表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/47

チャンス到来?

  眠い目をこすりながら起きる。

 まずはスマホを確認……本部からの連絡なし。その前に通知が一件もないんだけどね。

(たまには朝飯作るか)

  俺は中二から一人暮らしをしている。

  俺だけじゃなく、高ランクのヒーローは一人暮らしをしている人が多い。

  実家住みだと、家族やご近所さんが狙われる危険性があるのだ。

 俺が住んでいるのは都内にある防犯設備が整っているマンション。一人で住むには十分な広さがあり、快適に暮らせている。

 ……問題は、俺の家事スキルがあまり高くないって事。朝は生卵や納豆みたいに手軽に食べられる物。もしくはトースト。

 昼は学食か購買のパン。休みの日は袋ラーメンか冷食。

 夜は本部にいる時は、カップ麺。それ以外はスーパーのお弁当か惣菜や刺身。たまに外食って感じだ。

 冷凍庫から冷ご飯を出してレンジで温める。そこにツナ缶を乗せて醤油をかれば朝飯の完成。

 身支度を整えて、学校に向かう。

(今日は仕事ヒーローが休み。明日は土曜日だし、何しようかな)

 明日の午前中は訓練に行く予定。つまり午後はオフなのだ。

 バスと電車を乗り継ぎ、学校に到着。

 誰からも注目されないモブ。その何でもないポジションが気楽で嬉しい。


「吾郎、おーす」

 そんな中、声を掛けて来てくれたのが月山。こいつと健也の存在は、俺にとってかなりの救いだ。血なまぐさい日常から、普通の高校生に戻してくれる。


「うっす。すっかり秋だな。そして嫌な季節がやって来ると」

 冬になると、クリスマスにバレンタイン。どっちもぼっちにとっては辛いイベントだ。

 クリスマスに暴れるハザーズは少なくない。だから待機人数が増えるし、イベントの護衛依頼も増える。

 しかも、休暇は家族持ちヒーロー優先。確かに家に帰っても一人だけど、クリスマス位ゆっくりしたい。

 逆にバレンタインは優先的に出勤している。仕事だから誰にも会わなかった、この言い訳が出来るのだ。


「悪いな。今年の俺は一味違うんだ。いわばニュー満君。白鷺との合コンで、彼女をゲットしてやるぜ」

 そう言って決め顔を作る月山。いいなー、白鷺でのコカトイエローのイメージ最悪になっていると思う。


「朗報を期待しているよ。忠告だ。健也とは席を離して座れ。美味しい所、全部持っていかれるぞ」

 月山も健也も良い奴だ。でも、健也あいつはモテる。しかも、気遣いが出来て話も面白ろい。

 つまり初対面では、健也に軍配が上がってしまうのだ。


「……今から厳しい現実を突きつけるな!でも、健也の奴、何で彼女作らないんだろ?この間もB組の子の告白を断ったらしぜ」

 告白を断る?なんて贅沢な……罰が当たるぞ。こっちは告る勇気どころかライソする度胸もいないってのに。


「部活が忙しいじゃないか?それか……好きな子がいるとか」

 まさか、健也も鷹空さんの事を好きとか?絶対に敵わないじゃん。


「……何、一人で妄想して落ち込んでいるんだよ。お前の場合は、まず話し掛ける勇気を持たないとな」

 今度は痛い所を突き返された。だって、話題がないんだもん。

 俺の生活は仕事ヒーロー中心。そっち関係なならネタを持っているんだけど。


「まずは自分から挨拶出来る様に頑張ります。それで、その合コンはいつやるんだ?」

 良いな―、本当だったら、俺も参加する予定だったのに。今からでも、頼めば参加出来ると思う。

 でも、俺は白鷺で目立ちまくった。変身しても、背格好や声は変えられない。身バレする危険性があるイベントには参加許可が降りないのです。


「再来週さ。来週、バスケ部は練習試合があるんだよ。その関係で、再来週の土日部活休みになるんだと」

 確か女子バスケ部も練習試合に行く筈。つまり鷹空さんも土日が休みって事になる…まあ、俺には関係ないんだけどね。


「健也、一年でレギュラーだから絶対に行くよな……練習試合って、白鷺でやるのか?」

 それなら、土日を使わないで平日でもやれるか。

 待てよ、健也の応援に来たって体で、鷹空さんの応援をすれば、ワンチャン仲良くなれるかも?


「埼玉に行くみたいだぞ。話変わるけど、昨日コカトイエロー撮ったんだよ。お前もいるか?」

 行けませんし、いりません。埼玉まで応援に行ったら、絶対に引かれる。


 ◇

 俺、大事な事に気付いた。もしかして、健也の彼女が出来る事を阻止する為に、鷹空さんも合コンに参加するのでは?

 俺の現状はクラスメイトの一人。彼氏どころか友達ですらない。当然、止める権利はない訳で。

 机で唸っていたら、誰かが近づいて来た。


「吾郎、この間はいきなり電話してごめんね……迷惑だった?」

 まさかの鷹空さんだった。きっと頑張っている俺へのご褒美だと思う。


「丁度暇していたから、大丈夫だよ。でも、何かあったの?」

 あれで心の傷が一気に回復したのだ。まあ、美樹本さんからのツッコミでへこんだけどね。


「バ、バイトでちょっと。ミスしたら、本店の人が助けてくれて……僕もまだまだだなって思って」

 やっぱり、バイトだったんだ。でも、休憩時間だった可能性もある訳で。


「鷹空さんのバイト先って喫茶店だよね?」

 確か止まり木って、名前の喫茶店だった筈。

 でも、あそこ個人経営だった気が……もしかして、はぐらかされている?


「うん、止まり木って喫茶店。小さいお店だけど、コーヒーも料理も美味しんだよ……あっ……今度、お店に来てよ。ご馳走するから」

 取り繕う様に誘ってくる鷹空さん。これは本気にしちゃ駄目なやつだと思う。


「うん、今度お邪魔するね。一人暮らしだから、手抜きご飯ばっかりなんだ。料理は、何がお勧め?」

 無難だけど、これで問題ない筈。でも、鷹空さんの表情が少しおかしい。なんか強張っている気がするんだけど。


「朝ご飯、何を食べたの?まさか、食べてないとか言わないよね?」

 ああ、男の一人暮らしだから、きちんと食べていないと思ったのか。

 でも、ヒーローは体が資本。三食きちんと食べています。


「今朝は、ご飯にツナを乗せて食べたよ」

 熱々のご飯とツナの組み合わせは最高だ。手軽に作れるし、お世話になっています。


「……それだけ?サラダとかお味噌汁は?」

 サラダに味噌汁か。一人暮らしを始めた頃は、作っていました。


「一人だと食べられれば良いって感じなんで……リアルにツナとご飯だけだよ」

 洗い物も少なくて済むし、直ぐに出来る。鯖缶、イワシ缶でローテーションを組めば飽きも来ない。


「……月曜から、どんな物食べたか書いて」

 鷹空さんから、断ったら駄目なオーラを感じるんですが。


 月曜日 朝・納豆とご飯 昼・学食でカツ丼 夕・冷凍炒飯

 火曜日 朝・鯖缶とご飯 昼・学食で天ぷらそば 夕・カップ麺

 水曜日 朝・トースト   昼・購買で買ったサンドイッチ 夕・袋ラーメン卵のせ

 木曜日 朝・卵かけご飯 昼・学食でラーメン 夕・カップ麺


「こんな感じかな。一人だと、作るの面倒で」

 野菜を買っても、余して悪くしちゃうし。手軽に食べれて洗い物も少ない。これが俺のご飯です。

 なぜか鷹空さんの肩が震えている。笑いを堪えているとか?


「ちゃんと栄養摂らなきゃ駄目だよっ!絶対にお店に来て。約束だからね。ライソでお店のホームページ送ったから、絶対に来る事」

 有無を言わせない迫力。健也や月山なら笑ってくれるんだけど……なんでだ?


「うん、機会があれば……行かせてもらいます」

 まさか、コカトイエロー様がビビッてしまうとは。でも、それ位鷹空さんの迫力は凄かった。


「再来週の日曜日に来る事。これは決定だから」

 ……つまり、日曜日も鷹空さんに会えるって事?合コン断って良かった!


 ◇

 翼は、心の中でガッツポーズをしていた。


「智美、再来週の日曜日吾郎が止まり木に来てくれるんだ……うん、さっきの僕を誉めてあげたい」

 何しろ、これで吾郎の合コン参加を阻止出来たのだ。翼は我ながらナイスプレイだったと自画自賛していた。


「再来週か。健也も『月山に彼女を作ってやるんだ』って張り切っていたわね」

 智美は健也が合コンを開く理由を知っている。そこには下心がなく、単純にダチに幸せになって欲しいという思いしかない。


「幼馴染みか。智美は健也にご飯を作ったりするんでしょ?吾郎の食生活聞いたら、びっくりしちゃった」

 翼としては料理を作りに行って家庭的な一面をアピールしておきたい。しかし、現状幼馴染みの様な大義名分がないのだ。


「健也も心配していたよ。吾郎あいつは自分を大事にしなさ過ぎだって」

 吾郎も健也も同い年の高校一年生だ。しかし、吾郎は小学四年生からヒーローをしている。その為、自ずと価値観にずれが出てしまう。

 自分の生活より、仕事ヒーロー。その為、どうしても自分の生活がおざなりになってしまうのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ