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【新家族】-第三話-


 頭の中で整理もつかず、何て話し出していいやら…気がおもい…

 居間にいくと、皆そろっていた。


「眠そうな顔してー! 美女がいないからって、羽伸ばしすぎだよ」


 大婆ちゃんの言葉に笑いが起こった。


 その場に座り込むのを躊躇って、洗面所に向かった。

 蛇口をひねり、何をする訳でもなく、鏡に映る自分の顔をみていた。


「あらぁ〜おはようございます。早いねぇ〜どうなさったぁ?」

「美女も一緒かい」


 祖母の大きな声に驚き、水道を止める。


 ……美女……まさか!

 慌てて洗面所から居間に戻ると、美女を抱いた義祖父、義祖母がいた。


「あきおさん……まだ話してはいないかい?」

「えっ…えぇ……」


「何だか? 難しい話しかい? ささ、お上がり下さい」


 祖母が言うのと同時に、義祖父が土下座をした。


「申し訳ないです。本当に申し訳ないです」

「どう謝っても許される事じゃないのは承知です」

「美女が……不憫で……」


 涙混じりに話し出した義祖父に、祖父も祖母も、何が何だかわからずに、父と義祖父の顔を、交互に目でおっていた。


「あきお! 何があったか知ってるのか?」

 

 祖母が聞くと、父はコクリと首を縦にふったまま顔を上げなかった。


 涙声で静かに義祖母が話し出すと、皆、驚きを隠せない表情で口々に


「そりゃ、何かの間違い!」

「うん、昨日までは普通だったもの」

「そうだよ。もう一度、聞いてみたほうがいい」

「いいえ。今朝早くに、ふみこから電話あって、もう帰らないから美女を頼む。って」

「何処にいるんですか!ふみこは!」

「それはわからない……ただ一言で切れてしまった……」


 そうこうしてると


 母と、一緒に働きに出ていたという人が、尋ねてきた。

 その人は全て知っていた。

 母が居るであろうという場所も、誰と一緒かということも……。


 全てを知り愕然とした。


 相手には、妻子があり、奥さんは二子出産の為、里帰り中だという。

 男は、母の勤めていた会社のマイクロの運転手だったのだ。

 母が居るだろうという場所は直ぐに行ける場所ではなかった。


 父は動揺した…

 拳を握りしめ、うつむいたまま、しばらく動かなかった。


「あきお……」


 祖母が言いかけた時


「おれ!明日、迎えに行ってくるよ! 婆さんも、お義母さんも、一緒に来てくれ! 美女も連れていくから!」


 力強く言い、義祖母から美女を奪い取るように抱いた。

 義祖母は声を出して泣きながら


「美女ごめんね。美女ごめんね。」

「あきおさん……すまない……」


 父と、わたしを抱かかえるようにして、何度も何度も謝った。



 ――翌日――


 父、祖母、義祖母、わたしを連れ、四人で母を尋ねた。


 ここであろう?と聞いていたパチンコ店を捜しながら三件目……

 母が制服を着て店内に居た。


「ふみこ!」


 父の声に気付いた母は、呆然と立ちつくしている。


「ど…う…して…」

「ふみ子! これは間違いだろ? こんな事してないで家に帰ろう!」

「あ…あたし…」

「何も言わなくていいから! 聞かないから!」

「美女の為にも戻ってくれ!」

「………」


 祖母は母に、わたしを抱かせようとしたが、母は、こちらに目をやることもなく、黙ったまま首を横にふるだけだった。

 わたしは、祖母の腕の中でケラケラ笑っていたそうだ。


 母の姿を目で追いながら……


 話し合いをする為、店の人に断り、母の部屋へ行く事になった。

 母の部屋はパチンコ店の裏にあった。

 住み込みで働くつもりでいたらしい。


 何もない部屋、小さな折りたたみの机が一つだけあった。


 母の大きな鞄の他には……何もない。


 そう……一緒に逃げたはずの男の荷物が何一つ見当たらない。


 父が話の口火を切った。


「おまえ……一人でいるのか?」

「……ひ…と…り…よ…」

「男と、一緒じゃない……のか?」

「………。」

「答えてくれ!男は?!」


「…何も、聞かず、別れてください…」


「ちょ…ちょっと待てよ! 俺の質問に答えてくれよ!」

「一緒にはいないわ……奥様に気付かれて……」


 そういうと母は、声を出して泣きだした……

 父に縋る事もできず、義祖母にも縋ることもできず……

 娘を捨てる決意までした……


 愛する男にも縋れずに……


 一人うつむいたまま、ただ、ただ、泣き続けた。

 母の泣き声だけが響く部屋、どれくらいたったのだろう……。


「だったら、問題ないだろ! 美女と一緒に帰ろう」


 父の言葉を遮るように


「帰らない! 帰れないの!」

「美女はどうするんだ?! まだ母親が必要なんだぞ!」

「あたしにどうしろっていうのよ!」

「子供抱えて、一人で生活なんて、できるわけないじゃない!」

「だから!一緒に…」

「一緒には、帰れない! 帰りたくないわ!」

「初めから子供なんて……私は、まだ若いのよ……子供なんて……」

「だったら、いいわ!」

「どうしても、美女を置いて行くというなら……施設に入れるわ!」


 父には理解できなかった。

 我が子を、こんなに簡単に捨てる事ができるのか……

 母親の口から、施設に入れるなんて……。


 苛立ちが込み上げてきた。

 同じ男だったら殴っているだろうと、拳を握っていた。


 義祖母は部屋に入った時から泣いていた。

 申し訳ない……申し訳ない……と小さな、小さな涙声で呟いていた。


「もう、いい! 勝手にしろ!」

「俺とは、やり直す事はできないんだな!」

「美女の母親にはなれないんだな!」

「俺が美女を立派に育てるよ! 施設になんか入れられるか!」

「……そうしてください。」

「もう……仕事に戻ってもいいですか……首になっちゃうから……」


 父は、わたしを抱き抱え部屋を飛び出した。

 慌てて祖母も追ってきた。

 義祖母だけが、母の元に残った……。


 

 ――それから数日後――


 義祖母からの連絡で、離婚をする事が決まり、わたしは、父方の家で育てられる事になった。

 義祖母は、わたしを抱き、泣いたそうだ……涙が枯れてしまうほど……


 離婚も成立し、母のいない生活にも慣れてきたころ。

 夢乃家で話し合いがあった。

 父も勢いで美女を引き取ったものの、一人で育てていく自信を無くしていた。


「美女は私達の子供として育てるよ。」

「お前とは戸籍上は、兄妹だ。でも、年も離れてるし……」

「美女には、おじさんって教えるよ」

「それで……いいね?」

「おふくろ……すまない……」


 それから祖母は、わたしが、母と一緒に写っている写真、母子手帳も全て燃やした。


 夢乃家の新たな旅立ちだ


 祖父:夢乃 清    祖母:夢乃 きぬ 

 父 :夢乃 彰    母 :夢乃 よし子

 長男:夢乃 あきお

 長女:夢乃 詩織

 次女:夢乃 和美

 養女:夢乃 美女


 この日から、わたしは、家族に養女として迎え入れられ、新しい生活がスタートした。

 養女という事を隠され、彰とよし子の娘として。


 長女は、この後、すぐに結婚して家をでた。

 次女も、寮に入って仕事をしていた。


 そして、あきおも……

 外に働きに出るようになり、友達の家を転々とするようになり、ほとんど家には帰ってこなくなった。


 彰も、よし子も、わたしを、家においては仕事にならず、一歳の誕生日を過ぎると同時に

保育園に預ける事にした。



こうして、養女としての生活は始まりました。

これからの父は、人が変わったように悪事へと……

幸せへの路〜みち〜【2】は、小・中学時代へと進みます

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