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君と駆ける朝

作者: 辻堂安古市




日曜日の朝が来た。

今日もどうやら晴れらしい。




「じゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃい。気をつけて行くのよ」


「分かってるー」



 シューズの紐を少し硬めに締め、一つ伸びをしてから走り始める。うちの陸上部は日曜日がオフになっているけど、部員みんなで話し合って、早朝ランニングをしようと決まったからだ。


「決勝レースに出てみたい」

「チーム優勝したい」

「県大会に行きたい」


 理由は様々だけど、「ベストを尽くしたい」という気持ちは一緒。俺だって部長としても、一個人選手としても、今年は優勝したいという気持ちが強かったから、色々どこがベストなコースか探してみた。

 俺らが住んでいるところは少し田舎で、近くにクロカンランニングができる林道がある。そこならアスファルトで足を痛めることもないだろうということで皆が賛成し、2ヶ月位前から走ることになった。



 ……んだけど。


 何故かここ三週間ばかり、副部長の理沙と二人きりでランニングしている。



「今日は家の都合が」

「筋肉痛ひどくて」

「寝坊しちゃって」

「は、腹が……すまん食いすぎた」



 ポコポコと入って来るメッセに、最初は「仕方ねぇなあ」で済ませていたものの、やっぱりどー考えてもコレはおかしい。そんな理由が三週間も重なるか?全員?


 


(え?もしかしたら俺1人で熱血してたんだろうか?)




 そんな考えがよぎって、全然走りに集中できない。それに……理沙はどう思ってるんだろうか?


 正直な事を言えば、最初は「理沙と二人きりなんてラッキーか?」と、ちょっと思ってたんだけど、こうなると不安の方が大きくなる。だってそうだろ?


「義理と立場上仕方なく一緒に走ってるだけよ」


 とか言われたら、ちょっと立ち直れない。

 これを三週間続けている。そろそろ色んな意味で緊張も限界に達しているけど、部長という立場上「やめようか」とも言いだせない。




 今日もそんな事をモヤモヤ考えながら走っていると、突然理沙が立ち止まった。


「ねえ、ちょっと話があるんだけど」


 あ、考えてるそばから、か?

 ちょっと待ってダメージに備えるから。

 深呼吸で息を整えるフリしてー……よし来い!ちくしょー!



「あのさ、2人でのランニングってやっぱり無いよね」


「そーだな(少し喜んでたよクソー)」


「………やっぱ続けられ無いよね?」


「かもな(覚悟はできてる!ちくしょーめ!)」


「じゃあもうやめる……?」



仕方ないよな、こればっかは。

いいよ、俺が1人で盛り上がってただけだし……でも少し泣きたい。



「私は、別に良いんだけど?」


………は?あれ?


「2人きりのランニングでも」


ん?どーいうこと?


「もう!ニブイ!」


…………え?


…………あ?


…………そーいう、事?



「え、あ、その…えーと………良いの?俺で?」


顔を下に向けたまま、コクンと頷く理沙。



わ、え、ちょっとどーしたら良いんだコレ?

今だったら俺絶対ベストタイムで走る自信が超あるんですけど?

いやでも、ちょっと今日これからどうしたらいいんだ?

どんな顔で走ったらいいんだ?


……ってテンパってたら、いきなり他のメンバーがどこからか飛び出して来た!




「おめでとー!」

「おせーよ!」

「3週間も待たすなよ!このバカ!」


「うわぁああ?なんでお前らココに?は?え?」


 げ。まさかのドッキリ?

 ぬか喜び?うそだろ今さら!



「ちげーよ!俺達、お前らの応援してたんだぞ?」

「そーそー。みんな2人の気持ち知ってたのに、なかなかくっつかないからさ」

「感謝してほしいくらいよ、ねー?」

「やーそれにしても。見事にテンパってたな?」

「『え』『あ』ばっかだったな。ぷくくく」



 お…………お前らぁぁぁぁ!

 ちくしょうずっと見てたのかぁぁぁぁ??



「ほら、トレーニングすっぞ?お二人さん!続き続き!」

「あ、それとも二人きりにしてくれってか?」

「どうするー?」


「ばっかやろー!ちゃんとトレーニングみんなですっぞ!」


「へーへー」

「やりますか。二週間分は取り戻さないとな!」

「ほら理沙行くよ!でも、改めておめでとー!」

「うん!協力ありがとー!」



協力……と言うことは、知らなかったの、俺だけかよ!








✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼




「………もしもーし?コラ!陸斗?そろそろアップに行かないと!何ぼーっとしてんの?」


「ああ理沙、悪い悪い。ちょっと昔の事思い出しててさ」


「昔の事って?」


「中学の時の早朝ランニング」


「……!もう!大事な決勝レース前なのに!」


 顔を赤らめた理沙がパッチーンと背中を叩く。いてて……でもこれで気合いが入った。


「じゃ、日本一獲って来ますか」


「行ってらっしゃい。ゴールで待ってるね」



 今は彼女兼専属トレーナーになった理沙が、俺の首にふわりとタオルをかけて走って行く。




任せろ。君がそこにいるなら絶対に一番でフィニッシュラインに飛び込んでみせる。

「世界に君と行く」のが、今の俺の目標。



だから、そこで待っててくれよ。







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