プロローグ
桜が咲き誇る季節……
一つの命が誕生した……
望まれ、産まれたはずの命……
-母22歳・父23歳-
友達の紹介で知り合った、父『アキオ』、母『ふみ子』
急速に惹かれあい、恋に落ちた二人……。
――付き合い始めて数ヶ月がたった頃……。
母は、自分の体に、小さな命を宿した事に気付いた。
しかし……
まだ、籍を入れる前、自分の体の中に芽生えた、小さな、小さな命の存在に
戸惑っていたのだろう。
誰にも言えずに、独りで悩んでいたはずだ……
何ヶ月も悩み、産婦人科へ行き、診察を受けた時には、
すでに……五ヶ月目に入っていたらしい。
どうする事もできずに……一日、また一日と過ぎていく……答えは一つ……。
「オギャー! オギャー!」
「おめでとうございます」
「元気な、女のお子さんですよ」
五体満足で、産んでもらった私。
「名前は『美女』にしましょうよ」
「いい名前だなぁ。名前負けしないか?」
「大丈夫よ。私達の子よ」
「それもそうだ! あははは」
「うふふふ」
もちろん……
わたしには、この頃の記憶は、全く残ってはいませんけどね。
でも、聞いた事ありませんか?
子供は三歳までは、母のお腹の中、産まれてきた時の記憶があるって。
これも、三歳を、疾うに過ぎたわたしには……わからない事ですけどね。
父も、母も、急ぎすぎたのでしょう。
幸せへと続く路を、このまま三人で、歩んで行く事ができないなんて……。
この時は、誰一人として、考えてなんかいなかったはずだ。