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 アデルは朝の陽光を浴びながら、ラモンテ領の広大な庭をゆっくりと歩いていた。美しい花々が咲き誇るこの場所は、かつて過ごしたモンテヴィダ家とは比べものにならないほど穏やかで心安らぐ。

「お嬢様、おはようございます。」

 ふと声をかけられ、アデルが振り返ると、そこにはルカ・フィオレンティーナが立っていた。

「おはよう、ルカ。」

 アデルは微笑みながら応じた。ルカは公爵家に忠実な人物でありながら、どこか気さくな雰囲気を持っていた。彼はアデルがまだ周囲に遠慮していたころから、親しげに接してくれていた。

「今日は散歩ですか?」

「ええ。まだこのお庭全てまわれていなくて……少しずつ散歩しようと思って。」

「それなら、庭園の奥の方に素敵な場所がありますよ。案内しましょうか?」

 ルカの申し出に、アデルは少し迷ったが、彼の優しい笑顔に安心して頷いた。

「ありがとう、お願いするわ。」

 二人はゆっくりと庭を進んでいった。途中、ルカは領地管理の仕事のこと、公爵夫妻に仕えることへの誇り、そしてこの土地の美しさについて語った。彼の話し方には誠実さがあり、アデルは自然と心を開いていくのを感じた。

「アデル様も、最初は戸惑われたかもしれませんが……ラモンテ公爵夫妻は本当に温かい方々です。ここでなら、安心して過ごせるはずです。」

 その言葉に、アデルは少し目を伏せた。

「……そうね。お祖父様とお祖母様は、本当に優しい方。私を大切に思ってくれているのが伝わるわ。」

「それなら良かった。」

 ルカは安堵したように微笑んだ。

「でも……まだ心の整理がつかないこともあるの。」

 アデルの声は静かだったが、その奥には深い傷が残っていることが感じられた。彼女はこれまでの仕打ちを思い出し、少し苦しげに息を吐いた。

「時間がかかっても大丈夫ですよ。ここでは、誰も急かしたりしませんから。」

 ルカの言葉に、アデルの心が少しだけ軽くなった気がした。彼の優しさが、じんわりと胸に染みる。

「ありがとう、ルカ様。」

 彼女は小さく微笑んだ。その笑顔を見て、ルカもまた微笑みを返した。

 ――こうして、アデルは新たな日々の中で、少しずつ心を癒し始めるのだった。


 それから数日が経ち、アデルは穏やかな日々を過ごしていた。祖父母のもとで過ごす時間は心を満たし、少しずつだが笑顔を取り戻しつつあった。

 そんなある日の午後、祖父母のもとに王宮からの使者が訪れた。

「お祖父様、お祖母様。何かあったの?」

 使者が帰った後、アデルは祖父母の表情を見て問いかけた。祖父のエルネスト公爵が微笑みながら答える。

「王宮からの招待状だよ。数週間後に開かれる宮廷の舞踏会に、我がラモンテ公爵家も招待された。」

「舞踏会……?」

 アデルは驚いたように祖母の顔を見た。祖母のマルグリット公爵夫人は優しく頷く。

「そうよ、アデル。あなたにも招待状がきているわ。社交界に復帰するいい機会だと思うの。」

「わ、私が……?」

 急な誘いに戸惑うアデル。彼女はこれまで、社交界から遠ざかっていた。王宮には、かつての婚約者ルシウスや、義母レティシア、義妹アリシアもいるはずだ。

 だが、祖父母の目には深い愛情と期待が込められていた。

「無理にとは言わない。でも、お前がどれほど立派な令嬢か、今こそ世間に示してもいいのではないか?」

 祖父の言葉に、アデルの胸に静かな決意が生まれる。アデルは小さくうなずいた。

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