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アデルがこの場を後にした後、祖父母であるラモンテ公爵夫妻は厳しい表情を浮かべながら、その場に残るアデルの父、モンテヴィダ侯爵と義母レティシアに向き直った。
「さて、モンテヴィダ侯爵。」
公爵が静かに口を開くと、その声には滲む怒りと冷ややかな威厳が含まれていた。
「娘亡き後、孫をないがしろにしたこと、貴殿はどのように弁明するつもりかな?」
モンテヴィダ侯爵は居心地が悪そうに目を伏せたが、レティシアは相変わらず取り繕うような笑みを浮かべた。
「まあ、公爵様。何をおっしゃいますの?アデルは私たちの大切な娘でしたわ。」
「ふん。よく言うわ。」
公爵夫人が冷たく一瞥し、毅然とした口調で続けた。
「屋敷の使用人の証言を集めているのですよ。食事を与えられず、家政の仕事を押し付けられ、虐げられた日々……。おまけに、貴族の娘としての品位すら守られなかったようね。」
「そ、それは、誤解ですわ……」
レティシアの笑顔がわずかに引きつる。モンテヴィダ侯爵もまた、顔をしかめた。
「もうすぐ、アデルを正式に我がラモンテ家の養子として迎える手続きが完了する。」
公爵が淡々と宣言すると、モンテヴィダ侯爵は驚愕の表情を浮かべた。
「な、何だと……?」
「当然のことです。」
公爵夫人が優雅に扇を開きながら、冷ややかに微笑んだ。
「このままモンテヴィダ家の娘としておく理由がありませんもの。」
「待て……!私は許可していない。アデルは私の——」
「あなたの娘とでも?あのように扱っておいてよく言うわ。」
公爵夫人が低く笑った。
「貴殿が父親として何かしたことがあるのかね?」
馬鹿にしたように公爵が睨みつける。
「私たちが集めた証拠を提出したら、貴殿の許可は必要ないそうだ。これまでアデルを苦しめたこと、それなりの手を打たせてもらう。」
公爵の厳しい一言に、レティシアは青ざめ、モンテヴィダ侯爵もまた言葉を失った。
「せいぜい、これからの貴族社会での立ち位置を考えることね。」
公爵夫人が冷ややかに言い放ち、二人に背を向けた。
パーティーの賑わいの中で、モンテヴィダ侯爵夫妻の立場は、確実に揺らぎ始めていた。
パーティーは依然として華やかに続いていたが、先ほどの一幕が貴族たちの間で静かに囁かれ、会場の空気には微かな緊張が漂っていた。
アデルはルカにエスコートされながら、王宮の広々としたバルコニーへと足を運んだ。夜風が心地よく頬を撫でる。煌めく星々が夜空に広がり、遠くで楽団の演奏が響いていた。
「大丈夫ですか?」
ルカがそっとアデルを気遣う。彼の落ち着いた声に、アデルはわずかに微笑みながら首を縦に振った。
「ありがとう、ルカ様。私、助けられてばかりね。」
「気にすることはありません。あなたが毅然としていたのを見て、安心しました。」
アデルは手すりに寄りかかりながら、そっと息を吐いた。
「彼らに会うことは覚悟していたけれど……やはり胸の奥がざわつくわ。」
「当然です。」ルカはアデルの横に立ち、夜景を眺めながら静かに続けた。
「でも、あなたはもう彼らの支配下にはいません。あなたには守るべきものがあり、支えてくれる人もいます。」
アデルはルカの言葉にじんわりと胸が温かくなるのを感じた。
「ルカ様……ありがとう。」
その時、バルコニーの入り口に人影が現れた。
「アデル……」
低く抑えられた声が響き、アデルはゆっくりと振り向いた。そこにはルシウスが立っていた。
「まだ何か?」アデルは冷静に問う。
ルシウスは眉をひそめ、一歩踏み出した。