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旅路は決して楽なものではなかった。道中、時折人々の視線を感じながらも、彼女は前へ進んだ。
「お母様……今、私を見守ってくださっていますか?」
馬車を乗り継ぎ、ようやく祖父母の領地へとたどり着いた。
「どなたですかな?」
「私……アデル・モンテヴィダです……。母エレナの娘です……。」
老いた執事が目を見開き、驚いた様子で屋敷の中へと急いでいった。
「すぐに、ご夫妻をお呼びいたします。」
やがて、扉の奥から年老いた貴族夫妻が姿を現した。
「アデル……本当に、アデルなのか?」
その言葉に、アデルの目から大粒の涙が零れ落ちた——。
「お祖父様……お祖母様……!」
アデルは泣きながら二人の前に跪いた。祖母は震える手で彼女を抱きしめ、祖父は静かに目を閉じながら娘を思い出しているようだった。
「よく来たね、アデル。その格好は……。お前はずっと辛い思いをしていたのか?」
その言葉に、アデルの涙は止まらなかった。優しい手が背を撫でる。まるで、失われた母の温もりを取り戻したかのようだった。
「もう大丈夫だ。お前は一人ではない。ここでゆっくりと休みなさい。」
そうして、アデルの新たな人生が始まった——。
アデルは祖父母の温かなもてなしに、長年の苦しみが溶けていくような気持ちになった。美しい庭園の花々、重厚な家具が並ぶ広間、そして何よりも、彼女を心から歓迎してくれる人々。すべてが、冷たい屋敷とはまるで違っていた。
「アデル、お前の部屋を用意したよ。」
祖父、エドモン・ラモンテが彼女の肩を優しく叩いた。
「ありがとう、お祖父様……。」
扉を開けると、そこには暖炉があり、窓からは広大な庭が一望できる。淡いクリーム色の壁には母エレナが幼いころに描かれた絵が飾られていた。
「この部屋……お母様が使っていたのですね?」
「そうだよ。お前の母はここで育ったのだ。」
アデルはそっとカーテンを撫でた。まるで母が傍にいるかのような気持ちになり、胸が熱くなる。
「どうか、ここでゆっくりおやすみなさい。もう、あなたを苦しめる者は誰もいないわ。」
祖母、マルグリットの優しい言葉が、アデルの心に染み渡った。
翌日、アデルは祖父母にこれまでの出来事を話した。レティシアとアリシアからの虐待、父の無関心、そして婚約破棄に至るまでの一部始終を涙ながらに語ると、祖父母は激怒した。
「なんということだ……! 我が娘の忘れ形見を、そのような扱いをしていたとは!」
エドモンの拳が机を叩き、震えが広がった。マルグリットも目に涙を浮かべながらアデルの手を握った。
「許せません……。あなたはどれほど辛かったでしょうね、アデル。」
「お祖母様……。」
「もう大丈夫だ。私たちが、必ずお前を守る。」
アデルは、長い間押し殺していた感情があふれ、祖母の胸に顔をうずめた。