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 モンテヴィダ家の屋敷では、かつての華やかさが失われつつあった。食卓の雰囲気は重く、領地の収益の低下による財政難が、家の中の空気をさらに冷たくしていた。

「ルシウス、最近お前はどこか上の空だな。」

 モンテヴィダ家当主である侯爵が声をかけると、ルシウスはハッとした。

「いえ……少し考え事をしていただけです。」

「考え事? そんな余裕があるのなら、早くアリシアとの婚約を正式に決めるべきだろう。」

 ルシウスは苦々しい思いを抱えながら、何も言わなかった。

 アデルが去ってから、彼は屋敷の変化を感じていた。使用人たちはどこか怯えたような様子を見せ、義母レティシアとアリシアの態度にも以前より焦りが見え隠れする。

「本当に…アデルが原因だったのか?」

 アリシアが語っていたように、アデルは本当に我儘で、家を乱す存在だったのだろうか? しかし、彼が知っているアデルは……。

「優しく、聡明で、慎ましい女性だったはずだ。」

 そう考えれば考えるほど、違和感が募るばかりだった。

「俺は…何か大きな過ちを犯したのではないか?」

 胸の奥に後悔の念が生まれ始めていた。


 ルシウスは日々募る違和感を無視できなくなっていた。アデルが去ってから屋敷の雰囲気は明らかに悪化し、領地の管理も混乱していた。

 彼は書斎で過去の記録を見直していた。アデルがいた時期の帳簿は驚くほど整っており、今の混乱とは対照的だった。

「おかしい…。アデルがいなくなってから収支のバランスが崩れている……。」

 その時、屋敷の廊下で使用人たちの小声の会話が耳に入った。

「……アデル様は、ご無事でしょうか……本当に優しいお方だったのに……。」

「私たちが何もできなかったのが悔やまれます…。」

 ルシウスの胸がざわついた。彼は知らず知らずのうちに、義母とアリシアの言葉だけを信じていたのではないか――。

「一度…確かめなければ。」

 彼は決意した。真実を知るため、アデルを探すことを。


 一方、社交界では、モンテヴィダ家噂がさらに広がっていた。

「聞きました? モンテヴィダ家のご令嬢、まるで使用人のように扱われていたとか。」

「まさか。実の娘さんでしょう?」

「でもほら、前妻の子どもですからね、扱いが……ね」

「まあ……。一体、どのような?」

「家族の食卓にはつかせてもらえず、与えられた食事は粗末なもの。着るものも最低限で、まるで使用人のように扱われていたそうよ。」

「まさか…そんなこと……。」

「それだけじゃないの。領地の仕事まで押しつけられていたらしいわ。モンテヴィダ家はアデル様の労力で成り立っていたようなのよ。」

「それが本当なら、大変なことですわね。」

「それに、ルシウス様の婚約破棄も……。」

「新しく婚約されたアリシア様って、確かレティシア様の連れ子でしょう?」

「ええ、義母と義妹がうまく立ち回ってアデル様を悪者に仕立てたという話もあるわ。」

「まさか、そんなこと…」

「けれど、ラモンテ公爵が言うには証拠もあるらしいわ。」

 こうした噂は、貴族たちの間でおもしろおかしくささやかれていく。

 そして、ある日、祖父であるエドモンに報告が入る。

「公爵様、ご報告があります。」

 執事がエドモンの元へやってきた。

「モンテヴィダ家の財務状況がさらに悪化し、一部の貴族たちが関係を見直し始めたようです。」

「そうか……。まだ本格的な崩壊には至らぬが、時間の問題だな。」

 エドモンは静かに頷いた。アデルを傷つけた者たちが、じわじわと追い詰められていくのを見届ける決意を固めた。


 アデルは、祖父エドモンと共に領地の運営について学びながら、少しずつ自分の未来を考えるようになっていた。

「お祖父様、私はこの土地で生きていきたいです。」

 ある日、アデルは真剣な眼差しでそう告げた。

「お前がそう望むのなら、私は全力で支援しよう。」

「ありがとうございます。でも、ただ守られるだけではなく、私自身もこの領地のために何かをしたいのです。」

「ふむ……。」

「たとえば、農民たちの暮らしをよりよくするための施策を考えたり、交易の発展を促したり……。」

 その言葉に、エドモンは満足げに微笑んだ。

「アデル、お前はもう立派な領主の一員だな。」

 その言葉に、アデルは自信を持つようになった。

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