





 今日の日記:~略~

 彼と食べる昼食は書き表すことができないほど美味しいと思えたわ。






 今日の日記:許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない

 僕を裏切ることを君は許されない





「なぁ、今度の休みに一緒にどこかへ出掛けないか?」


「勿論いいわよ。何処に行きたいの?」


「あぁ、休日初デートだし、俺が行き先とか考えてもいいか?告白も昼食も全部君からだったしな。これ位はさせてくれ」


「えぇ、楽しみにしてるわ」


――――――そんな休み時間の会話


「自重しなよ……」


「いやよ」





「うーっす」


「おう」


「お前、今日は一緒に登校してこなかったのか?」


「残念なことに女子は朝練が今日はないんだ」

 

 黙々と練習していたら、チームメイトが少し遅れてやってきた。


「それにしても……彼女できてからお前一層練習熱心になったな」


 感心したように当たり前のことを言われたのでなんとも反応がし辛いな。


「当たり前だ。彼女にはいいとこ見て欲しいからな」


「お前、あの人にベタ惚れだったもんなー」


 部活のチームメイトたちには俺が彼女に向かって大会のときに全力で応援したのを目撃されて以来、俺が彼女に好意を寄せているというのは共通認識だったので、全員俺が付き合うことになったと聞くと仰天していた。

 だからこそ、こんな風に言われるのは仕方の無いことだとは分かっているのだが、こうやってこいつには付き合うことになってからは毎日のように言われるので、必然的に毎日惚気ることができるわけで。


「あぁ、毎日が薔薇色とはこういうことを言うのだろうな」


 正直、四六時中惚気たい俺にはありがたい話相手だったりする。


「うはは、毎日ご馳走様だなホント。胸焼けがしてくるぜ」


「そういうお前はよく毎日この話を振れるな。俺は一向に構わんが」


 他の奴らは二日ともたなかったというのに。

 こいつは他人の惚気に幸せを感じられる途轍もない甘党かなんかか。


「いや、俺彼女いるし。お前の初々しさを見て楽しんでんだよ」


「そ、そうか」






 ある日の日記:彼女と運命の出会いをしてから数日が経った。今日も彼女は美しく、優雅だ。何故今まで僕は彼女と出会えなかったのだろうか?

 今までの人生と呼べるかも分からないような時間が無駄にしか思えない。

 彼女と出会って、ようやく僕は人生を歩み始めた。

 彼女はあまり他者と関わりあうことを好まないようだ。

 そんなところにまで共通点を感じて、やはり僕と彼女が結ばれる運命にあるのだと確信を深めていってしまう。

 彼女は男とほとんど接点を持とうとしない。

 間違いなく、僕が彼女が僕以外の男性と会話をすることに対して嫌悪感を感じることに気がついてくれているのだろう。

 なんてできた人なんだ。

 彼女が僕のことを好きなのは疑いようが無い。





 ある日の日記:彼女を救わなくちゃ







――――――土曜日  5:20


 計画は完璧だ。

 無難だとも言えなくも無いが、デート初心者の俺が奇をてらう必要は無い。そうやってあの変人チームメイトも言っていた。

 それに彼女も恋人っぽいことをしたいみたいなことを言っていたし、彼女も王道を嫌がったりはしないはずだ。……多分。

 服装も恥を忍んでファッション雑誌をわざわざ買って選んだのだ。

 よっぽどダサいなんてことは無いはずだ。

 金の方も大丈夫だと……信じるしかない、うん。

 後は彼女と存分に楽しんでから、告白しよう。

 やはり、自分から好意を伝えてこその男だろう。

 ……それにしても、早く目が覚めすぎたな。




 8:45


「おはよう、早いのね」


「あぁ、楽しみだったからな」


 こうして朝の何気ない挨拶の中に自分が楽しみだったことをさりげなくアピールしてみる。


「そう、私もよ」


 あっさりと切り返される辺り彼女はやはり手強い。


「行こうか」


 そう言って、手を差し出す。

 彼女は一瞬呆気にとられたような表情をしてから微笑んだ。


「えぇ、行きましょう」


 そう言って細い指先を俺の指にしっかりと絡ませて。





 10:00


「遊園地なんてベタとは思ったんだが、やっぱり定番な気がしてな。嫌だったか?」


「あなたとなら何処でも素敵と言ったはずよ。それに恋人らしいじゃない」


 二人で他愛も無い会話をしながら遊園地の案内図を覗き込む。


「とりあえず予定的にはこんな感じでアトラクションを回りたいな、と思うんだが」


「今回はあなたに全て任せてるもの、あなたについていくわ」


「そうか、お化けとかジェットコースターとか苦手なら遠慮するなよ」


 手を繋いだまま二人は歩き出す。


 そんな俺達ををジッと観察する何かがいたことに俺は気がつけなかった。




 12:00


「いやー、楽しいもんだな、遊園地ってのは」


 遊園地内にあるファストフード店で昼食がてら一休みする。


「そうね、年甲斐も無くはしゃいでしまった気がするわ」


「君にそう言ってもらえるなら安心できるな」


 実際、クールな彼女が心の底から楽しんでくれるかどうかは不安なのだ。そんな風に言われたら、嘘でも少し安心してしまう。


「この後も任せてくれよ。今日は俺が頑張ると決めたんだからな」


「期待してるわ」


 うーむ、中々にプレッシャーだ。



 18:00

 

「最後はこれまた定番なんだが、観覧車だ」


「そう、今日は本当に楽しかったわ。ありがとう」


「それは何よりだ。帰りにもう一度言ってもらえたら最高だな」


 夕日も沈みかかり、雰囲気も上々。

 言うしかないよな、これは。

 ここで俺が彼女に告白する。頷くままに彼女から始められた関係を終わらせたくないから。 

 ゴウンゴウンとゴンドラが下りてくる。

 係員に案内されるままに俺達はゴンドラに乗り込んだ。



 18:03


 天辺に差し掛かる。

 言うなら今だ。


「あのさ、こんなこと言うのも変なのかもしれないけど……」


「何かしら?」


 手汗がじっとりとして気持ちが悪い。

 喉がカラカラだ。

 こんなにも緊張するもんなのか、告白って。


「俺さ、君に好きだと言われてスゲー嬉しかったんだ。大事なことを忘れちまう位浮かれてた」


 彼女は何も言わず、ジッとこちらを見ている。


「俺は頷くばかりで、一番最初に何より言わなきゃいけないことを忘れてたんだ」


 沈黙。

 彼女は俺に言われるのを待っている。

 当然だろう、俺だって彼女に言われることを待ち望んでいた。


「好きだ、これからも俺の傍にいてくれ」


 今、彼女の瞳は何を映しているのだろう。

 彼女はなんて答えるのだろうか?






 18:30


 電車に揺られる間、俺達に会話は無かった。

 でも、何処と無く穏やかでゆったりとした時の流れを俺は感じていた。

 車窓から見える流れ行く景色も夕日で鮮やかなオレンジに色づき、その景色が俺は幸せだと自覚させる。

 彼女は何も言わない。目を瞑って俺に身を任せている。

 こんな優しく素晴らしい日々がこれからもあると思えるのは、この無防備な彼女のおかげなのは言うまでもない。だから幸せにしよう。彼女を。

 できる限りの自分の力で。




 19:00


 彼女を家まで送り、一人家に向かっていたとき。

 視線を感じた。

 恨みの篭もったようなそんな視線。

 振り返ればいつかの暗い眼をしていたクラスメイトがいた。

 その眼はおぞましいのに、何故か親近感を感じてしまう。

 手には包丁。

 明らかに普通ではない。そのはずなのに俺はその姿を納得して眺めていた。


「彼女は……僕のものだ」


 そう呟き、突っ込んでくる。

 スピードはたいしたことも無く、避ける。

 狂ったように俺を殺そうとしてくる彼に俺は何の恐怖心も感じない。

 もし一撃でも喰らってしまうようなことがあれば、間違いなく致命傷だと言うのに怖くない。

 

「やめないか?辛いだけだろ、お前」


「……」

 

 反応は無い。


「お前も彼女が好きなんだな」


 反応は無い。


「お前が俺を殺そうとする気持ち、分からんでもない」


 反応は無い。


「逆の立場なら俺も殺そうとしていたに違いないからな」


 反応は無い。


「でも、諦めろよ」


 反応は無い。


「彼女はお前を選ばない。俺を選んだから」


 反応は―――――――


「黙れ!!!」


 殺意が爆発した。


「お前が彼女を誑かしたんだ!!!」


「そうか」


「運命のはずだったんだ!!!」


「そうか」


「彼女と僕は――――――結ばれるはずだったんだぁ!!!!!」


 殺意の塊のような一撃も当たらない。


「はぁっはぁはぁ……」


「諦めろ」


 それだけしか俺に言える言葉は無い。

 再び向かってくる彼を避けて、押さえ込む。武道の心得なんて持ち合わせちゃいないが、とりあえず転ばせて腕を押さえつければ大丈夫なはずだ。


「お前がまだ諦められないなら引導を渡してもらえ」


 彼女は気がついていたんだ。

 誰かに自分が見られ続けていたことを。

 恐らく、俺が見ていたのも。


「あら、あなたが私のストーカーね」


「……ッ君を!救いに来たんだ!!こいつを退かしてくれ!!!なぁ、僕達は―――」


「結ばれないわ。だって私あなたの名前も知らないもの」


 聞いていて、これが俺なら発狂するなとつくづく思う。


「私が好きなのはあなたを押さえつけている人よ、あなたじゃないわ」


「違う!!君は騙されているんだ!!」


 彼女がスマフォを取り出す。

 彼女が何をしようとしているのかを理解して、クラスメイトにほんの少しだけ同情した。


「もしもし警察ですか?以前、相談したストーカーのことなんですが……」


 彼女は本当に容赦が無い。





「なぁ、君は気づいていたのか?」


「何のことかしら?」


「俺がストーカーしてたことだ。」


「それ、自白してる時点であなたもう確信してるじゃない」


 もっともなことである。


「知ってたわよ。だからこそあんなふうに告白できたのよ」


 いろいろと納得できた。

 彼女が俺の好意に対して疑いを一切持たないのは俺のストーキングに感づいていたからか。


「じゃぁ、なんで俺のことを好きになってくれたんだ?」


 彼女の好意は疑わない。だが、あのクラスメイト同様ストーキングしていた俺を何故好いてくれたのだろうか?


「順序が逆よ」


「それって……」


「私が好きになった方が早いのよ、ただそれだけのことよ」


 彼女の俺に好意を抱いたきっかけは聞かないことにした。

 このまま二人でいれば、いつか教えて貰えるだろう。

 ただ、自分の運のよさに今は感謝しよう。

 どんな理由であれ、彼女が俺のことを好きになっていなかったとしたら、あのクラスメイトのように自分はなっていたに違いないのだから。

 



『好きだ、これからも俺の傍にいてくれ』



『当然よ、わたしは愛した人を逃がしはしないわ』



 苛烈なまでの彼女の愛にこの命を捧げよう。

 それが俺の幸せなのだから。










ありがとうございました

ちなみにヒロインさんは未だに全力でストーキングしてます

服を買いに行くところの写真が最近のお気に入りです

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[良い点] 初めて感想を書かせて頂きます。 このシリーズが大好きです。 ストーカーをしていた主人公、 …より先に主人公のストーカーとなっていた 想い人…というストーリーが面白いです! 個人的には主人公…
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