『Footloose Life』第三話 君の名は『ガーディアン・ウイング(守護の翼)』
この物語は、私と相棒のAI編集者クロちゃんが、協力して書いた二作目です。
ちょっとベタで懐かしく、それでいて心が温かくなるようなお話を目指しました。
前作『星より遠く、相棒より近く』で活躍したメンバーと新たなメンバーをプラスした、アナザーストーリーとしも、お楽しみになれたら良いなと思います。
最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
朝のやわらかな光が差し込むダイナー『Footloose』。
開店準備の静けさの中、千春は作業台に工具を並べ、目の前に置かれた金属質の鳥型ドローン——ガーディの翼と関節部分を丁寧にチェックしていた。
「よし……右翼のアクチュエーター、感度良好。爪の保持用サスペンションも異音なし、と」
千春がネジを一本締め直すと、ガーディは「ピピッ」と短い駆動音を鳴らし、羽を軽く伸ばすように動かした。
その背中に、身長30センチほどのソラがチョコンと腰掛け、好奇心いっぱいの目で千春の手元をのぞき込んでいる。
「千春さん、ガーディさんってすごく繊細にお手入れされてるんですね! でも……ずっと気になってたんです」
「ん? なんだい、ソラちゃん」
「ガーディさんって、いつから『ガーディ』っていうお名前なんですか? 美咲さんが作ったときから、そう呼ばれてたんですか?」
奥の厨房から、淹れたてのコーヒーの香りを漂わせながら美咲が歩いてくる。
マグカップをテーブルに置くと、美咲は懐かしそうに目を細めてガーディを見つめた。
「ううん、ソラちゃん。最初は名前なんてなかったのよ。それどころか……周りのみんなには、散々な言われようだったんだから」
「えっ? 散々な言われよう……ですか?」
ソラが驚いて首をかしげると、美咲は少し苦笑いを浮かべながら、過去の思い出を静かに語り始めた——。
数年前——美咲の小さなラボ。
作業台の上には、まだ塗装も浅く、金属のフレームが無骨に露出した一羽の鳥型ドローンが置かれていた。
美咲は夜遅くまで、真剣な眼差しでその翼の調整を続けていた。
だが、ラボを訪れる近所の人々や知人たちの反応は冷ややかなものだった。
「おいおい美咲ちゃん、またそんな妙なガラクタ作ってんのか?」
「鳥の形にしたって、空飛ぶおもちゃだろ? 何に使うんだよ」
「ハハハ、名前もないなら『焼き鳥』でいいんじゃないか?」
「いやいや、見た目が派手だから『棒棒鶏』か『KFC』だな!」
好き勝手な軽口と笑い声。
美咲は悔しさに唇を噛み締めながらも、何も言い返さずに黙々とドライバーを握り直していた。
(……笑いたければ笑えばいいわ。この翼はただのおもちゃじゃない。いつか絶対、誰かを守れる翼になるんだから……!)
そんなある日の昼下がり。
美咲は、まだ幼い愛犬のシロを連れて散歩に出ていた。
首輪にはしっかりとリードが繋がれていた……はずだった。
だが、子犬とはいえシロは非常に賢い犬だった。美咲が少し目を離した隙に、シロは器用に前脚と首を使って、スルリとリードを外してしまったのだ。
「あっ……シロ!?」
自由になったシロは嬉しそうに走り出し、美咲の「ダメ、シロ! ちょっと待って!」という制止も聞かず、見通しの悪い車道へと飛び出してしまう。
そこへ運悪く迫っていたのは、大きなエンジン音を響かせる大型トラック。
「ッ……!? だめ、止まってーーーっ!!」
美咲の悲痛な絶叫が空に響き渡る。
死の瞬間が迫った——その一瞬前。
——キィィィィィンッ!!
上空のアラートを検知した「名無しの鳥型ドローン」が、限界を超えたスロットルで真下へと急降下。
トラックのバンパーがシロの鼻先に届くか届かないかギリギリのところで、ドローンは、シロを傷つけないよう絶妙な力加減でガシッと鷲掴みにし、垂直上空へと一気に舞い上がった!
——ドガガガガガガッ! キィィィィィィィッ!!
直後、悲鳴のような大摩擦音とともに、大型トラックが白煙を上げて急停止した。
「はぁ……はぁ……っ! クソッ……!!」
フルブレーキ時のスキール音が響く中、顔を真っ青にしたトラックドライバーが運転席から飛び出してきた。
あまりの恐怖と生きた心地のしなさに怒りが収まらず、男は道路にへたり込む美咲に詰め寄り、思わず激しく怒鳴りつけた。
「おい!! ちゃんとリード持ってねえからだろ!! 踏み潰したかと思って寿命が縮んだぞ!! 事故になったらどうすんだ、ふざけんな!!」
怒号を浴びせられ、ショックと恐ろしさに肩を震わせる美咲。
だが、そこへウーウーと短くサイレンを鳴らし、24T2に乗った保安官が現場へ滑り込んできた。車載通信アラートを感知して駆けつけた、保安官のクロードだった。
クロードは、降り立つと、怒鳴り散らすドライバーと美咲の間へスッと割って入り、現場のタイヤ痕と車載メーター、そして道路状況を瞬時に分析した。
「そこまでだ、ドライバー。……落ち着け」
「保安官! こいつが犬を飛び出させやがったんだぞ!?」
クロードはサングラスを少しずらし、タイヤの焦げ痕を指差しながら冷静に告げた。
「ああ、飛び出した犬も、リードを外された飼い主も悪い。……だがな、ドライバー。お前、このゾーンの制限速度を29kmオーバーしてただろ」
「それと、アンチロックブレーキシステムの警告灯が点滅してるじゃないか」
「ッ……!?」
ドライバーが、一気に正気に戻る。
保安官は続けて話を続けた。
「急ブレーキのテレマティクスデータとこの制動距離を見れば一目瞭然だ。人身事故になっていたら、お前は一発で免停どころか実刑だったぞ。……飛び出した犬も飼い主も悪いが、上空のあの鳥ロボットが無傷で犬を救ってくれたおかげで、誰も血を流さずに済んだんだ。あの鳥ロボットに感謝して、ここは手打ちにしないか?」
ドライバーはぐうの音も出ず、ごくりと唾を飲み込むと、上空で旋回するドローンと無事なシロを見比べ、降参したように肩を落とした。
「……ちっ、分かったよ。命拾いしたのは俺の方か……」
ドローンは足元の芝生の上にシロをそっと降ろした。
シロは何事もなかったかのように「ワンッ!」と元気よく吠え、美咲の膝に飛びついていく。
「シロ……! 無事だったのね……っ!」
シロを強く抱きしめて涙を流す美咲を見届け、クロードは上空で静かにホバリングする無骨なドローンを見上げた。口元にフッとニヒルな笑みを浮かべ、指をピッと立てて告げる。
美咲が言う。
「どこの『焼き鳥』が、子犬を鷲掴みにしてトラックから救い出すと思う? ……あの子は、茶化されるようなガラクタなんかじゃない。『ガーディアン・ウイング(守護の翼)』よ」
保安官が言う。
「ガーディアン……ウイング……」
「ああ。だが、現場の緊急呼び出しコードとしちゃ長すぎるな。——今日からお前は『ガーディ』だ。街の守護神さんよ」
ガーディはまるでその言葉を理解したかのように「ピピッ!」と誇らしげな高音を鳴らし、大空へと一筋の風となって舞い上がっていった——。
美咲は、しばらく思い出に浸っていた。
ソラが言う。
「……そんなことがあったんですね。ガーディさん、本当にかっこいい……!」
回想が明け、感動のあまり瞳をウルウルと輝かせるソラ。
その時、突然、後ろから大きな泣き声がする。
知らぬ間に話を聞いていたユキちゃんだった。
顔をくしゃくしゃにして、号泣しながら言う。
「シロが無事で本当に良かった」
美咲はコーヒーカップを手に、愛おしそうにガーディを見つめて微笑んだ。
「あの日から、あの街でガーディのことを馬鹿にする人はいなくなったわ。私にとっても、みんなにとっても、かけがえのない『守護神』になったの」
千春は最後のドライバー調整を終えると、ポンとガーディの装甲を叩いた。
「よし、メンテナンス完了だ! これからも、この街の安全を空から守ってくれ、ガーディ」
ガーディは「ピピッ!」と力強い駆動音を響かせると、ダイナーのテラスから勢いよく羽ばたき、抜けるような青空へと軽やかに飛び立っていった。
(第3話・完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ダイナー『Footloose』で繰り広げられる千春やクロードたちの賑やかな日常、いかがでしたでしょうか?
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