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第16話 弱さと向き合うこと

「はぁあ? 良い話だったなーとでも俺が言うと思ったか? お前バカなのか? もう一度言う。大バカ野郎なのか?」


「うるさいっ、バカっていうほうがバカなんだぞ!!」


 これまでの出来事を勉に洗いざらい打ち明けて、返ってきた反応がこれである。親友に対してひどい対応だ。


「お前選り好みできる立場かよ。しかも念願の年上だぞ? パツキンだぞ?」


「仕方ないじゃん……相手は三年で受験控えてるし。志望大学が都会だそうで、初心者がいきなり遠距離恋愛とか厳しいって」


 顔も好みの長身ギャルでしかも金髪。でも、千載一遇の機会を、俺は泣く泣くお断りした。お相手の方とは機会があって何度かお話する仲ではあったけれど。元彼と別れてそれほど経ってないし。正直どうして俺が? と戸惑ったのもある。


 学生の恋愛ってそういうもんだと言われると、そうなんだろうけどさ。


「仮に続かなかったとしてもだ。経験値くらい稼げただろ」


「経験値って……モテ人間の思考じゃん。恋人はMOBでもなければ消耗品でもないよ」


「経験もなしにぶっつけ本番でいくのか? いかにも陰キャ……というか子供の発想だな。予習復習は必要だと頭で理解しておきながら、どうして恋愛に限っては除外するんだ? 常識人ぶってるが、要は八方美人で嫌われたくないだけだろ」


「ぐえっ……おま、おまっ正論で殴るなぁ!」

 

 惜しいことをした。それはそう。男として経験を積むチャンスでもあったんだろう。たとえ感情が追いつかなくても。過程の中で上手くいく可能性も0ではなかったはず。


 でも断った。もう過去には戻れない。


 ちなみに告白の結果は、まだ湊さんに伝えられていない。

 別れ際、あれだけ背中を押してくれたのに。俺がチキって辞退したわけで。 


 語るまでもなく、女子間の謎情報網で伝わっているだろうけど。


「それよりもさ、このままだと分が悪いから話し変えるけど。湊さんと実は裏で面識があったんだって?」


「……ああそうだが。悪いか? 早朝に手紙で体育館裏に呼び出されてな。『遠坂くんとお友達になりたいのですが。どうか協力していただけませんか!』と、湊姫華に頭を下げられたときの俺の気持ちを……………………理解できるか?」


「それは………………なんかごめんなさい」


 いや、俺は悪くないけどさ。本当ごめん。

 湊さんも……悪気があったわけじゃないと思うよ?

 女子校出身の子に、男子の気持ちを完璧に理解しろというのも酷だし。


 むしろよく協力してくれたなと。勉の性格を考えたら一蹴してそうだけど。


「普段冷めてるのに、人間嫌いの癖に、急に特定女子の話を始めるから。ずっと変だと思ってたんだ。あっ、だから清楚系黒髪ヒロインの漫画を貸してくれたのか! あれひっどい地雷だったし、超腹黒だったけどさ!」


「湊姫華の呼び出しが告白だったとて、最初から断るつもりでいたんだが。同じ学校で女作るとマウント合戦に巻き込まれてうぜぇし。俺は、俺が僅かでも期待させられてしまった事実が気に喰わなかった。男性が苦手だそうなんで、腹いせにお前を全力で勧めておいた。あることないこと吹き込んでな。失敗させて盛大に笑ってやろうかと。ここまで続いたのは――まぁ予想外だったな」


 うわぁ、邪悪な笑みを浮かべてらぁ。

 コイツやっぱ性格が捻じ曲がってるよ。修繕不可能だ。

 よく友好度21も維持できたと思う。実は俺ってすごかったのでは。


 勉と親友になれるのは俺ぐらいだろう。

 なーんてコイツも同じこと考えてそうでやだなぁ。

 

「今のは半分冗談だが」


「半分でもかなり悪質だよ?」


「和樹ならなんとかやれるだろうと思ったのも確かだ。勉強はできる癖にバカで思い込みは激しいわ、肝心なところでヘタレだわ、間違いもたくさん犯すが。だがお前は、失敗を認め反省し、修正して相手に合わせて自分を変えることができる男だと知っているからな。男に慣れる練習台としては最適だろ、ヘタレだし」


「褒めてくれてる……ように見えるだけで、罵倒は打ち消せてないから!? ヘタレって二回も言った!」


「うっせ、お前他の男子連中から殺意向けられてんだぞ。この程度軽く受け流せなくてこの先どうすんだ。つかさっさと彼女作っちまえば治まっただろうに。結局フリーの中途半端な立ち位置で警戒対象のままじゃねーか」


 それ、見て見ぬ振りをしていたというのに。今も男子の視線がとても痛いです。

 上級生からも睨まれていて。きっと体育祭で合法的にボコられる。腹筋は優先的に鍛えておこう。

 

「あと、お前が変なメガネを持ってきた日から、ダチになりたいだけの湊姫華を避けるようになって。勧めてしまった手前、くっそムカついたけどな。コイツ一発しばいてやろうかと何度思ったことか」


「……すみませんでした。過ちを認めます。俺がバカでした」


 それは本当に反省している。あの日以降、メガネは一度も使ってないし。


「しかしだ……疎遠になってしまったのか。お膳立てしておいたというのに」


 湊さんは、俺を部室に入れていることを担任には伝えていたらしい。

 あまりいい顔はされなかったみたいだけど。無許可ではなかったとのこと。


 それでも大事になれば責任問題に発展したはず。先輩との一件は紙一重だった。

 告白を断ったからといって、もう一度、同じ関係に戻るということもないだろう。


「疎遠とは違うかな。今でも普通に挨拶するし。お友達であることには変わりない。これまでが特殊だっただけで。冷静に考えて女子と二人で密会ってヤバくない?」

 

「今さらかよ。……後悔しても知らねぇからな。トラウマを克服したお姫様をいつまでも放っておく野郎はいない。つーか、さっきも席を外していたが、大方上級生に呼び出されてたんだろ。大して顔が良いわけでもないお前が上手くやれてたんだ。しばらくこの流れは続くだろうし、女は秋の空というだろ。連中は想い出を簡単に上書き保存していくぞ」


「たとえそうであったとしても。俺の中では残り続けるから。それに、顔がちょっといい程度で付き合えると考えているなら、湊さんのことを馬鹿にし過ぎだね。あの子は、そういうので人を判断しないから。そんなの俺でもわかることで。勉も経験豊富なのに案外節穴なんだね」


「はっ、言うようになったじゃねぇか。自称陰キャの癖によ」


 やけに上機嫌で俺の肩を叩いてくる。めっちゃ痛いんだけど!?


 好きな女性像とは真逆だった。それでも、湊さんには惹かれていたと思う。

 彼女に対して罪の意識があったから、そういう感情を極力向けないようにしてきた。

 

 でも、俺の罪は俺にしか認識できない。誰よりも有利な立場で関係を進められる。

 ただ単純に彼女が欲しいという欲望に従えば、違った未来を選択できたかもしれない。


「……楽しかったよ。この数ヵ月、本当に。失敗も後悔も含めて思い出だから」


 ズルをして、彼女の隣席を手に入れたとしても。きっと罪悪感からどこかで破綻していた。俺のこれまでを肯定してくれた、湊さんに顔向けできなくなるから。この結末で満足している。










 ――――すみません、ちょっと強がりました。


 ぶっちゃけ告白を断った件については割と後悔してる。というかしてきた。


 陰キャにとって女子から告白されること自体、夢のような展開なのに。

 どうして俺はさらなる理想(・・)を追い求めちゃったんだよ。本当どうかしてる!


 やりきった感出してみたけど。振り返ると俺、筋トレが恋人になっちゃってるじゃん。なんだかギャルゲのノーマルENDみたいじゃない? 陽和が一時ハマってたんだよね。一応エンディングに辿り着けただけ、モブから大躍進してるとも言えるのか……ポジティブに考えよう。

 

「なんにせよ。お前も男として多少なりとも成長できたわけだ」


「それはどうだろう。元の鞘に収まっただけな気もする」

 

 湊さんや優騎さんにも、かわいい以上の評価は受けなかった。

 あの二人は下手な男より逞しいから、さもありなんって感じだ。


「数ヵ月程度じゃあ、まだまだ腕も細いままだし」


「あ? まさか男の価値は腕っぷしの強さで決まるとでも思ってんのか? だから急に筋トレ始めたのかよ」


「最初に思い付いたのがそれで……だって強い男こそが男らしいって色んな媒体で語られてるじゃん」


「……いつの時代の価値観だよ。昭和のヤンキーじゃあるまいし。あのな、男が語るモテ理論なんて大抵極論か同性ウケを狙ったもんだからな? どうせ記事を書いてるのも時代に取り残された年寄りだろ。つか女にモテたきゃ狙ってる女に直接好みを聞けばいいだけで。なーに回り道してんだ。時間の無駄だっての」


「それこそ強者の理論だから! 弱者の気持ちも考えて!」


「お前は、いつまでそうやって弱者の側にいるつもりなんだ?」 


「……どういうこと?」


「言葉にしなきゃわかんねーのか。母親の代わりを務め、親父さんを支え、引き篭もりの妹を社会復帰させ。学校一のお姫様と交流してトラウマを克服させた。これができる人間が他に何人いんだよ」


「俺がそうあれたのは……周囲の協力があったからで。陽和を救えたのも、勉がいてくれたからだよ」


「誰かに助けを求められるのだって強さだろ。周りを見てみろ、己の限界すら知らず。自分はなんでもできると思い上がってるガキばっかだ」


「それが普通の……学生らしさだと思うけど」


 俺は学校を離れて社会に出ている大人とばかり交流していたから。 

 限界を知っているから。大それた夢とかそういうのもなく。目標が現状維持という学生らしさとは無縁の、面白くも可愛げもない子供で。だから周囲が羨ましくあった。


「学生らしさだ? あーくだらねぇ。自分から量産型の人間に収まってどうすんだよ。社会に出た時に真っ先に捨てるゴミみたいなもんだろ」


「うわぁ……人の悩みをバッサリと」


 まぁでも、学生らしさの有無で悩めるのは学生である間だけで。

 くだらないと言えば、そうなのかもしれない。伝え方が悪すぎるけど。


「それから、俺が陽和を救ったことにされているが。面倒になって扉を物理的に破壊しただけだ。偶々上手くいっただけで、いつまでお前も陽和も俺を恩人扱いしてんだよ。下手したら一生立ち直れなかったんだぞ?」


「陽和に必要だったのは半端な優しさじゃなくて、扉を壊してでも引っ張ってくれる。叱ってくれる誰かだった。それは……俺にはできなかったから」


「俺は父親を半殺しにして、家族から縁を切られて施設に放り込まれた屑でしかねぇよ。お前は……そんな問題児に噛みつかれても尚餌付けする、本当意味わかんねぇバカだけどな」


 確かに問題児ではあるけど。喧嘩も何度もしてきたけど。本当ムカつくことも多いけど!


「俺にとって……勉は恩人だよ。それがたとえ結果論だったとしても、他の誰が悪く言ったとしても変わらない。変えさせないから」


「……和樹」


 勉は、人差し指を俺のおでこに押し当て、真剣な表情を向ける。


「今吐いた言葉忘れんなよ。それはお前もなんだよ」


「え?」


「なにも知らない有象無象が、お前を女々しい奴だとか、女に媚びているだとか、くだらないと馬鹿にしてきても。鼻で笑おうとも。理解しようとしなくても。――親父さんにとって親孝行の息子で。陽和にとって自慢できる最高の兄貴で。そして、湊姫華にとって安心して寄り添える男なんだろ? 立派なことじゃねーか。これ以上誰になにを求めてるんだよ。世界中の人間に好かれでもしないと気が済まないってか?」


「…………それは」




 ――男らしさが嫌いだった。


 中学時代にいじめられて。理不尽な思いをして。

 周囲が何故こんなものにこだわるのか不思議で仕方がなかった。


 自分を変えようと様々な動画を参考にした。身体を鍛えてみたりした。

 その過程で、生き様がカッコいいと思える人たちは自分の弱さを知っていた。


 己の弱い部分と向き合って生きていたんだ。変わろうともがき続けていたんだ。

 

 きっと、俺が本当に嫌っていたのは……らしさという言葉を都合のいい武器として振るう。己の弱さを認められない人の虚勢―――自分自身。


 俺はずっと、俺自身を見ようとしなかった。男らしくない。学生らしくない。脇役なんだと言い聞かせることで、あらかじめ予防線を張っておくことで弱い心を守ろうとしていた。


 そうだ。らしさに一番固執していたのは俺だったんだ。

 己を否定する武器として振るって。だって弱いままでいた方が楽だから。

 変わろうとすることは苦痛で。本当の自分をさらけ出すことは勇気が必要だから。


 湊姫華さんと出会って。彼女は周囲が期待しているような完璧なお姫様ではなかったけど。むしろ苦手の数でいえば俺よりも多くて。そんな姫華さんが変わっていく姿を傍で見守ってきた。先輩を前にした彼女の言葉に、勇気に、心を揺さぶられた。その生き様がなによりもかっこよくて。ずっと尊敬し、憧れた。


 告白の手紙を受け取った日。

 俺は俺が憧れた人に目標だと言ってもらえた。

 これまで二人で過ごしてきた日々が最高の宝物だと。


 これ以上の結果はあるだろうか。これ以上なにを望むことがある。


「いい加減自覚しろ。お前は最初からモブなんかじゃない。誰かにとっての特別なんだよ。逃げんなよ。逃げたらお前がその誰かを否定することになるんだぞ」


「……そうだね、本当にそのとおりだよ。そんなの最低最悪だ」


 俺が誰かを大切に想うのと同時に。誰かが俺を大切に想ってくれている。 

 言葉自体に大した意味などなくて。今ここに残る結果にこそ価値があるんだ。


「どうしてもっと早く教えてくれなかったのさ。ずっと一人で空回りしてるって」


「それくらい自分で気付けバーカ。俺はお前の介護係じゃねーんだぞ」


 辛辣な返答に苦笑する。

 

 とても晴れやかな気分だった。

 これまで積み重ねてきたものが、その形がわかる。 

 

 もう大丈夫。まだ道半ばで先は長いけど。

 俺は俺自身を100で信用し切れていない、それでも。

 俺をずっと見てくれていた、親友の言葉だけは疑いようがない。

 

 勉がやれやれと、指を離すついでにデコピンをかましてきた。


「いでっ、なんだよ!」


「はっ、手間かけさせやがって。それで馬鹿も治るといいがな!」


 コイツ……感謝はしているけど。ちょっとだけやり返したくなった。


「でもさ、俺って勉の母親代わりではあるんだから。もう少し優しくしてくれてもよくない?」


「……おまっ、声がでけぇよ。それを持ち出すのは……卑怯じゃねぇか!?」


「陽和にも言い付けてやろうかな」


「ぐぬぬぬぬ」


 勉ががくりと項垂れる。鬼のような形相でこちらを睨んできた。

 

 陽和にはまったく信じてもらえてないけど。

 暴の化身である勉は、たった一度だけ俺に負けを認めたことがあった。


 あれは――陽和が引き篭もりを脱して、社会復帰するための訓練を始めた頃。

 俺と勉は、陽和の誕生日に奮発して、お金を出し合って老舗のケーキを買ったんだ。


 崩さないよう大事に抱えて、その帰り道。

 大学生グループの一人が歩きスマホでぶつかってきった。

 体格差もあって俺は跳ね飛ばされて、持っていた箱がぐちゃぐちゃになった。


 大学生たちは、俺たちが中学生と見るや服が汚れたと騒ぎだした。謝罪まで要求してきて、そして――


『喰えよ。腹が減ってたんだろ? あぁ? 返事がねぇぞ。いいから遠慮せずたらふく喰らえよ』


 ――本気でキレた勉を見たのは、その時が初めてだった。


 肉と骨がぶつかる音が響いていた。勉は馬乗りになり何度も相手の顔面を殴り付けていた。辺りは死屍累々。鉄臭さと大学生たちの痛々しい呻き声。もうやめた方がいい、やりすぎだと。俺が何度止めても聞く耳を持たなかった。  


 俺は怖くなった。勉の暴力性が怖かったわけじゃない。

 勉は自分のことなんてどうなってもいいと思っている節があった。

 殺人罪で警察に捕まっても、明日野垂れ死にしたとしても。最期の瞬間も、きっとなんとも思わないんだろうなと。 


 それは想像するととても寂しくて。

 感情が壊れてしまった、初恋の子を鮮明に思い出して。

 また目の前で誰かが、不幸のままいなくなるのは耐えられなくて。


 母親から見放されて、妹とも会えなくなって。辛い境遇なのは知っている。

 それでも自ら停滞している姿に。幸せなんてとっくに諦めている姿にムカついて。


 俺と陽和が、うちの親父だって。いつもどれだけ心配しているか。  

 いつまでも悲劇の主人公面している親友が気に喰わない。そう思ったんだ。


 だから――俺は衝動的に駆け出していた。叫んでいた。

 

『家族に会えなくて寂しいなら、会える日まで俺が、母親になってやる!』と。


 無我夢中で走り、途中で転んで、勉の放心した顔に思いっきり頭突きをお見舞いした。反撃で、当然のようにボコボコにされたけど。俺も何度も叫びながら頭突きを返した。

 

 お互い青痣だらけになりながらも一歩も譲らず、溜め込んでいた気持ちをぶつけあった。俺たちの帰りが遅いのを心配して探しに来た陽和に見つかって、めちゃくちゃ怒られて。というか泣かれて。

 

 親父にも説教された……親父の怒ってる姿を見たのは初めてで、とてもおっかなかった。後日大学生たちには謝罪した。明らかに過剰防衛で警察沙汰になる一歩手前だったので。なんとか和解することができた。

 

 その一件以降、勉は大人しくなったんだ。


 今まで周囲から恐れられ、見放され。誰かに真剣に叱って貰えたことがなかったらしい。俺に対しても、偶然とはいえ初めて強烈な一撃を受けたと。気持ちで負けたと伝えられて。


『腹減った……飯、作ってくれよ。和樹は俺の母親代わりなんだろ?』

 

 少しぶっきらぼうに、ガーゼの付いた頬を搔いていた姿を。憶えている。




「――つーかさ、数日で飽きるだろ普通……まさか進学してからも続くと誰が思うか!」


「残念でした。俺は最後まで約束を守ります。勉だって裏で色々助けてくれていたんでしょ」


「……別に。お前がいつもウザいくらい母親面するから。でもそれで助かってるのは事実だし。偶には返さないと、恩を仇で返すのも気持ち悪いというか。つまり親孝行みたいなもの……って、変なこと言わせんなっ! くそっ! にやにやすんな。さっさと女作って子離れしやがれ!」


「でもなぁ、仮に俺に彼女ができたとしても。家族も親友も変わらず大事にするよ。はい、今日のお弁当は勉の好きなもの詰め込んでおいたから」


「だーかーらーそれがうざってぇんだよ!! そういうのを普段から、身内以外に向けていたら今頃とっくに彼女の一人や二人できてただろうに。本当ばっかじゃねぇの!?」


「二人はダメでは? でも……上手くやってみせるよ。なんといっても俺は告白されましたし?」

 

「はっ、急に調子付きやがって。お前の下の息子も日陰者から卒業できるといいけどな!!」


「ちょ、そういうオチいらない! わざわざ上げてから落とすな!! 日本男児の六割そうだっての!」


 あー周囲の女子の好感度が下がる音がする。でも、この日常に戻った感じは悪くない。短期間でレベルアップし過ぎたんだ。ここからはゆっくり、自分のペースで歩んでいこう。


 というかしばらくは恋愛とかいいや。他に優先したい趣味見つけちゃったし。


 親父が今後も身体を鍛え続けるつもりならジムに通わないかと。お金を出すと言ってくれたんだ。一度は断ろうとしたけど。親としてなにかさせて欲しいと言われてしまい。親父に恥をかかせたくないし。

 

 どうしようかな。24hジムに通おうかな。温水プールのあるパーソナルジムもいいなぁ。早くマシントレーニングを試したい。いただいた鉄アレイは大活躍しているけど、最近は自重トレも停滞していたから。そろそろ新しい刺激が欲しいところ。


 俺がスマホで近隣ジムの評価を見ていると、わっと声が上がる。

 最前列では湊さんと優騎さん含む女子グループが盛り上がっていた。

 

 んん……湊さんに好きな人ができた? エリート社会人とか、女性(人妻)とか、様々な説や情報が断片的に聞こえてきて、周囲の男子も一喜一憂している。みんなそういう話題好きだな。


 俺はちょっと食傷気味――告白って振る側も結構メンタルにくるもので。


「あ、そうだ勉見てよ。この前家で小豆を炊いたんだ。砂糖控えめにして小豆本来の甘さを引き立てたミルク金時。自家製白玉もあるよ。陽和がインスタにあげてくれて、クラスでも好評だったみたいでさ――どうした勉。そんな今世紀最大のバカを見るような目をして」


「……そのバカを見てるんだが? もう少し視野を広げて賢くなるべきだな」


「? 期末考査も結果は上々だったよ。さすがに一位は取れなかったけど」


「……そういう意味じゃねぇよ。わざととぼけてんのか? つか、いきなり学年三位ってお前、進学するつもりがないから適当に流すんじゃなかったのかよ」


「ま、まぁ……真剣に勝負してくださいと頼まれまして」


 全教科を合算したらダブルスコア以上の点差が開いて、湊さんが茫然自失になってしまったけど。すぐに立ち直りリベンジを誓ってくれた。ちなみに罰ゲームは前回の分と合わせて保留中。

 ついでに担任に前回手を抜いていただろと、お小言をいただいてしまった。指の怪我で時間を持て余していたのもあるし。次回から二桁順位に落ち着くと思う。


「……で、隙間時間に夏休みの課題も終わらせたのか。生き急ぎすぎだろ」


「時間が掛かるもの以外はね。夏休みは予定が詰まってるから。これからジムに通うし、お料理教室と道場見学もあって。親父は相変わらず忙しそうだし。陽和も部活で大変だろうから、サポートも必要だろうし」


 予定を語るたび、勉の顔が険しいものになっていく。


「そうだ。いつものように課題写していいよ。ただし条件として、うちで朝食を食べてから。偶には帰ってきてよ。陽和が心配してるからさ。あ、写真のかき氷も食べる? いま和菓子作りにハマってて、運動してるとつい甘い物が食べたくなるから。罪悪感なく美味しく栄養がとれるよう試行錯誤中。きな粉なんてプロテインみたいなものだしね」


「うぎぎぎ……少し黙れ。この無自覚の化物め!」


「えっ酷い言われよう!?」


 パワー系の化物と化してしまった勉は放っておくとして。

 教室で過ごすお昼休みに、若干の物足りなさを感じながらも。


 夏休みまで残り僅かとなり。消化試合のように日々が過ぎていく。




 ――スマホが揺れる。夏休み前最後の登校日。湊さんから連絡が届いていた。

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