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ねむの木の眠りカフェ  作者: ちょこだいふく


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24/24

ほつれる

─ゆるやかに、ほつれ始める──


 


その日、ねむの木の葉はやわらかく風に揺れていた。

カフェの空気は、いつもより少し静かに感じられる。


 


木の精霊・ネムと、カフェを営む寧々は、少し多めにお茶を用意していた。

──予感がした。今日、この場所に集う人たちの、心の色がよく似ている気がしたから。


 


最初に扉をくぐったのは、整った身なりの女性。

落ち着いた雰囲気の中に、どこか“張り詰めたもの”を抱えているようだった。


 


次に現れたのは、SNSでボランティア活動を発信している若い女性。

カフェの空間に一歩入った瞬間、肩の力が少し抜けたように見えた。


 


最後に、小柄で控えめな雰囲気の女性がそっと入ってきた。

名札をつけたままだった。どこかで働くNPO職員だろうか。

三人とも、互いに面識はなかったが──

空いている席に自然と並び、ネムの花のお茶を手にした。


 


しばらくの沈黙。

カップのふちに唇を当てる音だけが、ふわりと流れる。


 


「……このお茶、すごく優しい味がしますね」

NPOの女性がぽつりと呟いた。


 


「ネムの花には、心を落ち着ける作用があるんですよ」

寧々がやさしく笑う。


 


その言葉が合図だったかのように、SNSの女性がそっと口を開いた。


 


「最近……自分が何のためにやってるのか、

少しわからなくなってたんです」

彼女は自分の手元を見つめながら言った。


 


「ずっと、活動を知ってもらいたくて。

“見られること”が、支援につながるって信じてた。

だから工夫して、注目されるように、伝わるように……」


 


NPOの女性が、静かにうなずいた。


 


「わかります。私も……“してあげる側”でいようと、どこかで思ってたのかもしれません。

自分を満たすより、誰かを助けることが先で……

でも、なんでだろう、最近ずっと、疲れていて」


 


三人の言葉が、少しずつ、絡まった糸のようにほどけていく。


 


「私、なんでもそつなくやれる方なんです」

と、最初に来た女性が小さく笑った。

「だから……人に甘えるとか、できなくて。

“助ける側”じゃないと、自分の価値がなくなるようで、怖かったんです」


 


ネムがそっと言った。


 


「それでも……“誰かを助けたい”と願った気持ちは、本物だったはずです。

でも、それが“義務”になってしまったら……自分の心が、置いてきぼりになるかもしれません」


 


SNSの女性が、ゆっくり頷く。


 


「……フォロワーのコメントに、

“あなたの笑顔を見ると元気になる”って書いてあったんです。

でも、その頃の私は、笑うのがつらくて……

なんでかな、笑えば笑うほど、すり減ってくみたいで」


 


寧々が小さくつぶやいた。


 


「その笑顔、きっと“守らなきゃ”って思った誰かのためだったんですね」


 


三人の肩の力が、すこしだけ緩む。


 


NPOの女性がぽつりと言った。


 


「……“まず自分を満たさないと、本当の意味で誰かを救えない”

頭ではわかってるんです。でも、心が追いつかなくて」


 


「“助ける自分”に、自分の価値を全部託してしまったら、

それ以外の自分が見えなくなるのかもしれません」

ネムの言葉が、静かに落ちる。


 


「無理に“意味のある自分”でいようとしなくても、

この場所には、ただ“いる”だけで、ちゃんと意味がありますよ」

寧々が笑った。


 


三人は、少し顔を見合わせて、笑った。

まるで、その一言で、許されたように。


 


“がんばっているから、愛される”んじゃない。

“何かしているから、大切にされる”んじゃない。

ただ、そこにいるだけで、あなたは大切な存在なんだ──


 


ねむの木の葉が、そよ風に揺れて、やさしく光った。

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