ツイてる孤児令嬢と、ツカれた侯爵様の「ひと月だけ」の結婚
「俺は君を愛するつもりなどない。どうせこの結婚はひと月だけのものなのだから」
参列者も神父もいない式場で、目の前の男は私にそう告げた。
シルクのような銀色の髪に、涼やかな青紫色の瞳。
鼻筋の通ったそのお顔は美しく、まるでお伽噺に出てくる雪の精霊のようだ。
あまりにもキレイで、普通だったら見惚れて動けなくなるだろう。
もしくは突き放すように告げられた内容にショックを受けて、なにも言えなくなるか。
けれど私――アニス・セヴォーラにはそんな暇はなく、ただひたすら男の背後を凝視していた。
だって男の背後には――
(だ、旦那様ーーー!? 憑いてます!! 憑かれてますーーー!!)
――薄紫色のモヤに包まれた半透明な何かがいたから。
旦那様の背中に覆いかぶさるようにしている人型のそれは、どう見ても生きているものではない。
しかも肌を刺すような敵意を感じるし、近づいたら危ない気配がしている……。
絶対に関わってはいけないと、私の直感が告げていた。
けれどどうしてもそれから目を反らせない。
そんな私に旦那様――クレスト・ペリウシア侯爵様は薄く笑った。
「君も聞かされているはずだ。我がペリウシア家……もとい、俺は呪われている。そしてこの結婚は呪いを解くためのものだと――」
(いや、聞いてないですけど!?)
聞かされているはずだと言われても、思いきり初耳だ。
記憶をたどっても心当たりすらない。
「今までの女性たちは一週間と持たず逃げ出したが……君はどうだろうな。まあどちらにしても、俺に愛されようとは思わないことだ。死にたくなければ、近づくな」
旦那様はそう告げると、指輪だけ渡して出て行ってしまった。
怒涛の展開についていけない私は一人、呆然とドアを見つめるしかない。
(ひと月? というか、あれは一体……)
分からないことはたくさんある。
けれど今の話を信じるのなら、この結婚は愛のない契約結婚だということになる。
「……なんてこと」
体が震え出した。恐怖や悲しみから……ではない。
「~~~ッ! ツイてるわ!!」
私は両手を握り、高く掲げた。
「たったひと月だけの結婚だなんて! それならあの男に一泡吹かせることもできるかもしれない!」
そう思うと体に力がみなぎってくる。
「今に見てなさい! 都合のいい駒でいてあげる気なんてないんだから!」
誰もいない式場に、私の高笑いだけが響いた。
◇
突然だが、この結婚は私の望んだものではない。
というかそもそも、私は貴族ですらない。
ごく最近まで孤児院にいた、平民どころか貧民と言ってもいいくらいの女だ。
そんな私がどうして侯爵様と結婚しているのか。
それは三日ほど前、私の元に突然セヴォーラ子爵という男がやってきたことが原因だった。
どうにも私は、セヴォーラ子爵の“婚外子”というものだったらしい。
それ自体に驚きはなかった。
母が生きているとき、自分にこの男の血が流れていると知らされていたから。
けれど産まれてから十九年間、セヴォーラ子爵が私を認知することは一度たりともなかった。
それどころか、母が亡くなった時ですらなんの反応もなかった男だ。
そんなやつを父親だなんて思う訳がない。
関わるのも嫌だったので、孤児になってからも頼ることはなかった。
運のよいことに善良な孤児院に入れたし、貧しいながらもなんとかなっていた。
……運がいいというか、やばいものを徹底的に避けてきたから生きてこられていた、と言った方がいいかもしれない。
どんなものかと言われたら、旦那様に憑いていたようなものである。
私には生まれつき、人には見えないものが見えていた。
魂とか、オバケとか、幽霊とか呼ばれているものだ。
それは基本的にそこに在るだけで、生者にちょっかいを出すことはない。
けれど稀に恨みや憎しみなど、強い負の感情をあらわにしたものがいる。
そういうものは憑いている人間に不幸を呼び込んでいるらしく、今までに見た憑かれている人間は皆、破滅の道を歩んでいた。
一体何をしたらそこまで恨まれるのかは分からないが、恐らく誰かの命を奪ったとか、そういうヤバいことをしたのだろう。
そんな人間とは関わらないのが一番。
だから私はそういう人を見たら関わらないように距離を取ってきた。
……だというのに。
セヴォーラ子爵は急に現れて強引に連れ去り、ペリウシア侯爵家へと向かわせた。
明らかにヤバい幽霊に憑かれた旦那様の妻として――。
◇
「ほんっとムカつく。いくら自衛していても、これじゃあ意味ないじゃない!」
私は案内された部屋に置かれていたベッドに倒れ込み、顔をうずめて唸った。
だって突然連れ去られてヤバいものを憑けた人の妻にされたのだ。
こんなの今までの苦労が水の泡ではないか。
「っていうか愛娘がいるならそっちを嫁がせればいいじゃない! 呪われたお家に愛娘は渡せないってか! そうですか!」
思わず口調が荒くなってしまうが許してほしい。愚痴を言わないとやっていられないのだ。
だってセヴォーラ子爵には本妻との間に愛娘がいる。それなのに私を差し出した。
しかもこの家が呪われているということも知っていた。
ということはつまり、私はセヴォーラ子爵がペリウシア侯爵家に取り入るための駒にされたということ。
私なら呪いで死んだとしても別に子爵家に打撃を与えることはないから。もしかしたら死んでくれた方が慰謝料をとれると思っているのかもしれない。
「あ~も~、ほんと腹立つ!! でも今に見てなさい! ただでやられてやるほどか弱くないんだから! 絶対に仕返ししてやるわ!」
貴族はノブレスオブリージュと言うが、平民はやられたらやり返すが原則。
恩を受けたら恩を返し、害を受けたら害を返す。
だから今回返すのは特大の害だ。泣き寝入りなんてするわけがない。
「そのためにもこの一か月をどうにかして乗り越えないと……。はあ」
寝返りを打って、大きくため息をつく。
予期せず結婚することになったのもそうだが、何よりも問題なのはあの薄紫の幽霊だ。
呪いだなんだと言われているけれど、恐らく呪いの原因はあの人なのだろう。
近づくのを戸惑う程の強い思念。それが旦那様へ、侯爵家へ影響を及ぼしているのだと容易に想像できる。
(……まあこっちから近づくつもりはないけど)
それでも同じ屋敷で暮らす以上、全く接触しないという訳にもいかないだろう。
「……まあ、考えても仕方がないか。見えてるだけ避けられるんだからマシって思わなきゃ。とにかく乗り切ってみせるわ!」
そんな決意をしていると、ドアがノックされる音が聞こえてきた。
「奥様、夕食の準備が整いました。食堂へご案内いたします」
「あ、は、はい!」
言われて窓の外を見ると、既に日は落ち、夜になっていた。
夕方に嫁いできてから、随分と時間が経っていたようだ。
慌ててドアを開くと、三〇代後半くらいのクールそうな女性が立っていた。
式の後、屋敷を案内してくれた侍女長さんだ。
彼女は少しだけ目を広げると、不思議そうに首を傾げた。
「奥様、お着替えをされていないのですか?」
「え? ああ」
言われて自分の恰好を思い出した。
質素なウェディングドレスのままなのだ。
「すみません。これしか持ち合わせがなくて……」
「え?」
怪訝そうな顔の侍女長さんに申し訳なくなる。
(そりゃあ嫁入りにドレスを一枚しか持ってこないなんて思わないよね)
普通、貴族じゃなくても着替えくらい持ってくるだろう。
私だって服の一着や二着、持ってきたかった。でも準備する時間も与えられなかったのだから仕方がない。
「――……私の背丈と同じくらいでしょうか、一先ず私のドレスをご用意いたしますね」
どうしたものかと考えていると、侍女長さんが気を利かせてドレスを持ってきてくれた。
非情にありがたい。
私は申し訳なさでいっぱいになりつつも、着替えてから食堂へと向かった。
◇
「……なんでいるんですか??」
食堂に向かうと、なぜか旦那様がいた。
いると思っていなかったから、思わず悲鳴に近い声を上げてしまう。
「なんだ。俺がいたらダメなのか?」
「そういう訳じゃないんですけど……」
ちらりと旦那様の方へ視線を向ける。
(……やっぱりいるなぁ)
あいかわらず、旦那様の後ろには薄紫のモヤを纏った何かが憑いていた。
ふいに敵意のこもった視線を感じる。恐らくあの幽霊が私を睨んでいるせいだろう。
……そんなに睨まないでほしい。私は顔を青くして、慌てて目を反らした。
「どうした?」
私の様子に気が付いた旦那様が後ろを振り返った。
けれどやはり旦那様には見えていないらしく、不思議そうに首をひねっていた。
いけない。このままでは不審に思われてしまう。
「い、いえ。近づくなと言われたので、まさかいらっしゃるとは思っていなくて」
「確かに言ったが……、一応は君を娶ったという立場だ。最低限、食事くらいは一緒にした方がいいかと思ってな」
「はあ……」
式で置き去りにしたくせに、変なところで律儀だ。でもありがた迷惑なのでやめてほしかった。
なんの心構えもしていないときに幽霊と対面する羽目になった私の気持ちも考えていただきたい。
それに食事を共にするということは、毎日こうして顔を突き合わせることになるということだ。
(できるだけ避けようと思ったのにな……)
計画が早くも瓦解してしまった。
「……」
「? どうしました?」
項垂れていると、ふいに旦那様が私のことを見つめていることに気が付く。
「いや。その服、フレーヌと同じものだった気がしてな」
「フレーヌ、さん……?」
旦那様が視線を向けた先には、侍女長さんの姿があった。
そうか、彼女はフレーヌという名前なのか。
「ああ、そうです。貸していただきました」
「なぜだ?」
「なぜ……と言われると……」
準備する時間がなかったから?
荷物を持たされなかったから?
それともドレスを持っていないから……?
なんと説明すればいいかと悩んでいると、フレーヌさんが旦那様へなにかを耳打ちしたのが見えた。
「……なに? 一着しか……?」
旦那様は驚いたように目を広げた。どうやら事情を聴いたらしい。
「どういうことだ……。気を引くためか……? 君は俺との結婚を強く望んだと聞いている。それなのに俺があまりにも君への関心がないから……」
「気を引くって、わ、私が!? そんな無茶苦茶なっ!」
無理だ。ありえない。
どうしたら平民の私が侯爵様との結婚を望めるというのか。
ありえなさすぎて全力で首を振っていると、旦那様は怪訝な表情になった。
「君の望みではないのか? セヴォーラ子爵は君を溺愛しているからお願いを断れなかったと言っていたぞ」
「は、はああ!?」
思わず耳を疑った。
「あの男が私を溺愛!? んな訳ないですよ! だってあの男が私を認知したのなんかつい三日前のことですし、溺愛どころか屋敷に入ったことすらないんですよ!?」
「は?」
「私あの男のことを父親だなんて思っていませんし、溺愛されても気持ちが悪いという感想しか出てこないですし! あ、ヤダ。想像したら鳥肌が……!」
そう告げると、今度は旦那様が呆けてしまった。ポカンと口を開け、じっと私を見つめている。
「……それは、本当だろうか」
力強く首を縦に振る。本当のことだと伝わるよう、それはもう精いっぱいに振る。
「…………そうか」
私の反応に旦那様は深いため息をついた。心なしか顔色が悪い。
それに旦那様の後ろに控えていたフレーヌさんも、信じられないとばかりに口を覆っている。
「となると俺の……ペリウシア侯爵家の呪いのことも……」
「知りませんでした!」
「……だろうな」
元気よく答えると、旦那様は深く項垂れた。
「つまりセヴォーラ子爵はペリウシア侯爵家をだましていた、と」
「そう……なりますね。…………はっ! これって私も罪に問われるやつですか!?」
唐突に思い至ってしまった。
だって高位貴族をだまして結婚話を進めていたのだ。
いくら私の意志ではないとは言え、一応実行犯に仕立て上げられた身だ。
罰をうけるとしたら私も対象だろう。
(下手すれば死……?)
冗談じゃない。こんなところで、こんなことで殺されるなんてまっぴらごめんだ。
死ぬとしてもせめてあの男に一矢報いてからじゃなくては、死んでも死にきれない。
(どうしよう……。逃げる?)
けれど侯爵家の使用人がどれほどいるのか、屋敷の詳しい地図も知らない私ではほぼ逃げきれないだろう。
そうなればもっと罪が重くなるかもしれない。
どうするべきか考えて固まっていると、旦那様はややあって立ち上がった。
「……君は申し訳ないことをしたな」
「えっ!?」
頭を下げた旦那様に目を丸くする。
まさか、旦那様が謝ってくるとは思っていなかった。
「あ、頭を上げてください。旦那様が謝られることでは……」
「いや。もとはと言えば俺の確認不足によるものだからな。最後だからとろくに確かめなかったのが災いしてしまった」
顔を上げた旦那様は愁いを含んだ笑みを浮かべた。
「俺は今までいろんな女性と結婚してきた。神殿から『結婚生活をひと月ほど送られれば、呪いも弱まるかもしれない』と言われてな」
侯爵家の血筋が絶えることを危惧した王家から命を受けて神殿へと向かった。そして言われたのが結婚生活を送ることだったらしい。
だからこそいろんな女性と結婚を繰り返していたのだとか。
「けれどそのどれもがうまくいかなかった。俺の近くにいると、呪いの影響で不幸になっていくんだ」
何もないところで転んだり、不自然な怪我を負ったり……。
ひどいと枕元に変な気配を感じて眠れなくなってしまった人もいたらしい。
旦那様は疲れたようにため息をついた。
「……いくら王命とはいえ、そんな人を見続けるのは俺も堪える」
だから私との結婚を最後にすると宣言したらしい。
「君は呪いなど気にしないほど俺を望んでいると聞いた。ちょうどセヴォーラ子爵以外に手を上げるものもいなかったし、それならばと選んだんだ」
他の貴族たちはペリウシア侯爵家の呪いを恐れ、娘を差し出すのを拒んだ。
だからこそ子爵でしかない男の子供である私が侯爵と結婚できたようだ。
「君もどうせひと月持たずに逃げ出すだろうと思っていた。だからろくな調査もしなかった結果がこれだ」
騙されていることに気が付かず、また女性を不幸にするかもしれない。
自分がちゃんとしていれば少なくとも私と結婚することにはならなかったはずなのに、と旦那様は項垂れた。
「……巻き込んですまないな。君が望むのならすぐに帰られるように手配しよう」
重々しいため息が聞こえた。どうやら旦那様も疲れ切っているらしい。
よく見ると旦那様の目元には濃い隈が刻まれているのが見えた。
(……侯爵様でも苦労しているんだなぁ)
なんだか親近感がわいてしまう。
それに騙された側なのに騙した側に謝ってくれるところを見ると、とても誠実な人柄なのだろう。
(それなのにどうして幽霊に憑かれているんだろう……?)
私にはどうしても、旦那様がそんな恨みを買うような人間には見えなかった。
だからつい、口をはさんでしまった。
「……旦那様にも呪いの影響はあるんですか?」
「俺に? いや。俺自身には特に。言われてみれば周りしか被害に遭っていないな……」
「そうですか……」
だとしたらおかしな話だ。
だって負の感情をもつ幽霊は普通、憑いている相手に強い恨みを抱いている。それこそ相手の死を望み、破滅へと導くくらいには。
だから憑かれている旦那様自身、何かしらの影響を受けているはずだ。
けれど被害を受けるのは周り、特に女性ばかり。
(それにあの幽霊……私には敵意を向けてくるけど、旦那さまを怨んでいるような感じはしないのよね)
今まで見てきたヤバいやつとは違い、まるで旦那様を女性から遠ざけるような……。
「……」
「どうした?」
黙ってジッと見つめていると、旦那様は首を傾げた。
(本当にあれが呪いの正体なのかは分からない。推測が正しいかもわからない。でも……)
私なら旦那様を助けになれるかもしれない。
だから私は決意を胸に口を開いた。
「旦那様って、過去に薄紫色の女性と関わりがあったりしましたか?」
「――……なぜ」
言った瞬間、その場が凍り付いたのが分かった。
どんな関係性だったのかは分からないが、どうやら彼女と関係があったのは間違いないようだ。
「……私、昔から人には見えないモノが見えるんです。幽霊と呼ばれていたり、魂と呼ばれていたりいろいろですが……。その、旦那様の後ろに憑いているんですよ。薄紫色のモヤを纏った女性が」
指をさしながら告げると、旦那様は勢いよく後ろを振り返った。
けれど何も見えていないらしく、きょろきょろとしている。
「たぶん、呪いって言っているのはその人の影響なんじゃないかって思います。……こんな話、信じられないのも無理はありませんけど」
「……いや。そうか……あの方が……」
「あの方?」
「……俺の母親だ」
旦那様はぽつりとつぶやき、自嘲気味に笑った。
「母上は俺を怨んでいるのだろうな」
「……それは違うかもしれません。あなたへの恨みは感じませんから」
「え?」
あの霊から感じるこの敵意が何を表しているのかはまだ分からない。
けれど旦那様を憎んでいないことだけは確かだ。
「呪いが解けるのか、お母様が何を望まれているのかはわかりません。けれど解明する手伝いならできるかもしれない」
「……どうして」
ニカっと笑うと旦那様は訳が分からないとでもいうように眉を寄せた。
まるで迷子の子犬のような顔だ。
「君は巻き込まれた上に、望まない結婚をさせられた。しかも相手は呪われた男だ。傷つくかもしれないんだぞ。普通は逃げ出したくなるはずじゃないのか?」
「それはそうかもしれません。……でも、私は逃げたくない」
助けられるかもしれない人を見殺しにし、自分だけが良ければよいというような生き方はしたくない。
そんなことをしたら、あの男と同じになってしまう。そんなの絶対にごめんだ。
「……それに自分にしかできないことを必要としている人がいたら助けてあげる。それが亡き母との約束なんです」
――見えないモノが見えるのは、きっと何かしらの理由がある。だからその力を必要としている人がいたら助けになってやりなさい。
母が亡くなる前に言った言葉だ。
そうすれば嫌だと思っていた力でも愛せるようになるからと――。
「それだけですよ。……信じられないというのなら取引でもしますか?」
「取引?」
「はい。このひと月、私はあなたの傍にいると約束しましょう。その代わりその期間が終わったらセヴォーラ子爵への仕返しを手伝ってほしいんです」
「仕返し……。何をするつもりなんだ?」
ぱちくりとした旦那様に笑ってしまう。
「平民はやられたらやり返すのが礼儀なんです。だから一発くらい殴りたいところだけど、仮にもお貴族様に手を出すわけにもいかないでしょ? なら何が一番嫌がられるかって考えると、恥をかかされることかなって」
やつはプライドだけはやたらと高い。
だからそれをメキョメキョにへし折ってやろうではないか。
「でも平民が貴族に仕返しをするなんてほとんど不可能じゃないですか。だからあなたとの関係を使いたいの」
平民の私では子爵に近づくことすらできない。けれど侯爵夫人ならいくらでも機会はやってくる。
「なるほど、俺を利用しようということか」
「はい! あなたは私を利用して、私もあなたを利用する。共闘関係ということです。それに旦那様も騙されていたんですから、鬱憤くらいあるでしょう?」
軽くウインクして見せると、旦那様は呆然とし、笑い出した。
「ふふ、確かにな。いいだろう。その取引、乗らせてもらう」
「やったぁ! これからよろしくお願いしますね!」
「ああ、こちらこそよろしく」
手をさし出すと大きな手に握られた。
一時はどうなることかと思ったけれど、なんとか危機は脱したようだ。
それに強力な共犯者を得ることができた。
これならセヴォーラ子爵に一泡吹かせてやる日も遠くないだろう。
こうして私と旦那様の奇妙な共闘関係が始まったのだった。
ーーー
数週間後のとある日。
顔を屈辱で赤く染めたセヴォーラ子爵がペリウシア侯爵家に乗り込んでくる珍事件が起こった。
もちろん門前払いだったが、貴族社会は噂が流れるのが早い。
礼儀を欠いた子爵のやり方はすぐに問題視され、肩身の狭い思いをするようになったのだとか。
それを見て満足そうにほくそ笑んでいたアニスだったが、なぜかクレストから求婚され慌てることになる。
……のだが、それはまた別のお話である。
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