16
ある日の午後、領地の庭園でアデルはルカと共に散歩をしていた。
「最近、あなたがよく笑うようになったのが嬉しいです。」
ルカが微笑みながら言うと、アデルは少し驚きながらも頬を染めた。
「そうでしょうか……?」
「ええ。初めてお会いした頃は、どこか怯えたような雰囲気でした。でも今のあなたは、とても生き生きしています。」
アデルは静かに息を吐いた。
「ルカ様のおかげです。あなたがいてくれたから、私は前を向くことができました。」
「私ではなく、あなた自身の力ですよ。」
ルカの優しい声が心に染みる。アデルは彼の瞳をじっと見つめた。
「ルカ様……私は……」
その頃、正式な手続きを経て、アデルはラモンテ家の正式な養子となることが決定していた。祖父母の強い意志のもと、貴族社会にもその事実が伝えられ、もはや誰も彼女をモンテヴィダ侯爵家の娘として扱うことはなかった。
「これで、お前は正式に我が家の娘だよ。」
祖父が優しく微笑みながらアデルの頭を撫でる。
「ありがとうございます、お祖父様……お祖母様。」
アデルは心からの感謝を込めて深く頭を下げた。これからは、過去のしがらみではなく、新しい家族として生きていくことができる。
一方、モンテヴィダ侯爵家は、これまでの悪行がついに明るみに出て、王宮から正式に処罰を受けることになっていた。貴族たちは既にモンテヴィダ侯爵家との関係を断ち、彼らは完全に孤立していた。
「まさか、こんなことになるなんて……!」
義母のレティシアは青ざめ、父はただ黙り込んでいた。彼らが積み上げてきた地位と財産は、一瞬にして崩れ去ろうとしていた。
さらにヴァルデス侯爵家からも通告が届いた。ルシウスは正式に廃嫡され、アリシアとは婚約解消の上、他家に婿入りすることが決定したのだ。
「こんなの嘘よ!私はヴァルデス侯爵夫人になるはずだったのに!」
アリシアは絶叫したが、誰も彼女の言葉に耳を貸さなかった。
「ルシウス、お前はこれからどうするつもりだ?」
ヴァルデス侯爵が冷淡に尋ねると、ルシウスは拳を握りしめながらうつむいた。
「……全て、私の誤った選択のせいです。」
彼はアデルを信じず、アリシアやレティシアの言葉に踊らされた結果、全てを失うこととなったのだ。
こうして、モンテヴィダ侯爵家は没落し、ヴァルデス侯爵家も大きな傷を負うこととなった。
その知らせを受けたアデルは、しばらくの間、何も言わなかった。ただ、ルカがそっと彼女の肩に手を置いた。
「もう、あなたは自由です。これからは、あなたの望む人生を歩んでください。」
アデルは静かに微笑んだ。
「ええ、そうね……。」
彼女はもう、過去に囚われることはなかった。新たな未来へ向かって、確かな一歩を踏み出す時が来ていたのだった。




