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 ルシウスはアデルの居場所を突き止めるため、密かに情報を集めていた。屋敷の使用人たちに尋ねても、アデルの行方は明かされなかった。

「一体どこへ行ったのか・・・まさか死んで・・・いや、そんなことはない・・・はずだ」

 自室でぶつぶつつぶやきながらうろうろしていると、事情を知っている専属侍女のエリアが見かねて声をかけた。

「私だったら実家を頼りますが、亡くなられたお母様の実家とは疎遠になっていたのですか?」

 その一言にルシウスははっとしてすぐに調査を開始し、ついにアデルが祖父母の元へ向かったことを突き止めた。

「彼女は……ラモンテ公爵の元にいるのか。」

 彼は悩んだ。今更彼女の元を訪れて、どの顔で会えばいいのか。しかし、知るべきことがある――彼は覚悟を決め、ラモンテ公爵家へ向かった。


 数日後、アデルは庭園でルカとともに植物の手入れをしていた。

「アデル様、手が汚れてしまいますよ。」

「大丈夫です、ルカ様。こうして触れると、植物の生命力を感じられるの。」

 そんな穏やかな時間を過ごしていた時、屋敷の門前に騎士姿の男性が現れた。

「……ルシウス?」

 アデルの瞳が驚きに揺れる。

  門番が慌てて駆け寄り、アデルに報告する。

「アデル様、この方がどうしてもお会いしたいと……。」

 アデルは表情を険しくした。彼に対する怒りと悲しみが胸を満たす。

「お引き取り願って。」

 冷たく言い放つアデルに、ルシウスは眉をひそめた。

「アデル、話をさせてくれ。どうしても、確かめたいことがある。」

「今さら何を確かめるというの?」

 アデルは鋭い視線を向ける。

「あなたは義母やアリシアの言葉を信じ、私を見捨てた。それなのに今さら何を――」

「それを確かめたいんだ。」

 ルシウスは必死だった。自分が今まで信じていたものが、本当に正しかったのかどうか。

「君を誤解していたかもしれない。アデル……君の言葉を聞かせてくれ。」

 アデルはしばらくルシウスを見つめていたが、ため息をつくと扉の内側へと身を翻した。

「お祖父様に聞いてみるわ。通すかどうかは、お祖父様の判断に任せる。」

 彼女の声には、かつてのような温かみはなかった。

 それでもルシウスは待つしかなかった。


 ラモンテ公爵は、ルシウスが訪ねてきたと聞き、しばし沈黙した。

「……アデル、お前はどうしたい?」

 エドモンの問いかけに、アデルはきっぱりと答えた。

「正直、会いたくありません。彼の言葉を信じることもできないの。」

 祖父は静かに頷き、しかし穏やかに言った。

「だが、一度話をすることで、より確かな決意ができることもある。」

 アデルはしばらく迷ったが、ついに小さく頷いた。

「……ならば、お祖父様の立ち会いのもとで。」

 そして、応接室に招かれたルシウスは、アデルと再び向き合った。

 ルシウスは緊張した面持ちでアデルを見つめた。

「アデル…君に謝りたい。」

 アデルは冷静なまなざしで彼を見つめ返す。

「何を謝るの?」

「僕は、君のことを信じられなかった。義母やアリシアの言葉に惑わされ、君を疑い、見捨ててしまった。」

 アデルはその言葉に微動だにしなかった。しかし、深い溜息をついてから口を開く。

「なぜ、今さらそんなことを言うの?」

「君がいなくなってから、アリシアの言葉や屋敷内がおかしいことに気がついたんだ。君が屋敷でどう過ごしていたか……。僕は、何も知らなかった。」

 ルシウスは悔しげに拳を握る。

「ちゃんと君から話を聞くべきだった…。幼い頃から君を知っていたのに…君を愛していたのに……。」

 アデルは目を伏せた。

「もし本当に私を愛していたのなら、私の言葉を信じてくれたはずよ。」

 ルシウスは言葉に詰まり、何も言えなくなった。

 アデルは静かに立ち上がった。

「ルシウス、あなたの言葉が本当かどうかは、もう私には関係のないこと。」

 彼女の声には、かつての未練はなかった。

「私は今、祖父母のもとで穏やかに暮らしている。過去の痛みを抱えながらも、新しい人生を歩んでいるの。」

 ルシウスの瞳に、深い後悔が宿る。

「…君は、もう僕を許せないか?」

「許すか許さないかではないわ。」

 アデルは優雅に微笑んだ。

「私はもう、過去には戻らない。それだけよ。」

 その言葉に、ルシウスはただ黙って立ち尽くした。

 ルシウスはアデルの言葉に何も言い返せなかった。ただ、彼女の毅然とした態度と静かな微笑みが、かつての彼女の姿とはまるで違うことに気付いていた。

 アデルはもう、彼に心を寄せることはない。

 絶望感に襲われたルシウスは、無言のまま立ちあがった。

「……馬車を。」

 ラモンテ公爵家を後にしながら、彼は悔しさに拳を握りしめた。

 同時に、彼の心の奥底に広がるのは、アデルを信じなかったことへの激しい自己嫌悪だった。


 一方、モンテヴィダ家では、不穏な空気が流れ始めていた。

「どういうことだ!? なぜ急に取引が中断される!?」

 アデルの父、モンテヴィダ侯爵は、執務室で部下を怒鳴りつけていた。

「申し訳ありません! ですが、複数の商会が、突然取引条件を見直すと言い出し……」

「バカな! そんなことがあるはずが……!」

 焦燥感を抱えながらも、彼は気付いていなかった。すでに彼の周囲では、じわじわとモンテヴィダ家の信用が失われ始めていたのだ。

 それはアデルの祖父、エドモン公爵が密かに動いていた結果だった。

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