第1話 気になるあの子の好感度は
元々短編だったものを、二十分割してアップしていきます。(全20話)
七万字に納まるどころか十二万字超えちゃった……。カクヨム様でも投稿中。
気になるあの子が自分のことをどう思っているのか。
思春期真っ盛りの男子高校生なら、誰しも関心を寄せるトピックだろう。
もし、それが数値化されたとなれば。学校生活を過ごすうえでこの上ない原動力になるはず。
「んあ? 和樹お前、そのメガネどうしたんだ」
親友の木場勉が、隣から怪訝な顔で声を掛けてくる。
その頭上、青色で21の数字。ゆるいフォントでふわふわと、メルヘンチックに浮かんでいる。
俺――遠坂和樹は、怪しまれないよう視線を動かしつつ、赤縁メガネに触れる。ちなみに度数0の伊達である。
「どう、このメガネ似合うかな? イメチェンしてみました」
「……安物でしかも女物だろそれ。高校デビューのつもりか、陽キャに憧れたのかしらんが。こっちに近寄んなよ。同類と思われたくない」
呆れ果てた様子で、勉が椅子ごと距離を取りそっぽを向いた。
あっ、リアルタイムで数値が1下がった。こんにゃろ、お前も眼鏡男子だろうに!
普段メガネを必要としない俺は裸眼で両視力2.0。鼻辺りの違和感が慣れないけれども。これはただのメガネではないのだ。相手の心の内を暴いて感情を数値化する機能が付いているのである。
今朝方、遠坂和樹宛に届いていた。差出人は不明。メガネ本体は一般流通品っぽい。ご丁寧に使い方メモまで送付されており。”どうか良きご縁がありますように”とのこと。
送り主の目的はわからない。俺が選ばれた理由は――学生だからだろうか。
他人(特に異性)から自分がどう思われているのか。思春期の若者には特に刺さる機能だ。不特定多数と交流できる環境でなければ、使いどころが限定される。あと大人が使うには小さく、材質が安っぽい。
とにかく開発者は善人であるかは定かでないけど。決して悪い人ではないと思う。
歳が若い、もしくは感性が若いか。魔法のようなとんでも技術力を、こんな思春期の妄想を具現化した道具に注ぎ込むくらいだ。
「…………さて」
改めて俺は周囲を見渡す。登校してきたクラスメイトの数値は0ばかり。テストで名前の書き忘れでもしない限り見ない数字だ。
おろしたての制服に袖を通しまだ十日ほど。顔と名前も曖昧なまま、会話したことのない人も多い。0でもおかしくない関係性だった。まぁまぁ、最初からそこまで期待はしてないから。勉くらいの数値があと2、3人見つかれば満足だから。これからが本番だし。
次も0、その次も0、0、0、1……じゃない見間違え0。……あれ? 雲行きが怪しくなってきた。ゼロ、ゼロ、ぜろ………………あの、どうか故障であって欲しい。
ついにクラスメイトが揃ってしまった――この時点で俺のメンタルポイントも0。
終わった……いや落ち着こう。学校は広い。他の教室にだって生徒はたくさんいる。落ち込むにはまだ早い。だから落ち込むな。もう一度使い方のメモでも読んで――あれ? 読めない。あ、メモが逆さまだった。
メモによると数字の色が同性は青、異性は赤。それぞれ友好度と好感度らしい。
先程すれ違ったかわいいと評判の、アイドルみたいな子が青色だったような……。
えっ、まさか男の娘――メガネの不具合ということにしておこう。
今の時代、同性愛に対応していないのは、配慮が足りてないとツッコまれそう。
という冗談はさておき。メガネで測れる最大値は100だそう。ちらっと勉に視線を戻す。
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木場勉 20
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友好度として見ても低い気がするんだけど。この人本当に親友? 俺が勝手にそう思ってるだけ? 視えている数字が0ばっかで、普通の基準値がわかんないよ! 頼むから20が平均以上であってください!
「さっきからその似合わないメガネでキョロキョロすんな。無駄にテンションたけぇよ」
「いいじゃん。別にそういう日もあったって! ははは……」
自分だけの秘密道具を手に入れ、謎の万能感と結果の伴わない焦りからテンションが安定しない。気味の悪い者を見るような視線を向けてくる親友(暫定)、そのお腹の虫が鳴っていた。
あっ、忘れるところだった。俺は鞄から弁当袋と紙袋を取り出す。
「はい、これ今日のお弁当。どうせ朝から菓子パンしか食べてないだろうと、梅おにぎりも入れておいたから。あとお茶も。私服はボタンのほつれ直してアイロンもかけておいたよ。紙袋にまとめてるけど皺にならないよう保管しておいてね」
「あーそういう配慮うぜぇっての。進学してからも毎度毎度、俺の母親面しやがって。イメチェンするならまず、その目のクマをなんとかしろよ。お前また寝てねぇだろ」
「若いからへーきへーき」
いつものように文句を垂れる勉にお弁当と紙袋を押し付けて。
俺は1限授業の準備を始める。うわぁ確かに手鏡で確認すると目のクマが酷い。
もしかしたら先生からも心配されるかな。あとで顔を洗ってこないと。
「――担任は、さすがに0じゃないよね。だとしたら泣くんだけど」
「さっきからぶつぶつなに言ってんだ」
「なんでもないよ。口元、米粒ついてるよ」
拝啓、開発者様。メガネはありがたく使わせていただきます。
よーし。これから俺は、青春を効率よく謳歌してやるぞ!
――そしてお昼休み
「はぁ…………はぁぁぁぁぁ」
「おい。朝のクソウザいテンションはどこいった? よりウザくなってんじゃねーか」
「……いいじゃん、別に。そういう日もあるよ。はぁ……」
おかしいなぁ。俺の期待していた展開とまったく違う。
レンズが曇ってるのか、輝かしい青春が一向に見つからないんだけど。
好感度の高い運命の相手がどこかに存在するはず。それがお約束というものじゃないのか。俺はメガネを手に入れ物語の主人公に選ばれたんじゃなかったのか。現実は非情である。元より陰キャである俺への、ほぼすべての学生からの好感度は0であった。
高校入学式からまだ日が浅いとはいえだ。
同中だった子もいたのに。俺のこれまでの人生って……。
生徒を導く担任教師ですら、友好度3なのだ。(0ではなかった)
これでも表彰台に入るのだから涙が出そうになる。安堵と悲壮の両方で。
なんだか世界から俺への評価が数値化されてるみたい……すっごい惨めじゃん。
「なぁ……勉。俺って実は、世界から必要とされてない人間?」
「末端の歯車ひとつ欠けたところで、世界は支障なく回り続けるしな」
「ひどっ。常に空回りしてるってこと!? 実際そうだったとしても、勉だけは悲しんでくれてもいいじゃん! 俺たち親友じゃん! 明日お弁当抜きにしてやる!!」
「うるせぇ! いきなり付き合って三ヵ月くらいの女みたいにヘラりだすな!! 今日の情緒どうしたんだ、いつになくキモいんだが!?」
こんな冷たい男でも、友好度21(元の数値に戻った)である。
辛辣な物言いも俺という人間を見てくれている証拠であり。俺の存在証明であり。
救われるというか……やばい本当にメンヘラっぽい。勉と担任だけが味方だ。あの、表彰台ひとつ空いてますよ。
――厳密に言えば。
単純に数値の高さだけなら、金メダルを渡せる人物がひとりいる。
最前列の座席に集まり会話に花を咲かせる女子生徒たち。
所謂一軍と呼称される陽キャグループ。化粧も制服の着こなしも派手で。
その中心に、選ばれるべくして選ばれた。カースト頂点に咲く一凛の花が。
「そんなことより。お前も湊姫華を見ろよ。知ってるか、資産家の親族を持つリアルお嬢様らしいぜ」
「親友の苦悩をそんなこと呼ばわり……確かに、お淑やかな子だとは思うけどさ」
勉が感情の読めない真顔(超怖い)で女子生徒を褒めている。
リアル女は高慢ちきで守銭奴で化粧臭いと、女嫌いの気がある勉にしては珍しい。
ちなみにコイツ、男の俺に対しても辛辣なので全方位に冷笑系だ。つまりただの人間嫌いであった。
そんな人間嫌いの勉ですら一目置く女子、それが――湊姫華さんだ。
「はい。明日のお昼休みはそちらの教室に伺いますね。お誘いありがとうございます」
小さなお顔に大きな瞳と切れ長の眉は、愛らしさと美しさのいいとこどり。
声はハキハキとしていて通りがよく。騒がしい教室内でもすぐ彼女を発見できる。
身長は女子の中では低い方。それでもスタイルはよく、特に――制服を押し上げる胸は、男子の視線をよく釘付けにしていた。噂によると学年で一番だとか。
そして湊さんの象徴ともいえる、腰辺りまで伸びる美しい黒髪。
日々のメンテナンスも大変そうな。いつもダイヤのような輝きを放っている。
高校生活にも慣れてきて油断する生徒も多い中で、制服の着こなしも完璧で、扉を開ける際も音を立てず、ペンを持つ姿すら美しい。武道の心得でもあるのか、立ち姿勢も、歩き姿も隙がない。
その他、幼少の頃ピアノコンクールで賞を獲ったとか。泳ぎも鬼のように速いとか。料理の腕前がプロ級だとか。嘘か真か、超人エピソードの数々。とにかく話題に事欠かない子だ。
「ゆーきちゃん。先程授業中に眠っていましたね……?」
「だってさ、勉強つまんないし。ヒメ、よしよしして」
「もぅ、はしたないですよ」
「あ~胸枕最高。はっ、羨ましいか男子ども。これぞ幼馴染特権じゃい!」
「ゆーきちゃん? 調子に乗らないでくださいね」
「いだっ、ヒメがチョップした~!」
「ふふっ、いたいいたいのとんでいけ~」
「治った!」
「では遠慮なくもう一回、えいっ」
「ゆるじで!」
いつも物腰の柔らかな優しい口調で。それでいて茶目っ気もある明るい性格。
人懐っこい子犬のような無邪気な笑顔で、今も仲の良い友人? と密着してじゃれ合っていた。
名は体を表すという言葉通り、とにかく華があった。彼女を中心として色鮮やかに。湊さんが動けば、自然と周囲の輪が広がる様は、まるで一国の姫君とそれを支える従者たち。
勉と違って、湊さんはきっと人間が大好きなんだろう。お姫様は一般庶民にも優しいのだ。毎朝クラスメイト全員に挨拶している姿を見る。もちろん俺にも、笑顔で『おはようございます!』と声を掛けてくれる。さっきも別クラスの子にお呼ばれされていたみたいだし。真の人気者にはそんなイベントもあるんだなぁ……。
まさに二次元キャラをそのまま三次元に出力したような美少女であり。
恋愛弱者の陰キャどころか、大抵の男子が好きになるであろう。黒髪清楚系女子。
入学式の翌日には、満場一致で学校一の美少女の座を勝ち取った、もはや天上人。
底辺を這い蹲る俺たち陰キャ男子は、彼女を視界に入れるだけで罪に問われかねない。
実際、陽キャ男子の目が猛獣の如くギラギラしていて、下手に近付くと危ういのだ。湊さんは身体の隙はないけど、心の隙はありそうなので、陽キャ受けが非常に良かった。廊下を見やれば、用もないのに上級生たちが教室を覗きに来ている。
湊さんは休み時間に席を外すことが多い。おそらく告白の呼び出しだろう。
教室に残っているのは珍しく、おかげで某特撮の春映画のように各地から男子が集結して騒がしい。
「おーおー有象無象の蛆虫どもが高嶺の花に集まってらぁ。勝算もないのに意気込みだけは御立派なことで。和樹は――そういえばお前、年上長身の金髪ギャルが好みだったな」
「まぁ……うん。黒髪清楚系苦手寄りだし。特に髪はショートが好きかな。ほら、和製ホラーに出てくるお化けって大抵黒髪ロングなわけじゃん……夜道に出くわしたら怖くない?」
「お前根本的にこの国向いてないぞ」
勉の言う通り、湊さんは俺の好みの女性像とはかけ離れている。ほぼ真逆に突き抜けている。
そもそも俺みたいな小心者は、女子をエスコートするより、むしろされたい側であり。男主人公がヒロインを守る王道展開よりも、ヒロインに守られる展開の方が好みだった。
か弱いお姫様ではなく、気高い女騎士が好きだ。くっコロはもちろんNGでお願いします。女騎士が最後までお姫様より強かった作品、見かけないけど。剣が折れてる印象強いけどね……。
「清楚系美少女って実は裏では――って展開があまりに多くて辟易するというか。もはや変な前振りみたいじゃん? 昨今、ギャルの方が純情で清楚な子が多い気がするんだ。清楚キャラが最後まで清楚だったことある? 腹黒だったり、サキュバスだったり。絶対どこかのタイミングで特殊イベントを踏んで豹変するんだ……!」
「……それリアルの話か? 寝不足でついに頭のネジもぶっ飛んだか……んなの、誰しも二面性はあって然るべきだろ。AIやロボットじゃあるまいし。一斑を見て全豹を卜すのは愚者のやることだぞ」
「主人公に優しいのはいいよ。でもさ、どこへ向けての配慮か知らないけど。恋を知った瞬間、急にモブ男子に厳しくなるのは求めてない。挙句父親に対しても辛辣になったり。おかしくない? これで事前のキャラ紹介文では清楚で優しい子だったんだよ!?」
「あーーーーはいはい、そっちの話か、理解した。この前俺が貸した漫画が解釈違いだったんだな。ご愁傷様」
「ラブコメはさ、優しい世界であって欲しい。俺は主人公になれないから、その他モブの方に感情移入してしまうんだ……」
勉に借りたラブコメ漫画は、絵柄は好みだったのにヒロインが髪色と同じくらい腹黒だった。ヒロインの一途さが害になっているというか。現実世界が舞台なら最低限の社会性は必要だと思うんだ。昨今、暴力系は流行らないよ。
主人公も男の親友キャラを雑に扱ってばかりで。ギャグ描写だとしても心が痛むんだ。これで作中優しい人扱いなのが解せぬ。どうか友人も大事にして欲しい。
「……お前の黒髪清楚系への苦手意識も中学から変わらねぇな。二次でも無理なのかよ。一応参考までに、湊姫華をどう思う? さすがにリアルとフィクションの区別は付いてるだろ? …………付いておけよ?」
「んと……気にならない、と強がるつもりはないよ。あそこまで極まってるとさ。人として惹かれるものはあるから。うん、遠くから見ている分には怖くないし。普通にいいな、と思う」
「まっそうだよな。手の届かないヒロインより、身近なアイドルの方がいいに決まってる」
実際のアイドルほど主張は激しくないけど。彼女の所作には、とても魅力を感じていた。好みの枠を超えて他人を惹き付ける、天性の女優というべきか。勉が夢中になるのも無理はない。
「勉はさっきから妙に湊さんに肩入れしてるけどさ。変に夢見たり期待しない方がいいよ。奇跡的に仲良くなれたとしても……男子からの嫉妬ヤバそうじゃん? というか既に彼氏がいてもおかしくないし。変に揉め事なんて起こしたら……中学までは義務教育で許されてたけど。さすがに高校ではマズいよ」
「俺がまた誰か殴って、今度は退学になるってか?」
前科のある勉が、意味深に口角を上げる。あーこわいこわい。
勉といういかにもインテリ系の名前でありながら、コイツは元不良だった。
理由もなく暴力を振うタイプじゃないけど。逆を言えば理由さえあれば、必要となれば殴るという選択を取れてしまう。コイツの方こそ頭のネジが外れているというか。破壊願望と呼ぶべきか。同じ陰キャでも俺と正反対の性格をしていて。
「……余計な心配だっての。あんなの妄想の中ですら付き合える気しねーよ。畏れ多いわ。つーか昔から女に困ったことはないんだよ。誰かさんと違ってな」
「唐突なモテ自慢!? 油断も隙も無い……まぁ畏れ多いというのは同感だね。美しい花には触れず近付かず、遠くから眺めているに限るよ」
俺なんかじゃお近付きになれないし、なるつもりもないけど。
所詮モブだったとしても、湊姫華さんとクラスメイトの関係になれる。
それはとても幸運なことで。いい思い出に――なると思ってたんだけどなぁ。つい昨日までは。
「……はぁ」
「湊姫華を見ながら溜め息なんて、湊姫華に失礼だぞ。あと、さっさとその似合わないメガネを捨てろ」
「さっきから女の子をフルネームで呼ぶのやめてくれない!? しかも毎回棒読みなの、本当に好きなの? むしろ嫌い寄りの反応じゃない? それ」
勉のよくわからない態度も恐ろしいが。それ以上に、俺の感情を揺さぶる光景。
今も楽しそうに談笑している、湊さんの頭上に浮かぶ好感度を表す赤色で”40”という数値。
初めて視えたときは――衝撃のあまりその場で叫びそうになった。なんせ俺の親友の2倍の値。まぁすぐ現実に引き戻されたんですけどね。”小さく足された”余計な記号さえなければなぁ。
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湊姫華 −40
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この物語を気に入っていただけましたら。感想、ブクマ、お願いします!




