表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねむの木の眠りカフェ  作者: ちょこだいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

ズル休みしちゃいました、


扉がカラン、と軽やかに鳴る。

今日の風は、ほんのり花の香りを含んでいる。


 


「こんばんは……また来ちゃいました」


 


微笑みながら入ってきたのは、あの女性。

どこか肩の力が抜けたように見える。

ネムと寧々は、顔を見合わせてにっこりした。


 


「おかえりなさい」

「今日も、お茶をどうぞ」


 


いつものようにカップにねむの木の香りが漂い、

彼女はふぅっと息をついて座る。


 


「この前……ズル休み、しちゃったんです」


 


寧々が目を丸くする。

「それは、ずいぶん思い切りましたね」


 


「はい。

 朝起きて、“あ、今日イヤだな”って思って……そのまま布団に潜りました」


 


恥ずかしそうに笑うけど、

その表情には、どこか誇らしさがある。


 


「なんだろう……

 “サボる”って、もっと悪いことだと思ってたんですけど、

 思ったより、私の世界は壊れませんでした」


 


ネムが、ほっとしたように言う。


 


「それは、とても大きな一歩ですね」


 


「少しずつ、自分で“タブー”にしてたことをやってみたら、

 なんだか……面白くなっちゃって」


 


「面白く?」と寧々が笑うと、彼女はコクンとうなずいた。


 


「嫌な飲み会、断ってみたら楽だった。

 上司の無茶ぶりも、“できません”って言ってみたら、

 意外と他の人が引き受けてくれて。

 そしたら、“私が全部背負わなくていいんだ”って、気づけて」


 


「……それから、気づいたんです。

 私、ゲームとか好きだったなって。

 あと、子どもの頃は絵を描くのも」


 


ふわっと笑ったその顔に、ネムは静かにうなずいた。


 


「“役に立たないこと”を、自分に許すって、

 本当は、とても大切なことです。

 それは、心を生き返らせる“水”のようなものだから」


 


「そうなんですね……

 今までずっと、意味とか成果とか、“ちゃんとした自分”ばかり求めてて。

 でも最近、“楽しい”って感覚が少しずつ戻ってきたんです。

 絵、描いてみたら止まらなくて。すごく……うれしかった」


 


寧々が静かに笑う。


 


「それはもう、十分“成果”ですよ。

 自分の“好き”を取り戻すことができたんだから」


 


女性は、お茶を飲み干して、ぽつりとつぶやいた。


 


「こんなふうに、自分のことを話す時間があってよかったです。

 自分の気持ちを、自分でちゃんと聞いてあげる練習になりました」


 


ネムが、葉のこすれる音とともにそっと言う。


 


「また来てくださいね。

 あなたの“楽しい”の話、たくさん聞かせてください」


 

ーーー


 


その夜。

現実の彼女は、ベッドに寝転びながら

お気に入りのイラストアプリを開いた。


 


音楽を流しながら、線を引いて、色を重ねていく。

子どもの頃のような無邪気さが、指先からじわじわとよみがえる。


 


「これって、なんにもならないけど――

 でも、私が笑ってるなら、それでいいじゃない」


 


ねむの花の香りが、ふと、鼻先をかすめた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ