あたし、かわいくなりたいの。
あたしね、かわいくなりたいの。
いつも思ってる。人間顔じゃない、なんてよく言うけれど、誰だってかわいい方がいいじゃない?かわいいって言われたいじゃない?
正直、あたしは中の上辺りに位置していると思う。でも、友達にかわいいって言われたことはほとんどない。
あたしのクラスで一番かわいいって言われているのはあゆって子。ま、確かに彼女には負けるかもしれないけど、あたしのこともちゃんと見てよ。
かわいいって言われたい。
その為ならどんな努力も惜しまない。
そう、どんな努力も―――。
夏休み、あたしは変わろうと決めた。
まず、痩せよう。ほぼ断食状態で一週間ほど過ごしたら意外と簡単、三キロも減った。嬉しくて、そんな生活を続けていたら八月後半には七キロも落ちてくれた。
その期間に従姉妹が過激なダイエットをして死んじちゃったらしいけど、あたしには関係ない。
だって、あたしは成功したんだもの。
そして始まった新学期。
皆にうらやましがられちゃうかな。あたしはうきうきした。
でも、だあれも気付いてくれない。
憤り。
そして、怒り。
それはあたしの変貌に気付いてくれない友達にではなく、あゆに対してだった。
アユサエイナケレバ。
あゆさえいなければ、皆あたしのことを見てくれるのに。
だからって、彼女の存在を消そうとか馬鹿なことあたしは考えない。
あゆの光をあたしが利用すればいいだけのことだもの。
よろしくね、あゆ。
あたしはあゆの顔を間近で見つめた。
ぱっちり二重に、赤い唇。やっぱりかわいいかもね。
参考にしよう、と思った。
「あゆ、あたしあゆみたいにかわいくなってみせるからね」
あゆは何も言わなかった。
実践。
皮をぺろりとむく。唇は簡単に真っ赤になってくれた。
あたしの目は一重だから、あゆみたいな二重にする為瞼に線を描いた。
針で。
何度も、何度も針でなぞっていたら痛くなった。でも、あたしは気にしない。
目の前が赤セロハン越しのように見えるのは少し不便だけどね。
次の日あたしは学校に行った。
皆、あたしを見ていた。
悲鳴が所々で聞こえてくる。あたしの顔を見てくれている。
嬉しい。
「ま…真理…、その顔……」
友達があたしを見て言った。
だからあたしは言ってやった。
「あたし、かわいいでしょ?」
その内化け物でも見たような表情を浮かべている皆を見ているのがおかしくなって、あたしは声を出して笑った。
笑いはなかなか止まらなかった。
もう、あたしに声をかけてくる人はいないだろう。
「ねえ、あゆ?あたしがかわいくなれたのはあなたのおかげよ」
あたしはあゆに話しかけた。返事は返ってこない。
気にせず続ける。
「あゆ、もうあなたはどこに行ってもいいわ。少しの間だったけどありがとう」
あゆは無言であたしを見ていた。
瞳孔の開ききった瞳で。
あゆはあたしの研究素材だった。あたしがあゆのようにかわいくなるまでの見本として、三日間あたしの部屋の壁に両手首を釘で打ち付けて飾ってあった。
あゆは今でもかわいいわ。
あたしがあゆの頭を岩で潰した時にしたたり落ちてきたキレイな血が、
今はあたしの瞼や唇から流れている。
「あははっ、あはははっ、あはははははっ……!!」
アタシ、ヤットアユミタイニカワイクナレタカシラ?