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突撃?ヒーローご飯

 授業の終了と同時にクラスの皆は教室を飛び出して行った。

 部活、デート、バイト……皆、放課後を満喫している筈。

 そんな中、俺は教室で一人課題をしています。


「まだ残っている奴いるのか……なんだ、大酉か。お前が残っているなんて、珍しいな」

 俺に声を掛けてきたのは、見回り中の上形先生。授業が終わっても教師の仕事は終わらないんだよな。

 ハザーズを倒しても、事後仕事に追われるヒーローと似ている。


「今、家にハウスキーパーが来ているんです。終わるまで帰れないんですよ」

 だから、時間を有効活用する為に課題をしているのだ。本当は買い出しに行きたいんだよな。


「自分の家なのにか?しかし、ハウスキーパーを頼めるなんて、流石はヒーローだな」

 先生がからかう様な感じで、俺の背中を叩いて来た。

 正確には自分ヒーローの家だから終わるまで帰れないのだ。


「給料から天引きですよ……ハウスキーパーは強制なんです。名目はヒーローのサポートになってますけど、一番の目的は監視ですから」

 監視が目的だから、ハウスキーパーが来る日はランダム。だから結婚と同時にヒーローを辞める人も結構いる。


「監視って……犯罪者扱いじゃねえか」

 先生、惜しい。犯罪抑止の為なのだ。


「あたらずととも遠からずです。ヒーローが変な奴と付き合ったりしていないか、浪費していないかをチェックされているんですよ。ハニトラや抱え込み……少し前の時代で結構問題が起きたんです」

 自称ファンだって異性と付き合ったら、犯罪組織の関係者だった。ヒーローだと持て囃されて、多額の借金を抱える。

 結果、闇落ちしてハザーズになったヒーローもいたらしい。


「なんとも窮屈な生活だな。プライベートも糞もないじゃないか」

 先生が溜息を漏らす。

 だから、俺は一人になった。

 クリプテッドファイブは、その名の通り五人組の戦隊。

 でもドラゴレッドちゃんと義姉ぺガスホワイトさんが結婚。

 ケルベブラックさんとリバイアブルーさんがデキ婚。四人共、引退を決意し、クリプテッドファイブは俺一人になったのだ。


「縛りのないヒーローなんて、普通の人からしたらある意味恐怖ですよね。だから、ヒーローは安全だっていう証明が必要なんですよ」

 法はヒーローを繋ぐ首輪。でも、その法によって俺達ヒーローも守られているんだからウィンウィンだ。

 法が整備される前は、プライベート中に強制出動させられたり、騙されて犯罪に加担させられたりしたケースもあったらしい。


「だから、ハウスキーパーがいる間は、帰れないのか。やばい物が出てきても、脅されたりしない為の配慮って訳だな」

 ヒーローの自室で二人っきり。かなりの信頼がないと恐怖だと思う。


「そう言う事です。清掃完了の報告が来たので帰りますね」

 とりあえずスーパーに行って食糧と洗剤を買わなきゃいけないのです。


 ◇

 買い物袋を抱えて、エレベーターに乗り込む。無言のまま部屋のドアを開ける。

 当たり前だけど、お帰りと言ってくれる家族はいない。

 そして現われるのは、モデルルーム並みに片付けられた部屋。ハウスキーパーの人達は、ゴミと一緒に生活感も片付けてしまう。

 寂しい、そんな感情が心の底から湧いて来た。

 一人暮らしにも大分慣れたと思う。でも、どうしようもなく寂しくなる時がある。

 綺麗に片付けられた部屋が、寂しさを倍増させる。

(……父さんや母さんに会いたいな)

 俺は東京生まれじゃない。小四の時に、幻獣コカトリスの魂に選ばれてヒーローになった。

 ハザーズは子供相手だからって手を抜かない。必死に戦っていたら、兄ちゃんと上京を命じられたのだ。

 そして中二の時に、敵対組織のボス・ニーズヘッグキングを倒した。これで平和な生活に戻れると思ったら、階級が上がり過ぎていて援護が義務付けられていたのだ。

 結果、こうして寂しい一人暮らしをしています。


「さて、何しよ。折角だから飯でも食べに行くか」

 寂しさを振り切る様にテンション高めに喋る。当たり前だけど、誰も返事をしてくれない。

 でも、うじうじしているよりましだ。

 問題は何を食べるかだ。

 正直、金はある。でも、高校生が一人で行ける店となると限られてくる。

 ラーメン、カツ丼……今日、鷹空さんから栄養を注意されたばっかりだ。

 ファミレス……ぼっち感を強く感じてしまい、更に落ち込むと思う。

 今から飯に誘える人なんていないし……本部に行けば知り合いはいるけど、規約上アウトだ。

(会話と飯……あそこに行くか)

 少しは寂しさが紛れる筈。

 マンションを出て自転車に跨り、いざ出発。秋風の寒さが身に染みるけど、コカトイエローは負けないのだ。


「いらっしゃいませ……吾郎!?」

 やって来たのは月山がバイトしているコンビニ。そして月山が驚いているのには、理由がある。

 このコンビニは、俺のマンションから結構離れているのだ。その間道路沿いだけで、二十軒はコンビニがあると思う。


「バイト、お疲れ。さて、美味そうな弁当はあるかな?」

 正直言えばもっと話をしたいが、月山はバイト中。それに他のお客さんも良い気がしないと思う。

(唐揚げ弁当……ニンニクチャーハン……牛カルビ弁当美味そうだな)

 きちんと栄養も考えて、サラダと味噌汁もつける。


「サラダだけじゃ栄養が偏るぞ。野菜を使っている惣菜も買って行け」

 品出しにきた月山は俺の籠に里芋の煮物とひじきを入れてくれた……煮物なんて何か月ぶりに食べるんだろ。


「アドバイスありがとう。ついでに朝飯も買って行くよ」

 野菜のサンドイッチ、コーンサラダ、牛乳も籠に入れていく。


「頼むわ。売り上げに貢献してくれ」

 月山は、そう言うとカラッとした顔で笑った。見ているだけで、心が明るくなる、そんな笑顔だ。

 ヒーローは公平であれと言われる。でも、俺は月山や健也がハザーズに襲われていたら、優先的に助けに行くと思う。


「それなら追加購入させてもらうよ」

 俺が多く買ったからといって月山の時給が上がる訳じゃない。でも、文字通り命懸けで稼いだ金だ。気分良く使いたい。

 追加でカップの味噌汁、冷凍野菜、冷凍パスタ、カップスープ、焼き魚を購入。


「毎度ありがとうございます……これは、俺の奢りだ。帰りに食っていけ」

 そう言うと月山は肉まんを奢ってくれたのだ。帰り路、あれだけ寒かった筈の秋風が嘘の様に平気だった。


 ◇

 今朝の朝食は、昨日コンビニで買ったサンドイッチとカップスープ。

 朝飯を終えて向かうのは、ヒーロー専門のトレーニング施設。ちなみにここの一階では、ヒーローグッズを売っている。

 観光スポットにもなっているから、高校生おれが来ても悪目立ちしない。


「199.……200。これでスクワット終了!」

 俺は時間があれば、ここに来て訓練をしている。ヒーローはバトルスーツを着ていれば規格外な力をだせる。

 逆に言えばバトルスーツを着てなきゃ、ただの人。

 何より体力、持久力を上げなきゃ思わぬ所でへまをしてしまう。だから、日頃のトレーニングは必要不可欠なのだ。

 基礎訓練が終わったら、向かうのは道場。ここで格闘技の先生にしごかれるのだ。

 ここにいるのは俺の正体を知る人だけ。しかもプロや国体出場経験者……バトルスーツを着ていない素の状態だと手も足もでない猛者ばかり。


「大酉、脇が甘いぞ」

 そう言って俺の襟を掴んだのは、空子からこ剛巡査長。重量級で元国体選手。そして今は現役機動隊員。

 当たり前だけど、半端じゃなく強い。腕なんて丸太みたいな太さだ。

 案の定、抵抗する間もなく、思いっきり投げ飛ばされた。受け身はとれたけど、半端じゃなく痛いです。


「も、もう一本お願いします」

 空子さんは、俺の柔道の師匠だ。出来たら、このまま時間まで続行して欲しい。


「良い心掛けだ。でも、先生方がお待ちなんじゃないか?」

 空子さんの指さす先にいるのは、空手家にプロボクサー、キックボクシングの選手。

 優しい総司令は国に掛け合って、プロの格闘家をコーチに向かえていれてくれたのだ。


「今日は他のヒーローに譲ろうかなって」

 正直言おう。打撃系の先生との訓練は、かなり痛いのです。キックボクシングの先生のスパークリングなんてがちで涙が出てしまう。


「残念ながら、俺も時間だ……その前にこの間気になる話を耳にしたんだ。パワーナックルが庇った動物保護団体あるだろ?あそこ、黒い噂がたっているぞ」

 団体名はナーチャーアニマル。前は熱心な保護活動をしていたらしい。

 しかし、マスコミに取り上げられてから、やばい人も参加する様になったそうだ。


「分かりました。貴重な情報をありがとうございます……今日はありがとうございました!」

 空子さんに頭を下げて出口に向かう。

(一回、きちんと調べてもらう必要があるな)

 関係機関に連絡しておこうと思っていたら、入口で待ち構え……待っていて下さったムエタイのコーチに確保されました

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大酉、アウトぉ
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