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ルシウスは屋敷での違和感に気づき始めていた。
「アデルが去ってから、領地の運営も家の雰囲気も明らかに悪くなっている……。」
そして義母やアリシアの言葉に疑問を抱くことが増えてきたのだ。アデルが本当にわがままで身勝手な娘だったのか? それとも、自分は何か誤解をしていたのか……。
彼は次第に過去の出来事を振り返り、違和感の正体を探ろうとし始めていた。
ラモンテ家では、エドモンと妻のマルグリットが社交界の友人たちにそれとなくモンテヴィダ家の話を広め始めていた。
「最近、孫娘のアデルが我が家に戻ってきたのだが……聞くに堪えない話だったよ。」
「まあ、どういうことなの?」
「モンテヴィダ家での扱いがひどかった。使用人のように働かされ、領地の管理も一人でさせられていたらしい。それに、衣装も新調してもらえず、粗末な食事、さらに幼い頃からの婚約者にさえ邪険に扱われ、一方的に婚約を破棄して義妹に乗り換えたらしい……」
「そんな……まさか。」
「信じたくないが、証拠も多い。いずれ真実が明るみに出るだろう。」
彼の言葉に、周囲の貴族夫人たちは興味を示した。噂は静かに、しかし確実に社交界に広がることだろう。
こうして、少しずつモンテヴィダ家の仕打ちは上流社会の間で囁かれるようになっていった。
アデルは祖父母の屋敷での生活に慣れ、新たな人生を歩み始めていた。
「アデル様、今日も視察に行かれますか?」
ルカが笑顔で尋ねると、アデルは微笑みながら頷いた。
「ええ。領地の皆さんのことをもっと知りたいの。」
「素晴らしい。では、参りましょう。」
彼の手を取り、新たな世界へと踏み出すアデル。彼女の心は、かつての悲しみを乗り越え、新たな希望に満ちていた。
そして、モンテヴィダ家の崩壊が本格的に世間に知れ渡る日は、すぐそこまで迫っていた。