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アデルは祖父母の屋敷で穏やかな日々を過ごしながら、少しずつ心の傷を癒していった。モンテヴィダ家では使用人のように扱われていた彼女だったが、ここでは誰もが彼女を敬い、家族として迎え入れてくれた。
「アデル、お前も少しずつ領地のことを学んでみないか?」
祖父エドモンの言葉に、アデルは驚いた。
「私が……領地のことを?」
「お前はすでに十分な知識を持っている。モンテヴィダ家であれほど管理をこなしていたのだからな。」
「ですが、私は……。」
「アデル、決してお前は無力ではない。お前には確かな才があるのだ。今こそ、それを生かす時ではないか?」
祖父の言葉に、アデルは目を伏せた。しかし、心の奥底で彼の言葉に勇気をもらっている自分がいた。
「……わかりました。私にできることがあれば、ぜひ学ばせてください。」
こうしてアデルは、祖父と共に領地の運営について学び始めた。経理だけでなく、農業や商業、税制に至るまで多くの知識を身につけ、彼女の成長は目覚ましかった。
領地の巡視をしているうちに、アデルはルカと過ごす時間が増えていった。
「ここでは、農民たちがこの土地を守るために日々働いているのです。」
ルカは農地を指さしながら、アデルに説明した。
「皆、とても生き生きと働いていますね。」
「ええ。彼らはラモンテ家の庇護のもと、自由に働ける環境を得ています。モンテヴィダ家とは随分違うでしょう?」
その言葉に、アデルは苦笑いを浮かべた。
「ええ……。あそこでは、誰もが義母の顔色を伺っていました。」
「あなたも、ずっと苦しんでいたのでしょう?」
ルカが静かに問いかけると、アデルはふっと目を伏せた。
「……そうですね。でも、もう過去のことです。今は、新しい人生を歩みたいと思っています。」
「それなら、ここで思う存分生きればいい。」
ルカの真剣な眼差しに、アデルの心は不思議と軽くなった。
「ありがとうございます、ルカ様。」
彼の存在が、アデルの心の支えとなり始めていた。
一方、モンテヴィダ家の混乱は次第に深刻化していた。アデルがいなくなってから、屋敷の経営は乱れ、財政状況は悪化の一途をたどっていた。
「どうしてこんなことに……。」
フィリップは苦悩の表情を浮かべた。領地の収益が激減し、借金が膨らんでいたのだ。
「あなた、何とかしてくださいね!」
レティシアは夫に詰め寄ったが、フィリップは何も言わない。
「アデルさえいれば……。」
アリシアが呟くと、レティシアは顔を歪めた。
「あの子は勝手に出て行ったの。いいこと? 何があってもあの子が戻ってくる場所はもうないのよ!」
しかし、このままではモンテヴィダ家の崩壊は避けられない。彼らは自らの過ちに気づかぬまま、じわじわと追い詰められていった。